第5話 親切な行動でも誰かが嫌な気持ちになるかもしれない
やはり誤解をしていた春姉が落ち着くまでに、一週間くらいかかった後にまたいつも通りの日常に戻っていた。
「あの…鷹村君」
「どうしたの? 田畑さん」
「今日学級委員の代表が集まりあるから……それを教えたくて」
「あ! 忘れてたありがとう」
「い、いえ……それじゃあ」
田畑さんはそれを言った後、そそくさと離れて行ってしまった。
同じ学級委員として、仲が悪いのは良くないよなー。
「学級委員も大変だな」
「うるせー、笑って見てたくせに」
「お前は適任だと思うぞ? なんだかんだ、誰とでも話せるし」
与一がポンポンと肩を叩いてくる。
慰めというよりも、頑張れといった檄を飛ばすような肩ポンだった。
コミュ力が高いというわけではないのだが、話す程度だったら誰とでも話すことができる。
コミュ力が高いっていうのは春姉みたいな人のことを言う。
アレはコミュ力お化けである。
まぁ、春姉が頼れる存在で優しいからこそ人が集まってくるのだ。
「適任ねぇ……本当かよ」
「本当だって」
「田畑さんとは上手くいってる気がしねぇよ」
「無理に仲良くならなくてもいいんじゃね?」
「それもそうなんだけどさー」
無理に仲良く……たしかにそっちの方が嫌われそうな気がする。
なんか納得がいかないというか……。
「納得いかないんだろ?」
「…………びっくりした」
俺の心の中を読んでくる与一を俺は驚いた表情で見ていたと思う。
「なんだよ」
「いや、こういう展開は女の子としないと意味ないだろ」
「最悪、もう相談乗ってやらんぞ」
「すまんすまん」
実際、こういうやり取りは女の子とするのがお約束だろ! なんで与一のような男と……。
しかし与一は一見チャラく見えるのだが、しっかりと人の話を聞いたり、相談に乗ってくれたりするのでいい男ではある。
恋愛経験はないらしい。なんで、こんなにいい男なのに……。
「なんだその憐れんだ目は」
「いーや? 別になんでもない。彼女ができるといいな」
「フッ、今いい感じの女の子がいるんだぜ」
「おや、早い。まだ入学して一か月も経っていないのに」
「できる男は行動が早いんだよ」
微妙にダサい決め台詞を吐いている、与一を見ながら、俺はこうはなるまいと反面教師にしようと決めた。
「でもさ、人との関係を良好にしたいって思っている時点で適任だぞ」
「急に話戻るな、でもありがと」
◆
放課後になり、学級委員会の集まりに行く。
仕切っているのは生徒会の面々と、風紀委員の委員長と副委員長だ。
前回は生徒会だけだったのに…………そう考えていたら、春姉がさっきから手をふりふりと俺に向かって振ってくる。
委員会の集まりしてるのに、何してんだよ春姉……仮にも生徒会だろ。
「あれが、一条小春さんかぁー」
「やばいな、めっちゃ可愛いってか、あのスタイルはダメだろっ」
「手振ってくれてる!」
聞こえてますよー。
そんな大きな声で興奮していると、本人にまで聞こえますよー。
男子のそういう会話が、周りにも聞こえているので、代表が女子のクラスは、引き気味に男子のことを見ていた。
学級委員会の集まりは風紀委員と合同で朝の挨拶週間という、正門に立ち挨拶をするという謎の週間をやることになった。
「ゆうちゃ~ん、一緒にかえろー」
可愛らしいボブの黒髪を揺らしながら、近づいてくる。
「春姉……自分が人気者だってこと気づいてる?」
「えー、う~ん、友達は多いかなって思う時はあるけど……表面上だけの関係もあるからなぁ」
「な、なんかごめんね」
春姉のその言葉には、どこか深い闇を感じることができた。
それに、なんだか、春姉の表情がすこしだけ暗く感じた。
「別にぃ? ゆうちゃん、いてくれればいーかなー」
キャッ言っちゃったみたいなこと言って抱き着いてくるので、それを引き離し、家に帰ろうと立ち上がる。
そこで、田畑さんが大量の本とプリントを両手に抱えて持ち運んでいるのが見えた。
「田畑さん」
俺が声をかけると、田畑さんは手に持っているものを落とさないようにゆっくりと後ろを振り向く。
――――が、次の瞬間、手が滑ったのか「あっ!」という声とともに田畑さんの両手からバサバサッと本とプリントが床に散らばる。
「ごめんっ、俺が声をかけたせいで……」
「いえっ、私が手を滑らせてしまったせいです」
そう言いながら、床に散らばったものを集めている。
俺も田畑さんの手伝いをする。
「い、いいですよ。そんな手伝ってもらわなくても」
元は俺が声をかけたせいでこの状況が生まれているので、遠慮しないでほしいのだが……。
「元々は俺のせいだし、でも、ものすごい量だね」
「せ、先生に学級委員の仕事と言われて……」
「それなら俺にも言ってくれればいいのに」
「鷹村君は委員会の集まりに行ってくれてましたし、私の仕事なので……」
学級委員の仕事と言うなら、俺の仕事でもあるはずだ。
まだ仲がいいというわけでもしっかり話したこともないからな。
だからといって、田畑さんが俺に遠慮する理由はない。
「私じゃなくて、俺たちのでしょ?」
「で、でも……」
「田畑さんは優しいんだね」
「わ、私は……や、優しくなんて」
俺がそう言うと、田畑さんは顔を赤らめる。
なんかもう、真っ赤だ。頭から煙出すんじゃないかってくらいあたふたしてる。
◆
「ありがとうございました」
プリントや本を集めて先生のところに持って行ったあと、田畑さんに頭を下げられる。
「大丈夫だよ」
「なんか、ほとんど持ってもらって……」
「結構重かったから、大変だったでしょ」
「え、あはは……まぁそうですね」
「これから大変かもしれないけど頑張ろうね」
「は、はい。それでは……」
田畑さんはそう言うと、そそくさと帰ってしまった。
俺も帰るかと、荷物を持ったところで職員室の前で俺のことをジト目で睨んでいる春姉が立っていた。
なんだろう、この異常な怖さ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます