第二章
第24話 球技大会の行方
あの事件の後、球技大会は普通に行われた。
勝敗の結果は赤組は白組に対して惜敗した。
「ゆうちゃ~ん! お疲れ様ー!」
そう言いながら、俺の肩に手を回してくる。
白組が勝ったからか、春姉は普段より少しだけテンションが高い。
「お疲れ様、春姉」
「ふふふん! 勝ったのだ!」
「ぐっ……お、おめでとう」
「ありがとうっ」
春姉は純粋な笑顔だけを見せてくる。
その顔が負けた俺には余計に刺さる。
「そ・れ・とぉ~? 忘れてないよね?」
「あぁ、賭けの話だろ? 勝敗の」
「そう!」
嬉しそうに話す彼女を見て、そんなにお願いしたいことがあったのかと思う。
「何でも言う事聞くだからねー」
「ヤバいのはやめてくれよ?」
「まぁまぁ、ヤバくないってー」
「本当かなぁ」
春姉のその言葉を聞いて、不安でしかない。
「ゆうちゃんにお願いしたいことはー、1ヶ月私の彼氏になって!」
「おー、お? いやちょっと待て」
「なによー」
「それは色々と問題があるだろ」
「なんで」
お願い事とはいえ、そんな感じで彼氏になれというのは……。
それに、春姉の人気は俺とは天と地の差がある。
こんな、何の変哲もないただの男子高校生と付き合っているなんてのが学校にバレたら、俺の学校生活がどうなることやら。
「えー、何でも聞くって言ってた」
「だとしてもだなー、まず期間がおかしいだろっ!」
「なぁんだ、そんなことかー、じゃあ半年?」
「なんで伸びるんだよっ!」
間髪入れずにツッコミを入れると、ケラケラと笑っている。
絶対に分かっててやっているのがたちが悪い。
「でも、この間のゆうちゃんがかっこよかったから、1週間にしてあげる」
「普通1日とかじゃないの?」
「ダメ、1週間」
これ以上は引かないという強い意志が春姉から感じられる。
「まぁ、最初に決めてたしな……ここまで妥協してくれてる方か」
「うん、そうだよだから――――」
「いいよ」
「やらないと……って、い、いいの?」
「なんでそっちが驚いてるんだよ」
春姉は本当に? という態度をとってくる。
そっちから言い出したのに、その反応はおかしいだろ。
「じ、じゃあ……よ、よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
そう言って、その日は特に何もなく解散した。
次の日、珍しく朝インターホンが鳴る。
玄関を開けると、そこには春姉が立っていた。
「やほやほ、迎えに来たよ」
「おー、上がって待っててくれ」
「ちゃんと着替えはしてたんだね、えらいえらい」
春姉はそう言いながら俺の頭を撫でてくる。
「今日は、アレか彼氏彼女の期間だからか」
「う、うん一緒に登校しようと思って」
「お、おう……」
茶化してくるかと思ったんだが、全くしてこないので、なんか恥ずかしくなってしまう。
それに、春姉には少し緊張が見られる。
そのことが純粋にすこしだけ、嬉しいと感じた。
「ねねね、今日の放課後、生徒会の仕事終わったらどこか遊びに行こうよっ」
春姉は尻尾をブンブンと振っている、愛犬のように言って来る。
俺はそれに対して、嫌な顔をする。
「ゆうちゃーん? 今は私の彼氏でしょう?」
「しょうがないなぁ……」
「じゃあ、決まりねっ!」
春姉とは学校の階段で別れる。
学校に登校するまで、視線がすごく痛い物が多かったが、あの一件以来、俺はヤバい生徒会の1年生という事で学校で話題になった。
だからか、生徒会だからかという感じで見過ごされている部分が多い。
もしこれが生徒会じゃなかったら、俺はどうなっていたか。
◆
放課後、春姉に腕を引っ張られながら連れていかれる。
まず、そもそもどこに行くのかすらわからない。
「うん! まずはここだよねっ」
「ここって……」
連れてこられたのは、ラーメンのチェーン店だ。
「まずは、腹ごしらえをしなくてはねっ!! ゆうちゃんもお腹空いてるでしょ?」
「まぁどちらかと言えば空いてるかな」
「ようしっ! 行こっー!!」
そう言いながら、扉に向かって指を指して進んでいく。
カウンター席に案内され、席に座る。
ラーメン屋でも春姉は目を惹く存在だ。
周りにいるお客さんはもちろん、店主でさえも……。
ある程度、春姉に見惚れた後、隣になにやら変な男がいるという事で冷静に戻る。
「ゆうちゃんはどうするー?」
「なんか帰りたくなった」
「えっ?! ど、ど、どうして?」
春姉はラーメン嫌だった? と聞いてくるが、そうじゃない。
春姉の隣に座ると自分があまりにも小さく見える。
春姉にはこっちの話とだけ言っておく。
「わぁぁぁっ! 美味しそうっ!!」
「うん、見てるだけでどんどんお腹空いてくる」
春姉は担々麺を頼み、俺はあっさりの塩ラーメンを頼んだ。
「じゃあ食べよっか!」
「そうだね、火傷に気を付けてね」
いつも急いで食べる春姉を心配しつつ、俺も箸を手に取る。
「ゆうちゃんって美味しそうに食べるよね」
「まぁ、しっかり美味しいからな」
「でもよかったぁ、帰りたいって言われたときは食べたくないのかと思った」
春姉は冗談っぽく話す。
俺の先ほどの発言は良くなかった、お店にも誘ってくれた春姉にも。
「――――こうやって、気軽なく食べられるのは春姉だけだよ」
「ごほっ! ごほごほっ」
「もー、なにしてるんだよ、はいこれで拭いて」
「ん」
俺がティッシュを春姉に渡すと、春姉は目を閉じて顔を差し出してくる。
「俺に拭けと?」
「ん」
人の目もあるのでしたくはないのだが……。
しょうがないな、今は彼氏だし、なにもおかしくはない。
「そのまま口閉じててよ」
ティッシュを一枚取り、春姉の唇についている、スープを拭き取る。
その時だ、それまでは全く意識していなかったのに、指先にフニッとした感触が伝わる。
ティッシュ一枚だからこそ、ハッキリと伝わってくる。
めちゃくちゃ柔らかくて、春姉の唇を凝視してしまう。
「ん? まだついてる?」
「い、いやっ! もう取れたよっ」
慌てて俺はラーメンをすする。
しかし、先ほどの感触が頭から離れない。
そのときのラーメンの味は覚えていない、というか味がしなかった。
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