第31話 完璧な鎧 〈田畑 恵〉視点
私、田畑恵はアルバイトしていることを隠している。
自分がある程度可愛いことを、美人なことを隠している。
自信がある程にはプロポーションがいいことも隠している。
そして、自分があまりにも弱いことも隠している。
◆
――――最悪だ。
田畑恵は彼と出会った瞬間そう思った。
しかし、彼には私の素顔はバレていない、学校では完璧な鎧を着て生活している。わざとアイツは地味だ、と言われるように。
だからこそ、絶対的自信があった。
誰にも見つからないと誰よりも確信していた。
さぁ、見ろ、可愛くて美人なクラスメイトを、いつも地味だと思ってた子の素顔を。
鼻の下伸ばしたマヌケ面を晒せ。
そう考えながら、店長に言われた通りに顔を窺いに行くと、私の思っていたことの斜め上を行く反応だった。
「えっと、田畑さん? ここで何をしてるの?」
は? 今この男なんて言った?
私の名前を言ったのか? 学校での田畑恵と、鎧を着ていない本当の田畑恵を一発で見抜いたのか?
なぜかそのとき、私の中ではムカついた気持ちが隣にあった。
バレたことが嫌なんじゃなくて、悔しかった。
バレてるんだし、もういいや。
今更、隠しても遅いでしょ。
「あーあ、なんでわかった?」
「う~ん、雰囲気はめっちゃ違うけど、なんかわかった的な……」
「はぁ? なにそれ」
「うひゃー、学校との温度差で風邪ひきそう」
「今時そんな茶化し方するひと初めて見た」
「うっせ」
なんなの? なんなのこの男。
さっきからなんか口悪いし、意味わかんないこと言ってるし。
ちょっとさむいし。
その後、結構な時間を本物の私として話した。
なぜ、こんなにも普通に話してしまったのかを私は考えた。
アルバイト中も休憩中も。
たぶん彼が私に似ていたからだ。
【うん、今度は首根っこ掴んで一緒に来るよ】
この言葉を言った時の
しかし、それだけじゃなく、私の心まで見透かされているようだった。
【しんどいと思う】
この言葉が私の心を深く抉った。
だって事実だから、自分を押し殺して生きているのと変わらないから。
それほど重い鎧なのだ。
脱ぎたいけれど、脱げない。
手放したいけど手放せない。
鎧を脱いだ生身の私はあまりに弱いことを知っているから。
本当は私のこと聞きたいくせに、かっこつけちゃって。
かっこのつけ方が下手くそすぎるから、どーせ彼女なんてできたことないんでしょ。
私も彼氏なんてできたことないけど……ってそれは別にいい。
なんでだろう、ずっと考えてしまう。
前までなんともなかったのに、あ、そうか怒りだ。
怒りと悔しさで、アイツに腹を立ててるだけなんだ。
私はそう自分に言い聞かせると、スマホのLOINで彼に連絡していた。
「や、起きてる?」
我ながら恥ずかしいセリフだ。
すぐに消そうと後悔した時には遅く、秒で既読がついた。
「早すぎでしょうがっ! 暇か?!」
私はまた怒った。
今度は自分の恥ずかしさに怒りを感じて。
その後のLOINの会話は意外なことに、結構楽しかった。
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