第11話 生徒会に入る決心
「先生……俺生徒会に立候補したいんですけど」
「――――っ! 本当に来た」
「え? それはどういう意味ですか?」
俺は今日生徒会に立候補するために、職員室に来ている。
担任の先生に立候補したいことを伝えると、先生は驚きながらそう言った。
「いや、鷹村が来る前にな、宮野が来たんだよ」
「来たっていうのは……」
「鷹村優弥をよろしくお願いしますって、その時は立候補もしてないぞって追い払ったんだが……まさか本当に来るとは」
「今度来たら、子ども扱いするなって言っといてください」
俺がそう言うと、先生は笑いながらいい子じゃないかと一言。
苦笑いすることしかできなかった。
「それで、生徒会に立候補の話か?」
「はい、プリントも持ってきました」
「……はい。確かに受け取りました」
「よろしくお願いします」
「一言だけ――――頑張れよ」
「まだ、生徒会に入ったわけじゃないですよ」
俺は先生の応援に、笑いながら答える。
一礼して、職員室を出た。
職員室を出た時、春姉がニヤけた表情で立っていた。
俺は下手に話はしないで、無視して教室へ戻ろうとしたところを止められた。
「ち、ちょいちょいっ!」
「なんだよ」
「私がここに立っているというのに無視するのか!」
「用事あったのか、教室の扉に向かってにやけてる変人かと思って」
そう言うと、春姉はプンプンと怒りながら変人を否定する。
「決心したんだ」
「決心というか、ちょっとやってみたいかなって思っただけだよ」
「私のお陰かなー?」
「生徒会を意識したのは春姉のお陰」
「ほうほう、そうかいそうかい」
「――――でも、春姉だけのお陰じゃない」
俺がそう言うと、春姉はポカンと口を開けていた。
「へ、へぇ? 他には誰のお陰かな?」
「う~ん、それは秘密」
「なんで」
「なんでも」
春姉がムッとした表情で聞いてくるが、教える気はなかった。
そのまま、春姉とは教室手前で別れた。
「あ、鷹村さん」
「田畑さん、おはよう」
「お、おはようございます……」
田畑さんは少し恥ずかしそうに、三つ編みの毛先をくるくると指先に絡めている。
「お早いんですね」
「それは田畑さんもでしょ」
「そ、そうですね」
「俺はね、今日までの生徒会のプリント出してきたんだ」
それを聞いた田畑さんは表情が微かに緩む。
「生徒会に立候補するんですね」
「うん、田畑さんありがとう」
「ど、どうして私に言うんですか」
「あれ? 結構助けられたと思ったんだけど、俺だけだったかな?」
「……っ! た、助けになっていたんでしょうか」
恐る恐る聞いてくる。
怯えている小鹿のような瞳だ。
「もちろん、俺にとってはあの言葉は大きかったね」
「そ、そうですか……それならよかったです」
その言葉を聞いて安堵したのか、胸に手を置いてふうっと息を吐いている。
「でもこれから頑張らないといけないからなぁ」
「そ、そうですね……とても大変そうです」
「だよねー」
「うっ……考えただけで気持ち悪くなってきました」
田畑さんは明らかに表情を悪くしている。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です……私がやるわけではないので」
「うん、やるのは俺だね」
「あっ……ご、ごめんなさいっ! ほ、本人がいる前でこんな……愚痴みたいなこと言ってしまって」
そう言って、田畑さんは頭を何度も下げてくる。
慌てて田畑さんのことを止める。
自分でもわかっていたことが、他人が言う事により、一層大変そうだなと感じたくらいだ。
「大丈夫だよ。もし無理だとしても俺の人生これで終わりってわけじゃないから」
「そ、そうですかぁ……? そ、それならいいんですけど」
そうして、田畑さんとの会話は終了した。
「よぉー優弥、さっき聞いたんだけど、生徒会に立候補したんだって?」
与一が肩を叩きながら、驚いたような声で話してくる。
もう知ってるのかと俺も驚いた。
「なんだ、もう知ってるのか」
「あぁ、先生がなんかニコニコしてたから」
「先生が言ったのか……」
俺は面倒くさそうに返す。
与一はそれを聞いて、不思議そうな表情をしていた。
「別に悪いことでも、恥ずかしいことじゃないだろ」
「お前になんかそう言われると……ムカつく」
「はぁ? なんでだよ、こんなにいい友達がいてよかったな」
与一はそう言いながら、がははと笑っている。
生徒会の投票期間までに、ポスターや写真撮影などがあり、大変だった。
うちの学校はそういう形は大事にする。
一応無難なポスターも出来上がり、演説なども行った。
結果から言うと、生徒会選挙の末、俺は生徒会の庶務として所属することが決まった。
「ゆうちゃーん! おめでとーう!」
「春姉、ありが――――んむっ!」
春姉は嬉しさのあまり、俺に抱き着いてきた。
俺の顔は春姉のたわわに実った、二つの果実の間に挟まれる。
なんという柔らかさ……じゃなくて、身長差もあるのになぜそこの間に挟まれているかは、春姉が俺の頭を強く自分の胸元へ引き寄せているから。
「――――んむ!!」
「あっ、ごめんゆうちゃん、興奮しちゃってつい……」
「窒息するところだったわっ!」
「悪気はないんだってばー、そ、それにゆうちゃんだって嬉しかったでしょ?」
春姉が男の子なんだからという意味合いを込めて放った言葉を俺は認めたくはなかった。
男だから誰しもが嬉しいわけではない。
まぁ、俺は嬉しいのだが。
「べ、別に……? 嬉しくなんかないんですけど」
「うっそだー、ゆうちゃん鼻の下伸びてるし、えっち」
「俺はえっちなんかじゃないっ!」
俺のその声が廊下中に響き渡る。
みんなが俺のことを凝視する。
「あら~、急にどうしたの? ゆ・う・ちゃん?」
春姉は口元を抑えながら、笑いを堪えている。
ぷぷぷっと笑い声が聞こえるので、実際には堪えきれていないのが余計に腹が立つ。
「――――でも、これから一緒にいる時間が長くなるね」
「幼馴染だったし、いつもと変わらない感じがするけど」
「学校でも会える時間が増えるじゃん!」
「まぁ、それはそうだけど」
春姉はそう言うと、ニコッと微笑んだ。
じゃあなんで去年は全然絡んでくれなかったの? とは聞けなかった。
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