第8話 未読無視は重罪かもしれない
今日は春姉との駅前へのカフェへのデートがある。
デートと言っていいのかわからないが、男女が1対1で遊ぶのだから呼んでもいいだろう。
起きていないと春姉に怒られるし、流石に迷惑をかけるわけにはいかない。
今日着ていく服をクローゼットから出し、すぐに着替え、顔を洗い、寝癖や髪の毛を整える。
「ん?」
LOINのアプリから通知が来たので、スマホを見ると春姉が『もう少しかかっちゃいそう!』というメールが来ていた。
俺も準備がまだ終わっていないので返事は後でもいいだろうと思い、スマホを閉じた。
いわゆる、未読スルーというやつだ。
髪の毛のセットが終わり、朝ごはんも済ませた後、スマホをもう一度見ると、電話がかかってきた。
「もしもし?」
「あー! やっと出た!」
「ご、ごめん朝ごはん食べてて」
「寝てるのかと思ったよー」
「寝てないよ、さっきのLOINも見てたし……あ」
この瞬間、俺は自分が犯した罪に気づいた。
あとで返信すればいいやは、馬鹿野郎だった……。
「ふぅん? 見たのに返信しなかったんだ」
「いや、その……」
「どう言い訳するのか、楽しみだね!」
「あ、あの小春さん……? 小春さんっ!?」
もう電話は切れていた。
やってしまった。自分がそう気づいたとしてももう遅い。
一応、LOINで謝り、春姉とあった時に直接謝ろうと決めた。
俺は準備ができたので、隣の春姉の家に行き、インターホンを鳴らす。
ガチャリと玄関の扉から、春姉が出てくる。
春姉の私服は白と薄ピンクの色で構成されていた。
制服とは一味違い、とても可愛らしい。
中学のときは春姉の私服を見たとしてもなんとも思わなかったのにというより、中学の時はまだ幼さがあったからか、今はとても大人に見える。
「春姉、ごめん」
「はぁ、全くもう、しょうがないなぁ」
「あとで返せばいいやって思ってて」
「人との約束があるのに、後でいいわけないでしょう」
「はい、おっしゃる通りです」
「でも、ちゃんと起きれてたし、遅刻もしなかったから今回のことはなかったことにしてあげる」
春姉は、はぁっとため息を吐いた後、しょうがない、みたいな眉を下げた表情で俺のことを見てくる。
俺は春姉の優しさで未読無視をしたのにもかかわらず、許されたのだ。
「次はないからね?」
「は、はい」
「じゃあ、いこっ!」
春姉はLOINのことなんかなかったかのように、無邪気に笑いながら、俺の手を引っ張り走る。
「ち、ちょっと! 危ないって」
「大丈夫だよ?」
「今から行くのに転んだりしたら、最悪でしょ」
「もー、心配性なんだから」
子供のような態度をとる春姉に俺も自然と笑顔になる。
◆
15分くらい春姉と話していると駅前に着いた。
俺の体感は3分くらいしか話してない感覚だったのに。
春姉としっかりと話し込むのは久しぶりだったので、昔に戻った気がした。
「どうしたの? そんなに笑って」
「え、笑ってた?」
「うん、可愛いかった」
俺にその言葉を言われても嬉しくはないのだが、分かっていないのだろう。春姉は本心で言っているし。
それよりも、自分の顔が笑っていることに驚いた。
春姉が気づくくらい顔が緩んでいたんだ。恥ずかしい。
「それ、男に言うセリフじゃないから」
俺は恥ずかしいのがバレないように話題をすぐさま逸らす。
「あはは、そうかなー? ゆうちゃんは可愛いよ?」
「はいはい、ありがと」
「あー、絶対思ってないなー?」
「思ってるよ」
「本当か~?」
春姉は俺の頬を人差し指でぐりぐりしてくる。
小さく細い指が俺の頬に食い込んでくる。
春姉は爪が長すぎず短すぎずの、校則をしっかりと守っているので痛くはない。
さすが生徒会副会長だ。
「まぁ、うんって言ったら噓になる」
「……やっぱ思ってないんじゃん!」
「ははっ、うん」
「ふ、ふふっ、なんか変だね」
そう言いながら、春姉は口元を抑えながら上品に笑う。
店内に入り、俺はコーヒーを頼み、春姉はカフェモカを頼んだ。
「はぁ~、可愛いお店だね」
「落ち着いた雰囲気だね」
ガヤガヤ周りがうるさいカフェなどもあるが、ここはとても静かで俺好みである。
「ゆうちゃんこういう雰囲気好きそう」
「……ほんと、俺の好みっていうか、俺の心の中読まないでくれない?」
「あははっ、ゆうちゃんに関しては家族の次くらいになんでも知ってるからね」
「それ自信満々に言うことじゃないから」
「えぇ~なんでぇ~?」
悪い顔をしている春姉を見るのが最近多くなった。
俺が困っているのを見て、明らかに楽しんでる。
これで何か言ったら、また可愛いとか言われるので、グッと堪え、俺はコーヒーを一口飲んで落ち着く。
「でも、春姉とまたこうして話してると、昔に戻ったみたい」
「本当だねー」
「物心ついた時には、もう一緒に遊んでたもんな」
「うん、性別年齢関係なく毎日遊んでたね」
「春姉、活発だったからなぁ」
「ゆうちゃんは女の子みたいだったよ」
小さいときの俺はいつも春姉の後ろをくっついて歩いていた。
何するにも、春姉の真似をしていたのだ。
それで楽しかったし、それでよかったのだ。
「今は……」
「今は?」
「いや、なんでもないよ」
俺は、言おうとした言葉を取りやめ、春姉が不思議そうに首を傾ける。
春姉と懐かしい気持ちを感じながらもカフェの雰囲気やコーヒーを楽しみ、デートを存分に楽しんだ。
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