第35話 おっぱい魔人
「なんか久しぶりに感じるね、ゆうちゃん」
「家が隣同士だから何とも……」
「えぇー、その割にはなんか会わなかったじゃんっ!」
「そりゃ、春姉が友達とかと遊びに行ってるから……」
俺がそう言うと春姉はニタニタ笑いながら、近づいてくる。
「あ、もしかしてやきもち?」
「なんでそうなるんだよ」
今日は生徒会の行事により、ボランティア活動の日である。
地域の小学生レジャー体験のインストラクターの補助だ。
春姉はウキウキという言葉が似合うほどに興奮をあらわにしている。
この間の件があるから、いつもよりも控えめに接してくる。
「今日からお仕事頑張らないとね!」
「春姉は去年も来てるんだろ?」
「去年は人数が多くて、1年生は全員ナシになったの」
「なるほどね」
春姉はどこか残念がるような表情をした。
「でも! その分、今回の仕事がとっても楽しみなのっ!」
「遊びじゃなくて、仕事だから俺はあんまりかな」
「そうかなー、きっと楽しいものになるよ」
「そっか……そうなるといいな」
一泊二日の仕事なので、下着や服などの着替えを持ってきた。
それに、宿も合宿所的なところを使わせてもらえる。
◆
「ようし、全員揃ってるなこれから小学生が来るから、高校生らしい態度をとり優しく接するように」
「は~い」
生徒会長の一言が終わり、本格的に準備に入る。
今日の一日目は自然に触れるという事で川遊びや釣り、自然を写真に収めるということをする。
特に川遊びでは子供たちを注視しなくちゃならない。
「本日はよろしくお願いします」
「「よろしくお願いしまーす!!」
小学生の年相応の元気な挨拶が返ってくる。
その眩しすぎる光景に、俺は頭がクラっとする。
「ゆ、ゆうちゃん大丈夫?」
「う、うん……なんか大変になりそう」
「あはは、そうだねー」
まずは5人で一つのグループを5つくらい作って、そこに何人か生徒会がつくようになった。
そのメンバーはくじ引きで決めたのだが……。
「やったー! ゆうちゃんと一緒っ!」
「だ、抱き着くなっ!」
「あ、ご、ごめん……」
「小学生もいるんだから……ここでは」
「ここじゃなかったらいいの?」
「――――っ、そういうわけじゃないっ」
春姉にいつも通り翻弄されながらも、俺は自分たちのグループへ行く。
「こんにちはー! みんなと一緒に過ごす、生徒会の宮野小春です」
春姉は自己紹介を済ませると、とびっきりのスマイルを見せる。
その姿に小学生たちはメロメロ。
特に男子の生徒なんか、頬を染めてやがる。
クソガキめ。
「次っ、ゆうちゃんの番でしょ」
そっと、耳元でそう伝えてくる。
その息遣いに耳がこそばゆい。
「えっと、同じく生徒会の鷹村優弥です」
はいはい、分かってた。
この、え、コイツも一緒? みたいな男子の視線。
やっぱクソガキだな。
「それじゃあ、一緒にまずは自然の写真撮影だ!」
「おっー!」
男子の3人組はぴゅーっと春姉の方へすぐについて行く。
女子の2人組が俺のところへとことこと歩いてきた。
「どうした? 早くあのお姉さんのところへ行ってこい」
「お兄さんは、あのお姉ちゃんと恋人同士なの?」
「ぶっ、ぶはっぁ! な、なに言ってんだ急に」
「違うの?」
「違うよ、ただの同じ学校の生徒ってだけ」
「ふぅん、なぁんだ……」
彼女たちはそう聞くと、つまらなそうな表情をしながら、春姉のところへ向かっていく。
小学生とは直球で勝負してくるので、心のグローブが痛くなりがちだ。
いきなり、恋人かなんて心臓に悪すぎる。
俺は2人の女の子の後を追うように、歩き始める。
女子と男子で違うのは、男子は春姉の後ろをくっついて、隙あればちょっかいを書けようとしている一方で女子の方は立ち止まってじっくりと写真を撮っている。
