第3話 プラム&ライオン編

この2人は本当に、何年経っても何も変わらない生活を送っていた。ヘラジカたちと遊び、何もない日は昼寝と食事、適度な運動を繰り返していた。

だが、それだけではない。城は一時的に子供を預ける場所として機能し、元ライオンの部下であった3人のフレンズ、オーロックスとアラビアオリックスとニホンツキノワグマは最初こそ子守に苦労していたが今では子守のプロになっていた。


「…でねー、みんな本当に、結婚したい結婚したいって言い始めて大変になって来ちゃったんだよねー」パチッ


「そうか…大変になったもんだなぁ」パチッ


ゆうえんちのおもちゃ屋に残されていた将棋などのボードゲームを回収したプラムとライオンは、日々ボードゲームをしている。へいげんのフレンズや百獣の王の一族で大会を開いたりすることもある。


「さて、王手だ!ライオン、詰みだぞ?」


「あー!プラムは本当に強いなぁ…!」


いつも威厳があったライオンでも、夫であるプラムの前ではデレデレになってしまう。城の天守で暮らしている2人は、ここ最近は趣味であったはずの昼寝もせずにボードゲームが好きになっていた。


「…大丈夫そうか?」


「明日でしょー?うん、大丈夫…かなー?いやー、疲れるねぇー!」


「じゃあ、明日に備えて一旦昼寝しとくか!」



翌日


「ここに!へいげんボドゲ大会を開催する!」


ボドゲ大会。プラム主催の初心者から上級者、かなりの強者も勢揃いの大会である。

今やへいげんはボドゲの祭り会場のような場所になっていることもあり、各ちほーから多くのフレンズが集まっては戦い、楽しむ場となっている。あの脳筋のヘラジカでさえも今ではボドゲで落ち着き、戦略を考え、一手を打てるようになった。

今回はへいげんで暮らすフレンズ限定で行われることとなった。へいげんはボドゲの台などを管理しているプラムとライオンが住む城が近いため、ボドゲに触れることも多くあり、猛者が多い。この試合を見るためにボドゲの沼にハマったフレンズが各ちほーから集まってくるほど高レベルな大会である。

大会の内容は基本的に将棋、チェス、オセロ、囲碁などの有名なものからトランプなどのカードを使用したゲーム、マンカラや五目並べなどのマイナーなゲームまで、多くの部門を取り揃えている。

しかしフレンズだからか、例外を除いて数時間かけての高度な心理戦は行わず、短時間で決着がつくものが多い。


「さて、まずは将棋部門だ!以前決めた表に従って対戦してくれ!では、開始!」


対戦を始めた。外野も固唾を飲んで見守っている。ちなみにプラムとライオンは強すぎるため、主催として見守りながら、2人で何局もこなす。これを見に来るフレンズもいるほど、強いのである。


「…さて、やろっかー?」


「そうだな…さ、先行はいいぞ?」


「んー、じゃあありがたくもらうねー」


いつも通り、暇つぶしのつもりでやっているが、周りのフレンズからすれば高度な心理戦が繰り広げられているように見えてしまう。


「ねぇ、プラムって何歳だっけー?」


「59歳だが…何かあったのか?」


「いやー、ここまで時間を気にしないで昼寝だとかボードゲームしているとねー、時間の感覚がわからなくなってくるんだよねぇー」


「…それはわかる」


実際プラムとライオンは結婚しているが、今では相棒という意識が強くなっている。ライオンが子供を産むことができなくなってからは交尾もしなくなり、昔の暮らしに戻っていった。子育ての仕事を終え、肩の荷が軽くなった2人がやりたかったことは自由に過ごすことだった。だがボードゲームという趣味を見つけてしまった以上、これを活かさないわけがなかった。


「…近いうちに俺たちの結婚記念日があるわけだが…何か欲しいものはあるか?」


「そういうプラムだって欲しいものはあるの?私としては久しぶりに子作りしてもいいけどねー?」


「はは…子供は、もう作れないんだろ?それに、疲れるからあまりしたくない、だろ?」


「まぁ、私の意思ももういいかなーってなってるしねー?」


雑談しながら打たれている一手一手全てに2人の策略が絡んでいる。次はどの手を使うか、いつも通りの会話をしながらゲームを進めていく。


「…せっかくだし、俺が結婚記念日に美味い飯をたらふく食わせてやる!それでどうだ?」


「いいねぇー!肉がたくさん食べたいかなー?」


「おう、用意しておくぞ!」


2人は相棒という意識が強くなりつつも、互いを愛する気持ちが変わることは決してなかった。変な形であっても互いを愛し続ける。それがフレンズらしい愛の形ではないのか、と考える。


