第7話 罰ゲームというがある意味ご褒美かもしれない

 春姉に今週の日曜日、駅前のカフェに行くという約束をした後は、特に何もない日常を過ごした。


「どうしたよ、そんなのほほんとした顔して」

「いいだろー? こんな何もない日が一番幸せなんだよ」

「そうかぁ?」


 与一は「わからない」といった感じで、俺の顔を見てくる。


「お前は変化のある日常の方が楽しいかもしれないけれどな。今あるこの日常が俺には幸せなんだよ」

「でも、人間は変化を求める生き物だぞ」

「……それもそうだな」

「まぁ、でも変化がありすぎても困るんだけどな」


 与一は苦笑いしながら、髪の毛を整える。

 反応的に、直近でなにかあったのだろうと察する。


 しかし、俺は何も言わないし、何も聞かない。

 それが正解なのか、不正解なのかはわからない。


 教室を出ると、春姉がというか生徒会のメンバーが一緒になって廊下を歩いていた。


 周りの生徒たちが憧れの眼差しで彼ら彼女らを見ている。

 一番注目されているのは、春姉だ。

 二番目に注目されているのは、生徒会長である。


 眼鏡をかけている生徒会長はすこし優秀そうだが堅物感が否めない。

 俺のとてつもない偏見である。


「今、生徒会長を見て悪いこと思ったでしょ」

「へ? ……ってなに!?」


 声のした方を向くと、春姉が俺の隣にいつの間にか立っていた。

 気を抜いていたから気づかなかった。


 いつからいたんだろう。――――てかなんで俺の思ってたこと分かったんだろうなんてことを考えている暇はなかった。


 周りが俺のこと、春姉のことを見ている。

 そのせいで、俺まで注目されてしまう。


「ゆうちゃん、きょろきょろしてどうしたの?」

「春姉のせいで周りからの視線が怖いんだよ」

「怖くないよほらっ」


 そう言って、春姉は見ている周りの生徒たちに笑顔で手を振る。


 男子生徒はその行為にメロメロになり、女子生徒は恥ずかしそうな態度を見せている。


「春姉って、なんなの……?」

「えぇ~? それひどくなーい?」

「いや、悪い意味じゃなくて、単純に怖い」

「怖いって悪い意味だよね?」


 目を細めて、ムッとした表情で俺のことを見る。

 その姿を見て、俺は可愛いと思ってしまう。


 白くきめ細かい肌、つやつやとした髪の毛、大きくクリッとした瞳、スタイルも高校生離れしているため、見惚れてしまう人も多い。俺も例外ではない。


「す、すごいなーと」

「ふーん? まぁ今回は見逃してやるとしよう」


 腕を組んで、フンスと鼻息を鳴らす。

 大きな胸がより強調されている。俺はすぐさま目線を逸らす。


「み、見逃してくれるんだ」

「ん? 日曜日デートしてくれるしね」


 俺の耳に手を当てて小声で話す。

 こういう時だけ周りに気を遣って、小さい声で話してくるのは正直ずるいと思う。


「でも、忘れてたりしたら承知しないから」

「家に突撃してくるだろ」

「女の子は時間がかかるの!」

「じゃあ起こしには来ないんだ」

「もう高校生でしょう? それとも起こしに来てもらいたいのかな?」


 春姉はニヤついた表情で俺のことを見てくる。

 なんだろう、この顔を見ていると異様にムカムカしてくる。


 近所の子供に、ウザい絡み方をされたときとの感情と一緒だ。


「ちゃんと起きるから安心してくれ」

「うん、そうでなくちゃね」


 春姉はそう言って、ニコニコと笑う。

 その笑顔に周りの生徒も、ほわほわとしている。


「小春~? 何してるのいくよー」

「ほら、呼ばれてるぞ、行って来いよ」

「えぇ~、まだゆうちゃんとお話ししたいよ~」

「しなくていい、早く行け」

「もうっ、ツンデレなんだからぁ~」

「ちがうわっ!」


 春姉は「キャーこわーい」とかふざけて言いながら、生徒会メンバーの元へ戻って行く。


 なんで俺の前だとあぁ、なるんだか。

 生徒会にいるときの春姉は別人のようにかっこいいのに。


 でもなんだか、他人という感じが強く感じでしまう。


「何してたの小春」

「ちょっと後輩君と談笑をね」

「あんまり、後輩をいじめないようにね」

「いじめるとは失礼な、楽しくお話してただけですよ」


 春姉はそう言いながらも、俺の方に小さく手を振ってくる。

 周りもいたため、恥ずかしくて手を振り返すことはしなかった。


「それに、あんまり後輩君を勘違いさせないように」

「勘違い?」

「あんたが優しくするから、みんなアンタのこと好きになるでしょう」

「みんなではないと思うけど」

「告白されても

「あはは……まぁねー」

「もう、男子どもに同情しちゃうわよ」


 春姉が男子と一度も付き合ったことがないということだけ、最後に聞くことができた。


 春姉、やっぱり男子のこと嫌いっていうか、付き合うとかは考えてないんだろうな。


 俺はそう考えながら、自分の教室へ戻った。

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