第20話 鷹村優弥、赤組の鉢巻

 球技大会、当日になり俺たちのクラスは赤組に振り分けられた。

 みんな、赤組勝利の為に奮起している。


「みなさん、気合が入ってますね……」


 その、勢いにビビっているのか、田畑さんがよろよろと近づいてくる。

 表情がどんよりしているので、大丈夫か心配になる。


「やっぱり、やるからには勝ちたいからね」

「そ、そうですよね……でもみんな怪我しないか心配です」

「田畑さんはやっぱり優しいね」

「そ、そんな! 優しくなんか……」


 こういう、否定するところも優しいと思うし、謙虚だなとも感じる。


「スポーツにけがは付き物、でも怪我しないように最低限の準備はしないとね」

「そ、そうですね」

「さ、そろそろ開会式始まるし、鉢巻つけないとね」

「は、はいっ……!」


 それぞれ自チームの色の鉢巻をつけることが必要になる。

 開会式や試合をするとき以外は外しても良いことになっている。


「ん……しょっ」


 田畑さんの吐息混じりの小さな声が漏れる。

 腕を後ろに組んで鉢巻を巻こうとしているので、必然的にスタイルが浮き彫りになる。


 春姉までとはいかないものの、田畑さんも中々――――。


「ど、どうしましたか……?」

「あっ……えっと、ごめんなさい」

「え、えっ!? ど、どうしてですかっ」

「いや、なんとなく、謝らないといけないと感じたから」

「そ、そんな……へ、変ですよ」


 すごく、疑問を持った目つきで見られる。

 しかたない……俺も年相応の高校生という事だ。


「ようし、これでいっか」

「それじゃあ、開会式行きましょうか」

「そうだねー」


 俺は廊下に整列するようにクラスメイトに呼びかけた。

 その後、先生の指示に従い、校庭で開架式が始まる。


「よっしゃー! 行くぞー!」

「おっー!」


 1年生ですら、この盛り上がりだから、3年生とかならもっとすごいんだろうと勝手に思っていた。


「鷹村、久しぶりだな」

「荒風先輩っ!」


 教室に戻る途中で、狩人先輩に声を掛けられる。


「挨拶週間ぶりだな」

「そうですね、同じ赤組動詞頑張りましょう!」

「ふっ、そうだな、頑張らないとな」


 なんだろう、この歴戦の戦士みたいな貫禄は。

 さすが、狩人と言ったところか。

 俺がめちゃくちゃひな鳥に見える。


「先輩のクラスも盛り上がってますか?」

「お前たちほどではない」

「あれ? そうなんですか?」

「見に来るか?」


 そう言われ俺は好奇心が暴れたので、狩人先輩について行く。


 先輩の教室を見たら、盛り上がるというか、談笑やトランプなどをしていた。


「俺たちとは、違う盛り上がりと言いますか……ちょっと驚きと言いますか」

「……本当にそうか?」

「え……?」


 先輩のその言葉がまだ何かあることを期待させる。


 すると、一人の男子生徒が走ってくる。


「おいっ、廊下は走るな」

「い、いやっ! 聞いてくれっ、男子バスケが押されてる、応援に来てくれっ!」


 走ってくる男子生徒に対して、ちゃんと注意する狩人先輩は風紀委員の鏡だ。


 しかし、その一言で、教室全員がワッと盛り上がる。


「な、なんなんですか……この手練れのような雰囲気は」

「フッ、仲間のピンチには駆けつけなくてはな」


 なんてかっこいいんだ……。

 そう言うと、教室から先輩たちが体育館へ移動する。


「私も自分の仕事をするか」

「仕事?」

「あぁ、応援団の団長の仕事をな」

「団長……って、えぇっ!」


 風紀委員長もやりながら応援団長もやってるのか、この人。

 結構委員会の仕事あるはずなのに。


「やってくれと頼まれてな」

「ま、まぁ適任でしょうね」

「そうか?」


 疑問形で返されるので俺は苦笑いするしかなかった。


「着替えてくるから、先に戻っていろ」

「え、着替えるって?」

「あー衣装に着替えなきゃな応援団の」

「み、見たいんで待っててもいいですか?」

「ん? お前に時間があるのなら大丈夫だが」


 狩人先輩のチアガールの姿が見れるのか? それとも違う衣装か?

 どっちにしろ、そういう衣装を着る先輩に興味がある。


 そう思っていて、教室の扉が開くと出てきたのは――――


「が、学ラン……」


 学ラン姿の狩人先輩だった。

 なんか、残念な気持ちが襲ったが、次第にめちゃくちゃに合っているのでクソかっこいい。


「どうだ? 変じゃないか?」

「ぜ、全然っ! めっちゃ似合ってます」

「そうか、よかった……しかし、胸のところがきついんだよな」


 そう言いながら、胸のところをいじる。

 締め付けられているのが、分かる。


 春姉と比べても劣らない果実の持ち主というのが分かった。


「ん? 鷹村お前……」

「な、ななな、なんですか!!」


 いきなり、俺の顔の前に先輩の胸がある。

 背伸びをしているからこそ、同じ高さになっている。


「後ろを向け」

「ひ、ひゃいっ!」


 俺はここで、食われるのか……そう思っていたが、頭に手が当たっている。


「ほら、できた」

「え?」

「鉢巻くらいちゃんと巻け」

「あ、すみません……」

「まったく、しょうがない奴だなお前は」


 フッと笑う、荒風先輩に正直ドキッとしてしまった。

 い、イケメン過ぎる……。


「それじゃあ、応援してくる」

「は、はいっ! 行ってらっしゃいませっ」


 荒風先輩は学ランを着こなし、出陣していく。

 その後ろ姿を俺は目に焼き付けていた。

 




 

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