「今日も大層な大会開いてるじゃあないか!」


「おっ、ヘラジカもやるか?」


「いや、私は遠慮しておこう!」


ヘラジカ。まだライオンに勝つことを諦めていない。ちなみにボドゲでも勝てたことは一度もない。ライオンに関してはプラムから教えてもらっていることもあるが。


「あいにく私はこういう頭を使う遊びが苦手だからな!」


「…そうだな…ヘラジカにもできるボドゲ…」


「いやぁー、キツイんじゃない?ほとんど頭使うしー?」


「それはそうだが…ヘラジカにもできるボドゲ…あ、あれがあるな…」


ヘラジカは座って長考するよりも実際に動くことが好きなフレンズ。であればあのボドゲが適していた。


「ツイスター、なんかどうだ?」


「「ツイスター?」」


「とりあえず、大会が終わったら説明しよう。いつものみんなもそこにまとめておいてほしい」


「あぁ、待っているぞ!」


ヘラジカが猛ダッシュで帰って行った。


「…ヘラジカにもできるの?それ」


「あぁ。動くのが好きなヘラジカだからな、いいボドゲだろうな…!」



ボドゲ大会を終え、ツイスターの道具を持ち、ヘラジカたちが活動する場所へと向かった。その間、プラムからニヤケが止まらず、内容を知らなかったライオンからは終始不思議な目で見られていた。


「待たせたな!」


「おぉ!やっと来たか!皆も集めておいたぞ!」


いつもの皆、シロサイ、オオアルマジロ、アフリカタテガミヤマアラシ、ハシビロコウ、パンサーカメレオン。昔からの付き合いが長いフレンズたちである。


「で、そのツイスターとやらはなんでござるか?」


「とりあえず見せるとしよう。こんなのだ!」


四色の丸が広げられるシートにその場にいるフレンズは皆目を広げた。


「…えっと、何これ?」


「座りやすそう…」


「ま、まぁ座れなくはないが…これはゲームが繰り広げられるフィールド、だな。試しにやってみよう。ヘラジカ、上に乗ってくれ」


「私でいいのか!なら!」


ヘラジカは本気でワクワクしていた。ライオンとの戦いを望んでいるヘラジカからしたら戦う手段が増えたことになる。昔から続けていたチャンバラごっこのようなものも続けていれば飽きるものだった。


