12・家中掌握 壱


 母をチラリと見ると頷いたので俺から話を始める。

「では上之郷の大叔父上。まずは川出の状況から頼みます。」

「心得た。」

大叔父はそう答えると一息起き、

「結果から申せばいつもの通り痛み分けと言えよう。横手の一件で一時的に押し込まれたものの何とか踏み止まった結果、相手もこれ以上は無意味と思ったのだろう徐々に戦線を下げお互いに引き上げとなった。勿論、双方被害は例年以上だったのは言うまでも無いがな。」

そう話した。

「当面大人しくなりそうな規模の被害でありましょうか?」

狭邑の大叔父がそう尋ねる。

「それは何とも…被害は多いが壊滅的ではない。となれば、冬に実野の連中が今度こそとなってもおかしくないし、三田寺の者達が次はこちらとばかりに息巻いてもおかしくはない。そんな按配と言えましょうな。」

それに対する上之郷の大叔父の答えに全員うんざりとした表情を浮かべる。

「つまり、当面緊張状態は続くと言う事だな。守谷の守りは継続だ…」

俺がそれを引き取りそう纏める。


「若、秋の刈入れの時は。」

それを受けて爺がそう促して来る。

「向こうも同様に刈入れだろうから無茶はしまいが、平野に近いこちらと盆地のあちらでは刈入れの時期に若干のズレはあろう。そこを突いて来るやもしれぬし、こちらの方が可能性は有りそうだが、刈入れに合わせて賊を送り込んで来る可能性は捨て切れん。入谷の守りは必要無かろうが、守谷は空には出来んな。」

「人が足りませんな…」

俺の答えを聞いて狭邑の叔父が渋い顔をする。

「だが、それはどの勢力も変わるまい。横手とて男手を大分失っておるはずだ。それに刈入れについては一つ考えが有る。」

「どの様な?」

それに対して俺がそう言うと、叔父は興味を持った様子でそう聞き返して来る。

「山之井郷でも平野に近い落合や下之郷は、山に近い狭邑や上之郷よりも若干だが実りが早いはずだ。」

「まぁ、確かに。しかし、言っても数日も変わりますまい?」

「うん。だから、落合と下之郷が刈入れ出来るとなったら、狭邑と中之郷、上之郷の衆を投入して一日で一気に刈入れてしまうのだ。そうしたら順に次の日は中之郷と狭邑とやって行く。問題なのは働き手の減った田の刈入れに時間が掛かる事だろう?誰の田だの関係無く片っ端から刈入れてしまえば何とかならんだろうか?」

「悪くないのではないか?」

「しかし、刈入れる量は変わらんのです。仕事の量も変わらんと思いますが…」

俺の提案に対して、そういくつかの意見が出た。

「確かに仕事の量は変わらんが、辛いのは目の前の仕事が進まない事、終わらない事だろう?要するに心が重くなり手も遅くなるのだと思う。だが、大人数で掛かれば終わりが見えるから心が軽くなり手も早くならないだろうかと思うのだがどうだろう?」

それに対して俺がそう考えを述べると、

「儂は一理有ると思うが。」

「某もそう思いますな。」

「確かにそう聞くと良さそうに思えますな。」

最後に狭邑の叔父もそう言った。


「では、刈入れはその方向で行こうと思う。話がそれてしまったが大叔父上、続きを。」

俺がそう促すと上之郷の大叔父が再び話を始める。

「戦のあらましについてはそんな所だ。儂が着いた時には再度の膠着の只中だった故な。それから三田寺殿は早急に跡継ぎを決めて欲しいとの事だ。」

話が本題に入った。広間に急速に緊張感が広まるのを感じる。


「それで、三田寺殿は跡継ぎにについて何か申しておられたのですかな?」

最初に口を開いたのは爺だった。

「いや、それについては何も。只、早急にとだけだ。」

「だろうな…」

大叔父の答えを聞いて俺はそう溢す。

「確かに今、三田寺が山之井の跡継ぎについて口を出せば、その為に殿を見殺しにしたと言われかねませんな。」

俺の呟きを受けて、爺がそう言葉を継ぐ。

「だが、御爺も家臣の手前、俺を当主にとも言えんのだろう。」

「「むぅ…」」

俺がそう返すと皆が唸る。出来れば寄親のからの御墨付が欲しいのだろう。

「兄上、宜しいでしょうか。」

そこへ、紅葉丸が遠慮がちに口を開く。

「どうした?」

「某から皆に、そして母上に伝えたい事が御座います。」

俺がそう返すと、紅葉丸は決意に満ちた目でそう言った。

 そうか、話すか。自分から話して母上に…では、俺も叱られる覚悟をせねば。

「…分かった。」

俺は静かにそう答えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る