第23話 球技大会と問題解決

 呼び出された俺は生徒会室で教頭や数名の教師に囲まれている。

 それを不安そうに見てくる春姉。


 まず、生徒会長が教師や生徒会メンバーに起きたことを端的に説明する。


「――――ていうことで間違いないな? 鷹村」

「はい、間違いないです」


 俺がそう言って頷くと、眼鏡をかけた堅苦しそうな教頭先生が割り込んでくる。


「はぁ、信じられない暴力行為など……球技大会を中止しましょう」

「ち、ちょっと待ってくださいっ、そんな簡単に決めなくても」

「あなたも、副会長ならわかるでしょう、このまま行ってまた同じことが起きないとも限りません」

「……っ、そ、それは」


 春姉が教頭先生の言葉に反対の意を見せる。

 しかし、教師の前では生徒は小さな力だ。


 あの春姉ですら、相手にされていないように思える。

 というか相手が悪すぎる。


「生徒会長それに各学年、クラスの担任の皆さん、これは大きな問題です」


 教頭先生の言葉に、周りの教師は段々と空気感が変わっていくのが分かった。


 この人の言う事なら間違いないと、それに今回は事件が起きてしまった後であるため、説得力が違う。


「それでは、中止という形で――――」

「ちょっと待ってください!」

「なんですか?」


 会議室の扉が開く、そこには狩人先輩が立っていた。

 なんて、ヒーローのような登場なのでしょう!!


「球技大会を中止にさせるというのはやめていただきたいです」

「なぜです? 殴った生徒もいるというのに」

「確かに暴力は悪いですが、それ以前に両チームとも熱くなっていたのが原因で――――」

「だから、これ以上は危険なのでしょう?」


 クソ、こんな言葉を言われたら、何も言えなくなる。

 だって、本当に先生の言葉が正しい。


 自分でもわかってる、春姉や荒風先輩だって、きっとそうだ。


「…………は、はい」

「一ついいですか?」


 そこで、神野生徒会長が声を挙げる。

 教頭先生はあなたもですか? という目つきをしている。


「はい、なんですか?」

「いえ、私ではなく鷹村、何か言いたいことがあるんじゃないか?」

「え? えぇっ!?」


 生徒会長はそこで俺に振ってきた。

 動揺しまくりで、足はがくがく震えているし、心臓の音が早くなる。


「言いたいことは今しか言えないぞ」

「で、でも俺が言ったところで」

「時間とは有限だ、高校の3年間なんて特にな、だからこそ大切なものだ」

「は、はい、そうですね」

「だが、多くの人がそれをなぁなぁで過ごしている、明日やろう、一週間後までだから……そうじゃないだろう? 今日、この時しかできないことが絶対にあるはずだ」


 俺はその言葉を聞いて、自分の心が強く打たれた。


「そして、それを見て見ぬふりにすることを俺は、時間を無駄にする行為だと考えている」

「本当に小さな言葉かもしれないですよ?」

「いいじゃないか、小さくても短くても、、笑うやつなどいない」


 生徒会長の言葉で俺は答えが見つかった。

 この状況での、俺の行動はただ見過ごすだけじゃない。


「教頭先生、中止にしない方がいいと思います」

「はぁ……1年生だから、球技大会を続けたいだけでしょう」

「それもあります、けれど1年生も3年生も、上下関係なく、年齢関係なく熱くなれるのは本当に素晴らしいことだと思います」


 教頭先生は黙ったまま俺のことを見つめてくる。

 俺もまた、先生のことをジッと見つめる。


「今、ここで中止してしまえば原因となった生徒が目の敵にされるのはわかっていることでしょう?」

「ですが、暴力を行ったのも事実」

「はい、だからこそ、審判にを与えればいいと思います」

「それができなかったから、起こった事件でしょう? もういいです、先生方で話し合いましょう」


 教頭先生は最後は俺の方を見ずに立ち去ろうとしたその時だった。


 小太りの、白髪の朗らかな表情の男性が会議室に入ってきた。


「こ、校長先生っ?!」

「ほほ、今の発言にこの歳にもなって心を打たれてしまいました」

「それはどういう……」

「上下関係なく年齢関係なく、いいですね、このような生徒が我が校にいることを誇りに思います」


 校長先生は大きく息を吸って、さらに明るい笑顔を振りまく。

 まるで仏のような姿だった。


「我が校の校長として、球技大会は続けます、先生方アナウンスと各クラスへ連絡を」

「こ、校長っ! 問題が起こったら……」

「それを防ぐのが、我々大人の役目であり、それが教師というものです」

「…………っ」

「もし、それでも問題が起こったすべての責任は私が取ります」


 校長先生の言葉でこの事件は幕を下ろす。


「君、名前は?」

「た、鷹村優弥です」

「鷹村君、ありがとう」


 そう言って、校長先生は俺の手を両手で握ってきた。

 しわが目立つ、手だったが、とても暖かく大きかった。


 その後の球技大会のルールは審判絶対というのと、先生が一人は試合につく、というものになった。


「鷹村っ」

「あれ、荒風先輩? どうしたんですか」

「お前はすごいな、あんなに先生がいる中自分の意志を貫いた」

「それは、先輩もでしょ」

「私は結局丸め込まれてしまったからな」


 狩人先輩はそう言いながら、苦笑いしていた。


「な、なぁ……鷹村?」

「なんですか?」

「もしよかったら、名前で呼んでもいいか?」

「へっ? えっと……えぇっ!?」

「嫌か? お前が嫌なら、やめるが」


 先輩が急にそんなことを言ってくる。

 なにこの、付き合いたての中学生みたいな会話。


 まぁ、付き合ったことないんですけど……。


「い、いいですけど……急にどうしたんですか?」

「そ、それはだな……教えん」

「なんでですか」

「ゆうや、ゆうや、優弥……うむしっくりくるな」

「聞こえてないや」


 俺の問いは完全に無視された。

 狩人先輩はフフフと微笑みながら、立ち去っていく。


 途中で振り向き、彼女の長い髪の毛がふわりと揺れる。

 大きな声で、言って来る。


「またな、優弥!」

「はい、また……」


 俺は、気づいたことがある。

 長く綺麗な髪の毛、整った顔つき、足が長くスタイルの良さ。


 これらが今までの俺には見えていなかった。

 かっこいいと、怖いという印象しかなった、しかし今この瞬間気づいたことがある。


 荒風帆波という先輩はであると。






あとがき

 皆さんいつもこの作品を読んでいただきありがとうございます。

 楠木のあるです。第一章はここで終了となります。


 ぜひ、星やブックマークをしていただけたらなと思っています。

 今後とも温かい目で見ていただけると幸いです。

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