第40話 急接近〈宮野小春視点〉
私は特別な人間じゃないと思う。
だからこそ、誰かの特別になりたいと感じてしまう。
誰かの……ううん、君の。
「私は本当に運がいいと思う」
この言葉にゆうちゃんは驚いていた。
でも私は本当に運がいいと思う。
ゆうちゃんとは、昔からの知り合いだし、家も隣同士の幼馴染。
幼馴染のお姉ちゃんというポジションもある。
でも、それじゃあダメなんだ。
君の特別になれない。だから今日、私はそれをやめる。
君のお姉ちゃんという居心地のいいこのポジションを捨てて旅に出ようと思う。
――――たとえ、たとえそれが自分にとって傷つくことになるとしても。
ゆうちゃんの驚いた顔可愛いなぁ……
「私には何もないから……諦めようとした」
私、ゆうちゃんのこと諦めようとしたのにさぁ……。
君の幼馴染のお姉ちゃんとして、頑張るつもりだったのに。
会えないと会えない分、その人と会った時に魅力的に感じるんだろうね。
だからこそ、だめ、この言葉を言ったら確実に君が困る。
でも、でももう止められない。
「君のことが好き」
言っちゃった! やばいやばいっ!
でもでもっ、返事はまだいいって言ったからフラれるとしても今日じゃない!
春姉って呼ぶのを禁止にした。
いつまでも呼び方すら変わらないのはちょっと嫌だった。
でも、名前で呼んで? って言うと、ゆうちゃん、いやゆうくん、恥ずかしがってるのがまた可愛い。
ほんと、ぎゅっ~、ってしてあげたい。
わざと困らせるようなこと言って近づくと、顔をそっぽ向けて気まずそうに、でも嫌じゃなさそうな顔をする。
「こ、小春……おやすみ」
この自分の名前を呼んでもらえた嬉しさで、私はその場でぴょんぴょんと飛び跳ねそうだったよ。
どうしてくれるんだ、まったく。
私にはなにもない、だからこそ、君の隣を歩きたい。
だからこそ、いつも知っている君のことを。
私の知らない君のことを一番近くで見ていたい。
姉というポジションじゃあ絶対に見れない、景色を……君の隣で。
◆
「はぁ…………」
俺、鷹村優弥はこの長いようで短い夏の出来事にお腹いっぱいだと膨らませていた。
まだ、狩人先輩との夏祭りがあるし。
生徒会の仕事だってある。
いつからこんなに忙しく、充実する毎日になってしまったのだ。
それにしても……春姉、いや小春が告白してきたのはさすがに驚いた。
弟扱いされていたんではなく、俺が姉として彼女を見すぎていたのかもしれない。
だから小春は一人の女の子として、俺に自分を見てほしいと言ったのだ。
「――――っていうか、返事っていつ返せばいいんだよ」
こういう告白みたいなこと、一度もされたことがない俺からしたらいつ返事をすればいいのかわからない。
そんなこと考えるのに夏休みという貴重な日々を費やしていた。
明日は夏祭りだ。
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