第31話 完璧な鎧 〈田畑 恵〉視点

 私、田畑恵はアルバイトしていることを隠している。

 自分がある程度可愛いことを、美人なことを隠している。

 自信がある程にはプロポーションがいいことも隠している。


 そして、


 ――――最悪だ。

 田畑恵はと出会った瞬間そう思った。


 しかし、彼には私の素顔はバレていない、学校では完璧な鎧を着て生活している。、と言われるように。


 だからこそ、絶対的自信があった。

 誰にも見つからないと誰よりも確信していた。


 さぁ、見ろ、可愛くて美人なクラスメイトを、いつも地味だと思ってた子の素顔を。


 鼻の下伸ばしたマヌケ面を晒せ。


 そう考えながら、店長に言われた通りに顔を窺いに行くと、私の思っていたことの斜め上を行く反応だった。


「えっと、田畑さん? ここで何をしてるの?」


 は? 今この男なんて言った?

 私の名前を言ったのか? 学校での田畑恵と、鎧を着ていない本当の田畑恵を一発で見抜いたのか?


 なぜかそのとき、私の中ではムカついた気持ちが隣にあった。

 バレたことが嫌なんじゃなくて、悔しかった。


 バレてるんだし、もういいや。

 今更、隠しても遅いでしょ。


「あーあ、なんでわかった?」

「う~ん、雰囲気はめっちゃ違うけど、なんかわかった的な……」

「はぁ? なにそれ」

「うひゃー、学校との温度差で風邪ひきそう」

「今時そんな茶化し方するひと初めて見た」

「うっせ」


 なんなの? なんなのこの男。

 さっきからなんか口悪いし、意味わかんないこと言ってるし。

 ちょっとさむいし。


 その後、結構な時間を話した。


 なぜ、こんなにも普通に話してしまったのかを私は考えた。

 アルバイト中も休憩中も。


 たぶん彼が私に似ていたからだ。


【うん、今度は首根っこ掴んで一緒に来るよ】


 この言葉を言った時の表情かおがあまりにも自分に似ていた。


 しかし、それだけじゃなく、私の心まで見透かされているようだった。


【しんどいと思う】


 この言葉が私の心を深く抉った。

 だって事実だから、自分を押し殺して生きているのと変わらないから。


 それほど重い鎧なのだ。

 脱ぎたいけれど、脱げない。

 手放したいけど手放せない。


 鎧を脱いだ生身の私はあまりに弱いことを知っているから。


 本当は私のこと聞きたいくせに、かっこつけちゃって。

 かっこのつけ方が下手くそすぎるから、どーせ彼女なんてできたことないんでしょ。


 私も彼氏なんてできたことないけど……ってそれは別にいい。

 なんでだろう、ずっと考えてしまう。


 前までなんともなかったのに、あ、そうか怒りだ。

 怒りと悔しさで、アイツに腹を立ててるだけなんだ。


 私はそう自分に言い聞かせると、スマホのLOINで彼に連絡していた。


「や、起きてる?」


 我ながら恥ずかしいセリフだ。

 すぐに消そうと後悔した時には遅く、秒で既読がついた。


「早すぎでしょうがっ! 暇か?!」


 私はまた怒った。

 今度は自分の恥ずかしさに怒りを感じて。


 その後のLOINの会話は意外なことに、結構楽しかった。


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