第5話 私が光を失った理由(わけ)

 暗殺者組合と言っても、その業務は多岐にわたる。

 実際に暗殺を行うのは全構成員の中でもトップである一握りの者たちだけで、その他は仕事を探す為の諜報や用心棒、中にはどうしても遠出する必要がある魔術師などの護衛として冒険に赴く場合もあった。

 ルシアは拾われてから数年は貧民の物乞いを装って貴族や金持ちの動向を探る仕事についていた。

 彼女を拾った構成員としては、顔立ちの整っているルシアなら、上手く行けば貴族に召し抱えられ、そこから情報を集められればと考えていたが、大方の貴族は男女問わず綺麗どころを侍らせており、いくら顔立ちが良くとも薄汚れた格好の少女を拾うような奇特な人物などいなかった。

 やがて「物乞いの少女」としては違和感がある様な年になると、組織はルシアに戦闘訓練を課す様になった。

 これまでも護身術程度の訓練は受けていたが、

 それとは根本から異なる技術。

 人や他の生物を屠るすべ

 すなわち暗殺術。

 元から戦闘訓練では同世代の中で抜きん出ていたルシアである。

 水滴が落ちた砂漠のごとく、それらの技術を吸収していった。

 その目覚ましい成長に組織の長たちは舌を巻くとともに一つの勘案を検討していた。

 それはある城塞都市の領主の暗殺。

 高い城壁と屈強の兵士に守られた都市まちは、領主の私利私欲により支配されていた。

 そこには正義はおろか悪させ存在しない。

 絶対者としての領主が有るだけだった。

 清濁併せ呑む事もないその都市は莫大な富をはらみつつ、あらゆる組織が手を出すことが出来ないまま放置されていた。

 しかし、その富を欲しがるものは数多といる。

 そのうちの一つが組織に長期計画として依頼をしてきた。

 数年に及ぶ諜報により、領主の行動を掴んだ組織は町の広場で強襲を仕掛けることとした。

 通常であれば完全武装の兵士に守られた者を暗殺するなど至難の技であるが、この時は勝算があった。

 それは単純であるが兵士以上の暗殺者を用意出来たことである。

 数の優位と奇襲による殲滅。

 およそプロの暗殺者とは思えない方法であるが、それは多くの手練が一対一の対決を拒否した事も原因であった。

 領主はその腕で地位をもぎ取った男であり、領主となって10年を数えてなおの剛腕。

 怪物と言っても過言ではない領主それを消すには技術ではなく単純な力押しを選ばざるを得なかった。

 組織内で暗殺任務をこなしたことがある精鋭が揃い襲撃当日、ルシアも騒動を起こす担当として襲撃に参加した。

 結果は暗殺側の惨敗であった。

 事前に襲撃が漏れていた事もあるが、領主の人間離れした力は熟練の暗殺者であっても太刀打ちできるものではなかった。

 襲撃者の多くはその場で切り捨てられる中、ルシアは助かることが出来た。

 それは一般市民に扮していたことも有るが、襲撃直後に迎え撃ってでた領主が振るった腕に吹き飛ばされ気絶していた為でもあった。

 騒乱も終わりかけた頃に目を覚ましたルシアはぼやける視界で周囲を見回し、敗北を悟るとその場から姿を消した。

 なんとか都市を脱出し組織の本部へ戻った頃にはすべてが闇に閉ざされていた。

 いくら明かりを灯そうとも変わらない闇は自分の視力が失われつつあることを悟らせた。

 この時、始めてルシアは個人の意志で殺意を覚えた。

 それは自分の目と仲間たちの復讐の為だった。

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