第22話 球技大会と問題発生

 球技大会一日目の午後の部が始まった。

 午前の結果は赤組が一歩劣っているといった感じだ。


「次の相手先輩だってよ」

「まじか、ちょっと怖いな」


 次の種目はバスケットボールだ。

 先輩が相手ということで、みんな不安な表情を見せる。


「よっしゃー頑張っていこうぜっ!」


 与一がみんなに向かって檄を送る。

 ガッツポーズしながらのあの熱い笑顔にみんな気持ちが楽になる。


 そんな、与一のげきもあってか、前半は中々いい勝負をしている。

 だが実力が拮抗きっこうすると試合は盛り上がり、選手たちの熱も上がっていく。


 そんな時だった、相手チームの一人が故意にファールをした。

 止めるためとはいえ、故意にするのはよくない。


 1年生だからといって、見過ごすわけはない。

 審判が笛を吹いて、1年生ボールから再開……ならよかった。


 


「おい、今の絶対わざとだろ」


 俺たちのクラスメイトが先輩に詰め寄る。


「は? なにがだよ」

「いまのわざとファールしただろ!」

「そんな熱くなるなよ、たかが球技大会だって」


 先輩の方は詰め寄る後輩を軽く相手をする程度だった。

 しかし、気に食わないのはその声とトーンだ。


「そのたかが球技大会で故意にファールしてんのはお前だろっ」

「別にそんなことしてないよ」

「お前ふざけんなっ!」


 その時、熱くなってしまった1年生がその先輩を殴ってしまった。

 その先輩は尻もちをついて、頬を触っている。


 そこで審判から再度、笛が吹かれる。


「今のは良くないです、退場させますよ」

「はぁ? 退場というより、俺たちの勝ちだろ」


 先輩が今度は殴られたことに対して怒りをあらわにする。


「で、ですが……」


 審判の人が困っているのが明らかに感じ取れる。

 先輩をなだめながら、のらりくらりと回避しようとしている。


 そこに、応援団長の狩人先輩が登場する。


「今の試合、見させてもらっていた」

「あ、荒風……」

「風紀委員の荒風だ、今の試合、審判が止めていたにもかかわらず、赤組が殴ったという事で、反則負けとする」

「は? ちょっと待ってくださいよっ! 先にしてきたのはあっちの方で……」

「だからといって、暴力はいけない」


 これは先輩の言っていることが正しい。

 熱くなったから、先にしたからと暴力をふるってしまっては、こちらが悪い。


 しかし、俺たちのクラスも引くに引けなくなっていることは目に見えてわかる。


 行き場のない怒りは、止めに入った者へと向かう。


「……チッ、3年生が今年最後だからって、贔屓かよ」


 そんな言葉が聞こえてきた。

 俺もその場に近づいて、他の生徒と話していたので、狩人先輩と近かった。

 だからこそ、絶対に彼女にも聞こえている。


 先輩はこの場を鎮めるために来ただけで、批判を受けていい人ではない。

 それに先輩は贔屓ひいきなんてなく、真っすぐな人だ。


「それはちがう」

「え?」

「先輩はそんな人じゃない」

「鷹村……」


 周りの目が一斉に俺に向く。


「笛が鳴っている時点で、試合は止まっていたのにもかかわらず殴った俺たちの負けだ、これは揺るがない」

「お前までどうしたんだよ」

「スポーツの世界でわざとファールしたりするのは、ずる賢いと言われることがある」

「そ、それでも」

「ここで駄々をこねれば、俺たちだけの問題じゃなく、赤組全体の問題になる場合がある」


 俺がそう言うと、クラスメイトは黙り込む。


「なんだ、1年にもわかるやつがいるじゃん」

「それでも!!」


 俺は体育館に響き渡る大きな声で叫ぶ。

 これには先輩もクラスのみんなも驚いていた。


「わざとじゃなくても大きなけがに繋がる可能性があるのに、故意にそういう行為をするのは今後やめてください」

「…………ッ!」


 俺は先輩の方を睨むように真っすぐ見つめる。

 ただただ、見つめたあと礼をする。


「それじゃあ、審判の皆さん後はよろしくお願いします」

「は、はい任されました」


 赤組の反則負けで幕を閉じた。


 帰ってきた教室で待っていたのは沈黙と言う名の空気感だった。


「……あ、あの」

「みんな! 本当にごめんっ」


 俺がみんなに謝ろうとした時、先輩を殴った男が頭を下げた。


「鷹村もごめんな」

「いや、ああするしかなかった俺も悪いよ」

「待て待て、一番悪いのは俺たちメンバーだろ、なっ?」


 与一が立ち上がりメンバーに言う。

 すると、続々と頷いたり、同意の声が聞こえてくる。


「それと、あの先輩は本当に真っすぐで優しい人だから決して贔屓なんか……」

「わかってる、わかってるよ、あとでみんなで謝りに行って来るよ」

「ありがとう与一」


 この一件から、クラスの中が深まった。


 だがしかし、これだけでは終わらないのが現実。

 この一件が先生たちの間で問題になっていることを、生徒会長から聞かされた。


 そして、その場にいた俺は生徒会長に呼び出されたのであった。


 










 

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