「じゃあ、俺がこのカードを引いていく。そしてそのカードに書かれていることを読み上げるから、ヘラジカはそれに従ってくれ」


「あぁ!さぁ、引いてくれ!」


「…最初は、右足を黄色に乗せてくれ」


「ん?黄色ならどこでもいいのか?」


「あぁ。どこでもいいぞ?でもそこでいいってなったら、動かすなよ?」


「…よし、おいたが…」


「じゃあ、次は…左手を緑に置いてくれ」


「…よし、置いたぞ?」


「次は…左足を赤だな」


「…なんなんだこれ、置いていくだけなのか?それだとつまらない気が…」


「まぁまぁ、ここからだ!…お、バランスがいいな。右手を、青に置いてくれ」


「なっ!?右手で青!?」


左手の先に青があった。非常に置きにくい場所でもある。


「そう!これがツイスターの醍醐味!今は楽だろうが、複数人でやればもっと辛くなるぞ!」


「確かに、これは辛そうだな…!さぁ、次を引け…!」


「待て、みんな、ルールは理解できたか?」


「えぇ、理解できましたわ」


「楽しそうですぅ!」


「ところで、これってどうなったら負けなの?」


「負けか?右手、左手、右足、左足以外の体の部位が地面についた瞬間負けだな。あとは、無理だと判断してギブアップした場合もだ」


ツイスター…下手したら体を痛めかねない危険なゲームだが、それ故に面白いものでもある。


「さて…まずは3人でやってみよう。俺が読み上げるから、あと2人入って欲しい。あ、ヘラジカは元に戻っていいぞ」


「なら私が入るねー?」


「お!ライオン、早速来たか!」


「…誰やる?」


「じゃあ私が!」


最初の勝負はヘラジカ、ライオン、オオアルマジロの3人が行うことになった。


「じゃあやっていくぞ。順番に、指名していくからな…」



「ヘラジカ、右足を緑に置いてくれ」


「く、クソ…!こんなにもキツイものなのか…!?ライオン、どいてくれ…!」


「無理ぃ…!」


「す、すごいプルプルしてるぅ…」


何度見てもこれは感じる。これがツイスターの醍醐味。やってる側は辛いだろうが、見てる側はすごく面白い。


「…こ、こうすれば…どうだ…!」


「おぉ!すごいな!じゃあ…アルマー、左手を黄色に置いてくれ」


「えぇ!?無理だよー!」


「無理か?ギブか?どうやって置くか思考を凝らすのもいいが…確かにそれはキツイな」


「…無理ー!ギブー!」


ここでオオアルマジロが脱落してしまった。奇しくもライオンとヘラジカの勝負になってしまった。


「さぁライオン…!ここからが、勝負だ…!」


「負けない…からな…」


ここでライオンもいつもの怖い表情全開で威圧してきた。だが無情。指示は続く。


「ライオン、左手を緑に」


「おっ、色が同じの場合は…」


「同じ色の場所に入れ替えてくれ」


「楽だねー!」


「ヘラジカは…右足を赤に」


「何!?右足を赤に!?反対側だぞ!?」


「ほい、頑張れ」


「く、くぅぅ…!ど、どうだ…!」


「そこは青な。もう一個あっち側だぞ」


「嘘…!?」


…実を言って仕舞えばプラムにとってこの光景は実に見にくいものだった。2人ともスカートだから、2人が取った体制によれば下着が見えてしまう。プラムもオス、そして紳士故、見るのは失礼に当たる。


「…今度こそ…どうだ!?」


「おぉ、流石だな!じゃあライオンは…おっと?左足を緑に動かしてくれ」


「ちょっ!?ヘラジカ!邪魔!」


「邪魔と言われても、動けないぞ!?」


今の体制はヘラジカがライオンに覆い被さるような形になっているため、非常に邪魔になっている。


「くぅぅ…!」


「大丈夫か?」


「だいじょ…ばない…!」


「体を痛めるくらいならギブしたほうがいいぞ。後に響く。あと、一応これは練習でもあるから無理しなくてもいいぞ」


「じゃあ…終わる…!」


「お!ギブか!なら今回の練習マッチ、ヘラジカの勝利だ!」


「おぉ!!勝ったのか!」


「いやー…想像以上に大変なボドゲだねぇ…」


「まぁ、こんな感じだ」


「これなら私も楽しくできそうだ!ところで、必勝法とかはないのか?」


「必勝法か…必ず勝てる方法は無いな。でも勝ちやすくする方法はいくらかある」


「おぉ!それは…」


「いかに自分が楽な姿勢をとって、相手に大変な姿勢を押し付けるかが重要、といったところか。だが楽しむことが第一だということを忘れるな?」


「確かに、楽な姿勢をとっていれば動かすのも楽になるということか!」


「ちなみにだが、妨害はダメだぞ。くすぐって相手の姿勢を崩したり攻撃はダメだぞ。スポーツマンシップに則ってないということで脱落にするからな」



数ヶ月後

ヘラジカたちが広めたのか、ツイスターは知らず知らずのうちに大流行していた。へいげんに訪れたフレンズたちがツイスターをやらせてほしいと殺到するため、ゆうえんちのおもちゃ屋から再び回収しに行き、貸し出した。

そして…


「えー、ここに百獣の王の一族によるツイスター大会を、開く」


ついに百獣の王の一族でもブームが巻き起こり、急遽大会を開くことになった。ちなみに大会の景品は大会で優勝したという自己満。急だったから報酬を用意できなかった。


「ルールは皆理解しているだろうから省くが、この一族は荒っぽいフレンズが多いからこれだけは何度も言っておく。妨害は、禁止だからな?」


一応落ち着いているフレンズはいるが、体が大きいフレンズが非常に多いため、特別に大きめのツイスターを用意した。ツイスターの大会という初めての試みもそつなくこなそうと思っていたが…


「…これって、私もいてよかったのか?」


まさかのビャッコが例外として参加した。シーサーの2人が連れて来た。カエデからは楽しんでおいで、ということで許可は取っているらしいが、異例すぎて少し驚いている。ビャッコはすでに例外だがカエデの妻ということでオオカミ連盟に参加しているというのに。


