第41話 夏祭り

 カランカランッと乾いた地面をけるいい音が鳴る。

 その方向を見ると、浴衣姿の狩人先輩の姿があった。


「優弥~、すまないなぁ、遅れてしまって」

「いいですよ先輩っ、待ってないですし、先輩こそ大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……問題ないっ」


 狩人先輩はそう言うと、なにやらソワソワして、浴衣姿の自分をチラチラと確認するように見たり、俺の顔を見てくる。


「浴衣を着てみたんだが……ど、どうだ?」

「もちろん似合ってますよ?」

「ほ、本当かっ? 嘘じゃないか?」

「嘘じゃないですよ」


 こんな時に嘘をつくほど俺は器用じゃない。

 狩人先輩の浴衣姿は本当に綺麗で似合っている。


 長い黒髪を結んで編んで、仕上げてきた髪の毛とも相まって浴衣が狩人先輩の大人な魅力が引き出されている。


「それじゃあ、これからどうしましょうか?」

「そうだな、屋台でも見るか」

「そうですね、俺はかき氷とか食べたいですね」

「よし、買いに行くか」


 そう言って俺たちは次の目的のために屋台へ向かった。

 夏祭りだからか、人が多い。


 俺と狩人先輩は隣で歩きながら、屋台の人混みへと消えていった。


 しかし、狩人先輩は美人なので俺が横にいたとしても男から声をかけられてたりする。


 あれ? 俺の存在忘れられてる?


「ほら、ブルーハワイ」

「あ、ありがとうございます……300円でしたよね」

「なに、気にするな、これはお礼だ」

「お礼……ですか?」


 何かお礼をされるようなことしただろうかと考えていると、微笑むような、苦笑いのような表情で口を開く。


「ははは、私が一方的に感謝をしているだけだ」

「はぁ……そうですかって、だったら尚更お金は払いますよ!」


 俺がそう言うと狩人先輩はその提案を跳ねのける。


「受け取ってくれないか?」

「わ、わかりました……」

「あぁ、ありがとう……」


 そんな表情をされたら断れませんよ。

 恥ずかしそうに、頬を染めながらくしゃりと笑ってくるなんて。


 反則だと思います。


「あ、射的……」

「ん? やりたいのか?」


 俺がぼそりと呟いた言葉を狩人先輩は逃さなかった。

 射的の屋台の目の前で俺に聞いてくる。


「あ、いえ……やりたいわけでは」

「そうなのか? てっきりやりたいのかと思ったぞ」

「ごめんなさい、ただ……」

「ただ?」


 狩人先輩は小首を傾げながら聞いてくる。


「えっとですね、荒風先輩、絶対に似合うだろうな~って見てました」

「似合う? 射的がか?」

「はい、銃を構えてるところなんて容易に想像できます」

「そんな姿を容易に想像するな」


 狩人先輩に少し怒られてしまった。

 いや、叱られたといったほうが正しいだろうか。


「仕方ない、やってやろう」

「え、いいんですかっ?!」

「あぁ、見ていろ」


 そう言いながら銃を構え照準を合わせる。

 そして息をスッと殺し、目で狙いを定め銃口からポンッと可愛らしい音と共にコルクが発射される。


 見事命中、流石です狩人の名に恥じない凄さでした。


 俺は彼女に対して無意識に敬礼していた。


「どうだ!」

「すごいですよ、一発で!」

「ふふふ、そうだろう?」


 くしゃりと笑いながら、撮った景品を顔の横に持っている。

 俺はその姿を心のカメラに収めておいた。

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