第10話 何かをするにはまず自分の未来を想像しろ

 田畑さんとの学級委員の仕事をしている時のことだった。


「明日で最終日か……」

「え? 何か言いました?」

「あ、いや……生徒会の立候補締め切りまで明日が最後だなって」

「生徒会……えっ! も、もしかして生徒会に入ろうと思ってるんですか?」


 田畑さんはとても驚きながら、生徒会に入るのかどうか聞いてくる。

 俺はその返事に困る。


 俺自身、まだ決めていない。

 生徒会に入ろうと思っているのか、入らずに違う部活とかで学校生活を過ごすのか。


「――――いや、まだ決めてないんだよね」

「あっ、そうなんですか」

「なんか、生徒会って名前だけですごくない?」

「わ、分かりますっ! 名前だけで萎縮してしまうというか、私とは無縁だなって思います」

「あははっ、田畑さんって面白いよね」

「そ、そうですか……?」


 キッパリと生徒会との関係を無縁と言い切るところが面白く感じてしまった。


「それに、キッパリ物事を決めれる人ってすごいなって思う」

「私はキッパリ決めてるというより、自分が生徒会で仕事をしている姿が想像ができないんですよ」

「……自分が仕事している想像」

「はい、私は生徒会に自分がいること自体想像できません」

「だから、立候補というか無縁と?」

「はい、本当は学級委員の仕事もやりたくはなかったのですが……はっ、ごめんなさい……」


 田畑さんは失言したって表情で慌てて口を押さえている。


「大丈夫、俺もなんだかんだ押し付けられた側だから」

「そ、そういえばそうでしたね……」

「でも、自分の姿を想像か」

「鷹村さんも一度想像してみてはいかがですか?」

「たしかに、ちょっとやってみる」


 俺は顎に手を当て、自分を生徒会というグループに放り込み、その中で自分が仕事している姿を想像する。


「うーん、なんとなく、集中が……」

「あ、そういう時は目を瞑ればすごく集中できますよ」

「いい方法知ってるねー」


 俺はそう言って、田畑さんの言葉通りのことを実践する。

 たしかに、先ほどよりも自分の姿が想像できる。


 目を瞑って……意識がふと途切れる。


「――――おーい?」


 誰かの声が聞こえてくる。

 俺の身体を揺らしながら……。


 春姉……ってここは生徒会室? あれ何で……。

 その言葉に春姉は笑っている。

 そうか、俺は結局生徒会に入ったのか……。


 そこでパッと目を開ける。

 するとそこは生徒会室ではなく、自分の教室だった。


「――――鷹村さんっ!」

「あれ、田畑さん……?」

「鷹村さんもしかして寝てました?」

「えっ、俺目を瞑って……そのあと眠ってた?」

「えっと、はい。揺すってもすぐには起きなかったので」

「あ、ごめん……」


 田畑さんに頭を下げると、両手をブンブンと左右に振る。

 聞くと、田畑さんは俺が眠って起きなかったので、仕事を全部終わらせてくれたらしい。


「いや、本当に少しの間でしたので……」

「ごめん、今度俺が何かできることがあったら、協力するよ」

「いいですよ、私の方がいっぱい助けられているので」

「ありがとう」


 田畑さんは気にしないでと一言。

 俺は頭をもう一度下げて、その日の学級委員の仕事は終わった。


「ところで、さっきの間で想像はできました?」

「うん、かなりできたと思う」

「ほ、ほんとうですか?」


 田畑さんの言葉に俺は首を縦に振る。

 田畑さんは、なにか面白いことを見つけたような目で俺を見る。いや……なにか期待している目か?


「ど、どうだったんですか?」

「えっとね、眠ってたからなんだけど、夢で自分が生徒会室にいたんだよね」

「ほほう、自分が生徒会室にいたと」


 そう言って、田畑さんはなぜかペンとノートを取り出し、メモを取っている。


「ど、どうしたの……?」

「あっ、すみません……気にしないでくださいっ」

「気にしないでって」

「そ、それで生徒会室にいて、どうなさったんですか?」


 気にしないでと言われても、気になるに決まっている。

 しかし、田畑さんは追及はさせないといった感じで、生徒会室のことを聞いてくる。


「あぁ……えっと、生徒会室で、春姉になんでここにいるかって聞いたら、笑われて、周りの人たちも……」

「それ以上は……わからない感じですか?」

「うん……それ以上はもうわからないかな」


 夢なので、その程度だろう。そう考えていたのに、田畑さんはものすごい速度でペンを走らせる。


「それって、鷹村さん自身が生徒会で仕事している姿が思い描けたんじゃないですか?」

「そういう事なのかなぁ……まぁまず選ばれるかもわからないけど」


 あははっと苦笑いしながら、そういう態度をとると、田畑さんは真っすぐ俺の目を見てくる。


「選ばれるかどうかではなく、想像ができたとしたら、自分がそこでやっていける可能性があるってことですよ」


 田畑さんは、ニコッと不器用な笑みを浮かべて言う。


「だ、だって……選ばれるか選ばれないかの不安とかは、それからじゃなですか?」


 俺はその言葉を聞いて、自分の考えが変わった気がした。

 胸の中に何かが響いた。


「ありがとう……」

「いえいえ、私なんて……いや、私の方こそ……って感じです」

「田畑さんがお礼を言う理由はないでしょ」

「いやいやっ! こちらの話ですよっ」


 田畑さんはそう言いながら、また不器用なぎこちない笑みを浮かべる。

 なにか上手くさけられているような気がするけど、まぁいい。


 用事もなくなったので、俺たちはその教室から出ていった。

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