「…まぁ、いいんじゃないか?」


「そうだよ。せっかく来たんだから、楽しんで行ってよ」


「…そういうなら、楽しませてもらうとするか?」


…だが肩身が狭そうにしているフレンズが約1名。


「…むぅ」


ホワイトタイガー。度々ビャッコとカエデと手合わせしているフレンズである。手合わせ相手がまさかプライベート先にいるとも思わなかっただろう。


「ホワイトタイガー、私のことは無視して楽しんでいいからな?」


「いや、我は…」


「…あー!そういうなら私は全力でやるからな!容赦しないからな!ホワイトタイガーも全力で来なければ負かすがいいのか!?」


「…!いや、我が勝ってみせる!」


「よし!その意気だ!」


「…良さそうだな」


「いやぁ、プラムもこのまとめにくいグループをまとめられるようになったねぇー」


「このグループのリーダーになってもう27年くらいか…?最初は舐められていたが、どんどん認められるようになってきたからな…」


「今じゃみんなが認めて、信頼して、慕うリーダーだからねー、すごいよ?」


「…そういうなら、そう受け取っておくが…改めてそう言われると、嬉しいな!」



結果、優勝はホワイトライオンだった。正直ホワイトライオンが優勝するとは思ってなかった。優勝候補として体が柔らかいチーターを考えていたが、あのほんわかとした性格のホワイトライオンが優勝するとは思ってなかった。そして全体的に髪の毛の毛量が多いため、プレイしづらそうだったのが懸念点だった。

そして、百獣の王の一族が集まった時のテンプレパーティーが、始まる。


「よし!パーティーだ!たくさん食え!」


「みんな大好き肉料理をプラムが死ぬ気で作って、それをバイキング方式でお腹いっぱいになるまでみんながたらふく食べる、というのが百獣の王の一族におけるパーティーのテンプレ。大変だと思うが、プラムにとっては料理が昔と比べて楽しくなっていたため、全く苦ではなかった。


「なぁ、この肉はなんだ?外側が黒いが中が赤い…」


「あぁ、ローストビーフだな。今日のメインだぞ!数枚とって、野菜もとって、好きなソースをかけて、野菜と一緒に野菜を食べてくれ。おすすめはその茶色のオニオンソースだ!」


「そうか!遠慮なくいただくとしよう!」


「他のみんなの分も考えて取れよー」


「これはいつものもやし炒めとは違うように見えるけど…」


「あ、それはいつものもやし炒めとは味を変えてあるぞ。味はうまいから安心しろ!」


プラムが創造の能力を行使できたときから作ってある図書館にあるようなキッチンが併設されており、そこで多くのフレンズの質問に答えながら料理を作り続けながら、手が空いた時に急いでご飯を食べる。それがプラムの仕事だった。


「プラム、手伝うよー?」


「あ、ライオン。もう少しゆっくりしてていいんだぞ?」


「いやー、もうお腹いっぱいになっちゃってねー?それに、私はプラムの妻なんだから、手伝いたいな?」


「いや、あまりライオンには苦労をかけたくは…」


「プラム?私たちは夫婦だよ?協力してこそ、じゃない?それとも…愛する妻の話が聞けねぇって言うのか?」


「…お手伝い、お願いします」


「オッケー?」


いつ見ても、夫のプラムであっても、ライオンの威圧的な瞬間は恐ろしいものだった。


「ははは!流石のリーダーもまだライオンには尻に敷かれるか!」


「まぁ…あまりライオンには苦労かけさせたくないからな」


「苦労しあってこその夫婦、じゃないかな?」


「そうだぞ、プラム。少なくとも私の家では苦労をカエデと一緒に分け合っているぞ?優しいのはいいことだが、その優しさで体調を崩したら相手は悲しむんだぞ?」


「…それも、そうか」


「プラム?私は大丈夫だから、もっと、遠慮しないでほしいなー?ほら、景気付けにぐいっといっちゃいなって!ほらー!」


「んんっ!?」


酒を飲まされる。しかもプラムが感じたのはかなり強めの酒。城に保管していた、結構美味しい、秘蔵酒の一つ。ちなみに長年放置するのは大変故、すこーし時間を早めてもらった。


「ライオン…仕事中の旦那に酒を急に飲ませるのはどうかと思うわよ…」


「でもプラムはかなり酒に強いし…?」


「あぁ、美味いな。何杯でもいけるな」


「えぇ…?」


「ライオン、注いでくれ」


「おぉ、飲むねぇ!」


「飲んじまったものは、仕方ないからな!さ、飲むぞ!秘蔵酒だから美味いぞ!」



結果、皆酔い潰れてそのまま寝てしまった。ビャッコはカエデが待っているから、と酒を飲まずに帰ってしまったが、その他のいつものメンバーは数日かけて集まりを行う故、何も問題はない。


