愛しい婚約者 sideイアン

僕には婚約者がいる。

貴族ましてや王子として生まれたからには政略結婚は当然の定めだ。それは理解している。

ただ貴族の令嬢というものはとても面倒くさい生き物だ。

甘やかされて育てられ、我儘で傲慢な令嬢ばかり。

両親共に溺愛している公爵家の令嬢なら尚更そうだろう。期待はしていなかった。

政略結婚の相手としては丁度いいし、婚約者としての責務さえ果たしてくれるなら誰でも良かった。


見舞いも婚約者としての体裁を保つため。

そのはずだった。

「その件に関してはお詫び申し上げます。完全にこちらの不手際です。」


おかしい。

この令嬢は確かに我儘で性格が悪いと有名だったはず。

甘やかされて育った令嬢がこんなにも礼儀正しいなんてことあるだろうか。

前の顔合わせとは雰囲気があまりに違う。この一週間で何があったんだ?

それに、僕に微笑まれて頬を染めず表情一つ動かさない令嬢は初めてだ。


...笑ったらどんな顔になるのだろうか。

今まで出会ったことのないタイプの令嬢に興味を持った。


「王家御用達のスイーツです。シャーロット様は甘いものがお好きと聞いていたので。」

「...スイーツ。」

スイーツ好きと聞いていたが気に入らなかったのだろうか?

喚かれたら面倒だな...。

やはり宝石やドレスの方が良かったか。

「お気に召さなかったら申し訳ございません。」

「食べてもよろしいですか?」

「どうぞ。」

 

「ふわぁ...おいしいぃ...。」

...まるで天使のようだと思った。

なんだこれ。反則だ。

さっきまであれほど無表情だったのに。

美しいだけの令嬢なら今まで沢山見てきたが、彼女は他のどんな令嬢とも違う。


生まれて物心がついた時から、僕の人生はつまらないものだった。

何でも人よりこなせるし、何でも手に入る。

自分から何かを望むなんてこと、一度も無かったのに


笑顔を見せて欲しい。

僕のことだけ見て、僕にだけ笑って欲しい、

ただの幼い少女に、こんな感情が湧いてきたのは初めてだ。

僕は案外貪欲な人間だったらしい。


「ではこれで。シャーロット、また来ますね。」


君には感謝しているよ。

君のおかげで僕の新たな一面に気づくことが出来た。


でも、もう嫌だって言われても絶対に逃がしてあげないからね。


僕の愛しい人。

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