【番外編Ⅱ】妖精トムの一日

 えー、こんにちは!

 僕の名前はトム! 魔法界に生息する妖精――正確には流れ妖精のコロニーに所属しています。

 この世界において妖精は貴重な労働力であり、使い魔の餌として扱われる、人間界で言う好感度アップ専用フード。


 それを拒み、自由を求める妖精はみんな『流れ妖精』と呼ばれていて、それぞれコロニーを作り、強い魔法使いの庇護下で守ってもらっています。

 もちろん住処を提供する代わりに、生命に関わらない仕事を対価として支払っています。

 そして僕が所属するコロニーは、二一人しかいな魔法使い達の頂点の一人、【一等星】シリウス様の屋敷の森で暮らしています。


 今日は、僕の一日ルーティンを紹介したいと思います!



 流れ妖精の朝は早い。夜明けと同時にぬくぬくのベッド(布団と枕は裏庭で育てている鶏の羽毛で作っています)から起き上がり、共同の洗面所で顔を洗い、身支度。

 この時間はみんな鏡の奪い合いで、特に身だしなみにうるさいメアリーとラベンダーは一時間も占領しています。

 僕はなるべく早く済ませるように、ぱぱっと髪を水で整えています。癖毛知らずっていいですね~。


 さて、身支度を終えたらみんなで朝食。

 僕ら妖精族の主食は果物。もちろん野菜も肉も魚も食べますし、ラズベリー一個でお腹を満たせるほど小さいけれど、やっぱり大好物の誘惑には抗えません。

 今日の朝食はリンゴをキャラメリゼしたもの。あえてまだ甘くない品種を選び、それをグラニュー糖で炙ったら、ちょうどいい甘さになる。しかもパキパキ食感も良くて、この時期はみんな気に入ってここでも争奪戦です。


 僕? もちろん、僕は争奪戦に巻き込まれる前に自分の分を全部食べます!

 そうして騒がしい朝食を終えたら、お仕事の時間。

 歴代のシリウス様は魔法界創世の時代から魔法植物の栽培を生業としています。魔法植物は普通の植物と比べて扱いが難しくて、毎日手入れをしないと枯れちゃうものもある。


 でも、かなりの数があるせいで、シリウス様でも手が回らないこともしばしば……。

 そんな時、僕達の出番なのです!

 体は小さくても、力はそれなりにあるので、雑草取りも収穫も問題なくこなせます。


 今日の業務である剪定をせっせとこなしていると、温室に誰かが入ってきました。

 この屋敷の主であるシリウス様、そして彼の花嫁であるマユミ様です。

 お二人はとっても仲良しで、妖精族ぼくらの目から見てもラブラブです。


「「「おはようございまーす!」」」

「おはよう。今日もよろしく頼む」

「みんな、おはよう。今日も色々と教えてくれてね」


 いつもの朝の挨拶をして、僕達は一緒に仕事をします。

 マユミ様は魔法界に来てまだ日が浅く、忙しいシリウス様に変わって、色々と教えています。

 時々、マユミ様の失敗をフォローして、剪定で床に落とした葉を全部魔法で拾って、ゴミ箱に捨てたら温室の仕事は終了です。


 仕事が終わると、シリウス様の屋敷を管理している家憑き妖精のエリーさんが、お昼として果物を持ってきてくれます。

 その日によって持ってきてくれる果物は違くて、今日はとぉっても甘い桃でした。

 お昼をお腹いっぱい食べたら、後は自由時間! 僕は今日も、蜘蛛の巣潜りをします!


「うわーん! お助け~!」


 うう、僕としたことが……また蜘蛛の巣に絡まってしまいました。

 魔法は使えますが、そこはちゃんとしている僕。こういう時は使わない方がいいと学んでいます!

 べ、別に前に魔法を使って巣どころか木を燃やして、みんなに怒られたんじゃないですからねっ!


「あーあ、また絡まったの? トム」

「マ、マユミ様ぁー!」


 そんなことしていると、マユミ様が助けてくれました。

 マユミ様は魔法の勉強に息詰まると、よくこの辺りを散歩しています。その度にこうして僕を助けてくれるのです。

 シリウス様といい、マユミ様といい、本当にいい御方です~。


 そうして無事に蜘蛛の巣から解放されたら、お家に戻ります。

 僕達のお家はリスのように木の中で暮らしています。ですが、中はシリウス様達のお屋敷のようにしっかりしています!

 まだ羽が使えない子のために迷路みたいに入り組んだ階段、それぞれの階にはお部屋があって、生まれた子を預ける保育所などもあります。


 仕事が終われば、後は自由時間。

 僕は蜘蛛の巣を取って綺麗にした後、また外に出て花畑で遊びます。

 屋敷内に自生している花畑は、魔法植物がたまに紛れていますが、その大半は普通の植物。僕らはその葉っぱを滑り台にしたり、摘んだ花で大小様々な冠やリースを作ったりしています。


 完成したものは、シリウス様達に渡したり、気になる子へのプレゼントにしたりと、用途は様々です。

 ちなみに僕は、今日のお礼としてマユミ様に渡しています。しかもマユミ様は、これまで僕があげた花冠を全部長持ちさせる魔法をかけて、壁にかけて飾ってくれています。

 ああ、本当にとても素晴らしい花嫁様です。あまりにも嬉しくてシリウス様に自慢したら危うく串焼きにされかけましたけど!


 夕方になると、僕達はお家に帰って夜ご飯の時間。

 明日も頑張るために、夜はカリカリに焼いた鶏肉と新鮮なお野菜、そしてデザートのチェリーを食べて英気を養います。

 そしてみんなと一緒にお風呂に入って、日付が変わる前にベッドに入る。


 これが、僕ら妖精のルーティンです。

 皆様、お楽しみいただけましたでしょうか?

 色々と大変なことがあったりしますが、僕はとっても幸せな日々を送っていますよ!


 それじゃあ、バイバイ!

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