「ふぅ、これで終わりか…」


「お疲れ様ー?」


「おう、お疲れさん」


そんな中、プラムとライオンは全く酔っていない状態で仕事をこなし、今全てを終えた。一番酒を飲んでいたはずの者が最後まで残っている、ということでもある。


「…すまない、少し暑くなって来た。汗もかいているから少し近くの水場で水浴びしてくる」


「あ、じゃあ私も行こうかなー?」


「お、じゃあ行くか」



本来なら皆が順番で風呂代わりの水浴びをするはずの水場まで来た。浸かれるくらいの底があり、そこで水浴びをしてから寝るのがいつもの集まりだったが、今回は2人で来ている。

ちなみに2人は長年生きて来た影響か、互いに感じる羞恥心というものが無くなっている。故に…


「冷たくて気持ちいいねぇー!」


「あぁ…そうだな…!久しぶりに水浴びも、悪くないな!」


互いに裸で水浴びをしている。これも、長年2人で一緒に風呂に入り、愛し合った結果でもある。


「プラム、お願いだから、今後も私を頼ってほしいなぁ…私も確かにだらけるのが好きだけど…それ以上にプラムの助けになりたい」


「そんなまっすぐな目で見ないでくれ…恥ずかしいじゃないか…」


「まぁ、寝てる時は勘弁してほしいけどねー?」


「…はは、ライオンらしいな?」


「たまには私がご飯を作ってもいいんだよ?」


「…じゃあ、2人きりの時にでも頼むとしようか?」



水浴びを終え、戻り、2人も寝付き…

翌日

プラムが誰よりも早く起き、皆の朝食を作ることが恒例となっている。だが、今日はいつもと違う。


「えっと、こうすればいいんだよねー?」


「あぁ、問題ないぞ?」


いつもは一人でこなしているはずなのに、いつもはまだ寝ているはずなのに。今日はライオンが隣で一緒に料理を作っている。好きなことである、寝ることも我慢してプラムとの共同作業に勤しむ。そして、ライオンなりの配慮もあった。


「…んぁ?毛布なんかあったか…?」


一族が集まる場所は夜でも過ごしやすく、フレンズは毛布無しでも寝れるが、昨晩ライオンが全員寝た時に少し城に走って行き、全員分の毛布を取りに行っていた。昨晩のことでライオンも少し思うことがあったのか。寝るばかりではなく、少しでも夫を労い、仕事を減らしてやることを覚えた。いや、思い出した。いつも通りの生活でただダラダラ過ごして、プラムと趣味をこなし合う関係になっていたライオンにとって、相棒という関係が相応しかったが、この瞬間で改めて夫婦という関係を再認識したのかもしれない。


「ふふっ、暖かいね、ルビー」


「そうですわね…ただの毛布の暖かい感覚だけではない、優しい暖かさですわね。ルターさん」


…特に、シーサーの2人に関しては過ごしやすいかどうかなんて関係なく、本当に寒そうだが。


「皆、おはよう。起きたやつから水場で顔洗ったりして、朝ごはんを食べてくれ。今日の朝ごはんはサンドイッチだからな。昨日余った肉も使ってるから食べ応えバッチリだぞー。あ、野菜のサンドイッチもあるから自由に選んでくれ」


あれだけ個性の強いメンバーを仕切るプラムの大変さを、ライオンは知っている。だからこそ、できる限りの労いと手伝いを。夫婦としてではなく、元リーダーとして。その上で、夫婦としてのサポートをする。それが、ライオンが学んだ一つのことである。



あの数日間で2人に愛でも絆でもなんでもない、何かが芽生えたのは間違いないことである。なぜ、あれだけ2人で共に暮らして来ているのに今更心が変わり、いつもしてこなかったような行動をとるのか。正直2人にもわかっていなかった。ただこれだけは言えることがあった。互いのために、楽になろうと。


「でさー、あれがあーなったからさぁ…」


「ははっ、そんな説明じゃ何もわからんぞ?」


そんな2人もいつも通り、将棋で勝負をし合う。何も変わらない、ただ楽をしながら、ただ2人が楽しく生きていられる空間を作るために2人は生きていた。

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