第28話 鷹村優弥と夏に入る前の目標
夏休みに入る少しだけ前のこと、生徒会室で俺は神野生徒会長と二人きりだった。
というか、生徒会長に呼び出された。
「そ、それで話ってなんですか?」
俺が知らない間にやらかしているって話か? 待て待てここ最近は可もなく不可もなくって動きしてたぞ。
「鷹村」
「は、はいっ!」
「お前生徒会長に興味はないか?」
「神野先輩に? ……失礼ですが、俺にそういう趣味は」
「そういうことではなく、生徒会長という椅子にだ」
あ、てっきり勘違いしちゃった!
あまりにも真剣な目つきで言って来るから俺のこと好きなのかと。
「いや、あんまり考えたことなかったですね」
「あんまりか……」
「はい、生徒会に入ったのも自分を少しでも変えたかったからと、何かに所属しなくちゃいけない条件を満たすためですから」
俺がそう言うと、生徒会長は眼鏡をクイッと動かす。
この人がやると様になるなーなんて考えていた。
「鷹村、お前は生徒会長を目指せ」
「え、えっと……なんでですか?」
「その方がお前の為にもなると思ってな」
「俺ってなんにもないただの男子高校生ですよ?」
生徒会長を目指せって、ドラマかなんかじゃないんだから、俺には荷が重い。
俺はそんな風になれる人間じゃないことを、俺自身が良く知っている。
「無理にとは言っていない、ただ目指すだけならいいんじゃないかと思ってな」
「目標があった方が言い的な事ですか?」
「……あぁ、そういうことだ」
なんだ? 今の間怪しすぎだろ。
「まぁ、ならなくてもいいなら、目指すだけならって感じですけど」
「そうか、なら話が早い」
「え?」
「実はだな――――」
なにやら、例年行っている夏休みのボランティア活動、今年は人数の集まりが悪いらしい。
それで、暇そうな1年生に声をかけているという事だ。
「絶対そっちが本命でしたよね」
「さぁ、どうだろうな? ただ言えるのは俺は見る目がある方だと考えている」
なぜそこで濁す?
普通にそうだって言ってくれれば……まさか本当に俺を生徒会長に?
面倒くさい話は後回しにして、俺は考えるのをやめた。
「そうか、それは上手くやられたな」
「はい……あの人は策士ですよ」
生徒会室から出た俺は狩人先輩とばったり会ったので、先ほどのことについて話していた。
「でも、満更でもないんじゃないか?」
「え?」
狩人先輩のその言葉に反応して思わず声が出る。
「いや、参加させられるのはちょっと……」
「そっちじゃない、生徒会長の件だ」
俺が満更でもなさそうに見えたのか? 狩人先輩からは。
「そうなんですかね? 自分ではよくわかりません」
「人は誰しも頼られてしまうといい気分になってしまう、それが目上の人なら尚更な」
「つまり、俺が生徒会長に言われて喜んでいると?」
「あぁ、そういうことだ」
狩人先輩はなにも間を置くこともなく返事をしてくる。
「いや、そんなこと」
「ないとは言い切れないだろう?」
「――――ッ!」
たしかに、俺がすこしだけ心躍ったことには違いない。
でもそれは誰だってそうだ。
いきなりお前は生徒会長を目指せなんて言われたら、ちょっとは意識するだろ、コンチキショー。
「もう少しで、夏休みだな」
「そうですね……俺はようやくかって感じですけど」
「高校生の初めての夏休みだからな」
「そっか、先輩は……」
先輩にとって、今年の夏休みは最後なんだ。
そう考えた瞬間、物凄い寂しさが俺を襲った。
なんなんだろう、この表現できない気持ちは。
「なぜ優弥がそんな顔をする?」
「い、いやだって、最後って響きは悲しくないですか?」
「それもそうだな、だが」
狩人先輩は一度肯定するが、続けて口を開く。
「去年よりも楽しく、悲しく、忙しく、儚いものになると感じているよ」
「そ、そこまでわかってるんですか」
「あっはっはっ! まだ夏休みも始まってないのに可笑しいだろ」
そう言いながら狩人先輩は、笑った反動で髪の毛が顔にかかるのを右手でそろりと耳にかける。
「まぁ、忙しいっていうのは当たってるんじゃないですか? ほら勉強とか」
「そうだな、勉強はもうスパートをかけている生徒も多いからな」
「夏が勝負って言いますもんね」
その後、狩人先輩とは軽い談笑が続いた。
そして、話は夏祭りのことになった。
「去年は、家族というか母親に連れ出されまして」
去年は受験もあったし、塾に行こうとしたところを母親に捕まえられ、息抜きという程で夏祭りに行った。
別に何もなかったし、それほど印象にも残っていない。
「――――それで、今年はどうするんだ?」
「今年は、まだ何も」
「そうか……」
そこで会話が途切れる。
こういう時には男からというが、本当に会話が無くなった時、思い浮かぶのは話題ではなく単語しか出てこないものだ。
そうこう考えていると、狩人先輩がもじもじしながら口を開く。
「じ、じゃあ、わ、私と一緒に花火でも見ないか?」
「あはは……ってえぇぇぇ!?」
「そんなに驚くことか?」
いやいや、驚くでしょ。
狩人先輩はなぜそんなに? といった表情をしているが普通こうなる。
俺と? なんで? そう考えるのが普通だ。
しかし、その思考に蓋をする形で俺は考えるのをやめる。
「いいですよ……」
「花火の時間になったらLOINをする」
「はい……わかりました」
挨拶週間の時に実はもう連絡先を交換している。
狩人先輩はくしゃっと笑いながら去って行った。
――――先輩と最後の夏が始まる。
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