「真面目だなー、お前ら」
「だって、これ夏休みの宿題であるんだもん」
「男子は大丈夫なのか?」
「べつに……ちょっとあのお姉ちゃんが可愛くて、おっぱいが大きいからってはしゃぎすぎ」
ツンとした様子でそう言う。
その時は前に言ってた人気だからこその反感というやつかと考えていた。
「ゆうちゃーん、みんなで写真とろーって先生が!」
「よーし、いくぞー」
写真を撮るのもあまり乗り気じゃないが、これも仕事の一環としてやらないわけにはいかない。
全体写真をとったあとは、途中報告みたいな感じになった。
「このカマキリ良く撮れてるねー」
「へへへ、でしょっ!」
「俺のも見てくれよ!」
「ぼ、ぼくも……」
「慌てないあわてないっ!」
春姉はそう言いながらも男子全員の撮った写真をすべて見ていた。
その際、男子生徒は春姉の身体に触ったり、顔が近づいたら、赤くなっている。
変態エロガキが……まぁ俺も人のこと言えないかと冷静になり考える。
ただ、この間の春姉に迫られたときに断ったのは本当にすごいと自分の理性を今ここでも褒めたい。
「女の子たちも、写真見せてくれると嬉しいな」
「……別に、まだ何も撮ってない」
「えっと…………そっか」
春姉は気づいたのか、すぐに身を引いた。
今この子たちは嘘をついた。
その言葉に男子生徒の一人が食い掛る。
「お前さっき撮ってたじゃんか!」
「うるさいなぁ……」
「小春さんが自分よりも可愛いからって嫉妬ってやつしてるんだぜアイツ」
「――――っ!」
女の子はキッと睨みつけるように男の子を見た。
しかし、その男の子は春姉と話すのに夢中だ。
「こ、こら、ダメだよ、そういう事を女の子に向けて言っちゃ」
「アイツのこと女だと思ってねーもん、おっぱい小さいし、行こうぜ!」
そう言いながら、他の男子2人を連れて、少し奥にいる、違う班に合流し話している。
なんというマセガキなんだ、おっぱいが小さいからって……。
なんかトラブルの予感、というかもう問題だろこんなの。
「あ、あの……気にしなくてもいいからね?」
「――――さい」
「成長なんてまだまだこれからだし、気にしちゃ」
「うるっさぁい! このおっぱい魔人!」
「え、お、おっぱ? えぇ……」
春姉は突然の言葉に困惑している様子だった。
そう言いながら、女の子も違う班のところへ合流して話している。
「ど、どうしよう……」
春姉は眉を下げながら不安そうな表情で聞いてくる。
「ぷ、くく、おっぱい魔人……なるほど」
「ゆ、う、ちゃん?」
「ごめんなさい」
さっきの女の子のフレーズを笑いながら言葉にすると、春姉がジトっとした目で俺のことを見つめてくる。
「もうっ、本当に悩んでるんだからね?」
「ごめんごめん、やっぱり男子との距離じゃない?」
「そ、そんなに近いかなー?」
「まぁ、お尻触られてたし?」
「なっ! み、見てたの?」
「止めてなかったから、そういう趣味が……あ」
男の子におしりを触られているところを目撃したのは事実だ。
俺は途中まで言った言葉を引っ込めようとしたがもう遅かった。
「私にそういう趣味はありません、子供だからいいかなって思っただけです」
「え、でも……」
「それ以上言ったら、どうなるか知らないよ?」
「ご、ごめんなさい」
春姉はプリプリと怒っている。
ふんとそっぽ向いて、起こってますよアピールをしてくる。
その奥から、先ほどの女の子たちの視線を感じる。
俺はもしかしてと、一つ思い当たる点があった。
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