第37話 天気予報の雨

「お姉さん、一緒に遊ぼー」

「上着脱いでよー」


 男子生徒が春姉と一緒に遊びたいのか、手を引っ張りながら川の近くへ行こうとしている。


 春姉の水着を見たらそれこそ、同い年の子なんて目に入らなくなる。

 それに、上着を脱がせようとしている時点でエロガキ認定だ。


「ようしそれじゃあ!」

「春姉、ちょっと」

「え、なに?」


 さっき言ったこと分かってるのかよと言いたくなる。

 ミクとミカがこちらをジッと睨んでいる。


「春姉、俺たちの仕事は遊ぶことじゃないぞ」

「そ、それもそうだね……」

「それにあいつらがこっちを見てる」

「あらら……」


 春姉は頬に指を当て考えている。

 何か閃いたのか、ミクとミカの方へ歩いていく。


「暑いよねー、ほんと嫌になるくらい」

「…………別に」

「川遊び気持ちいと思うよ? 水冷たくて」

「子供っぽいからいや、それに……水着も似合ってないし」


 チラッと春姉の方を向く。

 まぁ今の春姉は理想の女性像みたいな感じになっているからな。


 自分を卑下してしまうのは仕方ないと感じる。


「でも、水着見てもらいたい人いるんだよね?」

「そ、それは……いるけど」

「じゃあ、行かないと後悔しちゃうと思うな」

「だって……お姉ちゃんみたいに、おっぱい大きくないし」


 そう言いながら、ミクは自分のまな板をぺたぺたと触っている。

 こういうのは見てはいけないと察し、俺はそっぽ向く。


「そんなの関係ないよ、女の子の本当の魅力はそこじゃないよ」

「――――っ、じ、じゃあなに!」

「それは私にもわからないんだよね」

「なぁんだ、結局そういうかんじ?」

「だって知ってたら、魅力を磨いてるよ。そして……」

「そして?」


 ミクが首を傾げながら春姉に聞く。

 しかし春姉はそこで言葉に詰まる。


 言いたくない、というよりも言うのが恥ずかしいといった感じだ。

 その証拠に彼女の頬がほんのりと赤くなる。


「な、なんでもないかな! ね? ゆうちゃん」


 春姉はそう言いながらなぜか俺に同意を求めてくる。

 助け船を出してくれと言わんばかりの子犬のような瞳をしている。


「まぁ、そうだな魅力そのものが分かったら、恋で苦労する奴は激減するだろうな」

「ふぅん……お姉ちゃんもこっち側かー」

「だね」

「こっち側?」

「うん、なんか仲良くなれそう」


 ミクがそう言った瞬間、春姉がミクに飛び掛かる。


「えー! 仲良くしよーよ!」

「く、苦しいっ!」


 ぎゅうっと春姉が抱き着く。

 はぁ、また人との距離感がバグってるぞ。


「春姉、距離近いって」

「あ、ごめん……」

「やだ! やっぱ嫌いっ!」

「あ、待ってミクちゃーん」


 二人はそう言いながらビュンッといった感じで、川の方へ逃げていく。


「作戦成功?」

「うっ、気づいてたんだ?」

「そりゃあ、急に川とか水着の話とかしてるから」

「うん、見てほしい人に見てもらわないと、女の子は後悔すると思うから」


 その言葉に先ほどの言葉が頭に蘇ってくる。


 さっきの言葉は誰に向けた言葉なんだ?

 生徒会の友達? もしかして男とか?


 いや……まさかの……。


「ゆうちゃん? どうかした?」

「あ、いや……その」

「なぁに? ぼーっとして」


 春姉はそう言いながら俺の顔を下から覗き込んでくる。


 あの時の言葉はなんだったんだ、いやもう聞いた方が早いか。

 俺は勇気を出して聞くことにした。


「春姉、さっきの見せたかった人って……」


 春姉はそう聞こうとした瞬間、俺の唇に人差し指で蓋をしてきた。


 唇に指先の感覚が伝わる。


「ダ~メ」


 え、え……心臓の鼓動があり得ないくらい早くなる。

 おかしい、自分の身体がおかしくなってしまった。


「はる――――」


 春姉の名前を呼ぼうとしたその時だった。


 川の方から大きな声で叫ぶのが聞こえてきた。


「うるっさい! ケンタなんて知らないっ!」


 そう叫びながら走っていく、ミクの姿が見えた。


「ゆうちゃんは、男の子たちの方をお願いっ! 私が追いかけるっ」

「お、おう……」


 俺は春姉の指示通り、男子たちの方へ行く。

 全くなにしたんだよ、また変なこと言ったんだろ。


 でも、俺もミクの声に反応して、すぐに追いかけようとしたのに。

 春姉の方が圧倒的に早かった。


 俺に男子の方を見るようにと指示を出し、自分は彼女の方へ走り出していた。


 俺は春姉にはまだまだ敵わないと素で感じた。


 話を聞くと、やはり男子たちがミクの水着を子供っぽいなどとからかったらしい。


 ミカはケンタたちに対して激怒しているが、先生がそれを止めている。


「なに? 天気予報が変わって雨が降る?」

「その話、本当ですか?」

「あぁ、本当だ、サイトやアプリでも天気が変わっている」


 生徒会長にスマホを見せてもらい、まだ春姉たちが帰ってきていないことに不安が生じる。


 俺はその時、身体が先に動いていた。

 今になればこういう時こそ冷静になるべきなのに、俺は走り出していた。


「鷹村っ! どこへ行く!」

「すみません! 急用を思い出しました!」


 川沿いに走っていくと、ぽつぽつと雨が降り始める。

 次第に強くなるので視界が悪くなる。


 クソ、クソ! どこだ、どこへ行ったんだ。


 地面の土が擦った跡のようなものがあるのに気づいた。

 そしてそこには、

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る