第3話 隣の家の幼馴染は家で完全に無防備である
「えーっと、学級委員をまず決めなくちゃいかんのだが……誰か立候補いるかー?」
先生の呼びかけも虚しく、誰一人手をあげる者はいない。
学級委員長を自分からというのは勇気がいるし、面倒くさいことを進んでやりたくない。
「推薦でもいいぞー」
その一言で空気が変わる。
俺の方を見つめる視線が増えたのだ。
「鷹村君って、先輩たちと仲良かったよね?」
「え? 先輩たちって……あ」
「鷹村よくね?」
「しかもあの先輩って生徒会紹介の時にいたよね?」
じゃあ適任じゃん! という空気が流れてしまった。
早く委員長を決めて、この話し合いを終わらせたいそんな意思が感じられる。
それに、断れる雰囲気じゃなかった。
「鷹村やってくれるか?」
「え、えーっと……は、はい」
内心、クッソやりたくなかった。
春姉のことをすこしだけ恨んだ。
与一が笑いを堪えながら俺のことを見てくるのがわかった。
アイツにはあとで一発、脇腹でも小突こうと決めた。
「それじゃあ、委員長はお前ら二人で決めとけー」
男子の学級委員が俺で、女子の学級委員が……えーっと名前を思い出せない。
けど、黒髪三つ編みで、とてもおとなしそうな女の子だ。
「学級委員長どっちがやろっか」
「え、えーと……どうしましょう」
「そうだねーえっと……ごめん、名前を覚えていなくて、俺は鷹村っていうんだけど」
俺がそう言うと、深呼吸を何回かしていた。
緊張しているのかな? と思うほど目がキョロキョロしていた。
「あはは、大丈夫ゆっくりでいいよ」
「ありがとうございます……わ、私は
「田畑さんね。よろしくー」
同級生なのだから、軽い挨拶で大丈夫だ。
「それで、どっちが委員長をやるかだけど……やりたい?」
「え、え!? そ、そ、そんな私なんかが……」
田畑さんはあれだな、俺と同じで先生や周りから委員長にされちゃった系の女の子だな。うん、そうに決まっている。
「私なんかがって、学級委員やっているわけだし」
「皆さんがやりたくないから、私がやらされただけです……」
「そ、そうかなー……」
なんて話したらいいかわからないし、それに空気が重すぎる。
もー……やっぱりやるしかないかー。
「じゃあ、俺がやるよ」
「え、いいんですか?」
嬉しそうな顔をした後、すぐに眉が下がり申し訳なさそうな表情になる。
でも、ここまできたら委員長をやってもかわらないと感じた。
「うん、大丈夫だよ。後の仕事とかは今度決めようか」
「は、はいわかりました」
「それじゃあ、今日は解散ってことでいいよねー」
そう言いながら俺は背伸びをする。
「は、はい。お疲れ様でした」
「んー、おつかれー」
「で、では……」
田畑は帰るのかと思ったら、なにやらもじもじしながら俺のことを見てくる。
え……何この雰囲気、待って待って? 早すぎるってこういうのはもっとちゃんと相手を知ってからの方がいいんだから。
誠意をもって返事をしよう。
俺は勝手な思い込みをしながら、身構えた。
「あ、あ、ありがとうございましたっ! それでは!」
「へっ? あ、あぁ……」
田畑は頭をものすごい速さで深く下げたあと、バッグを持って教室から飛び出ていった。
俺は自分の顔が赤くなるのがすぐにわかった。
◆
「ただいま~」
帰宅してすぐに、春姉が来ていることが分かった。
玄関に指定靴のローファーが脱いであったのだ。
「春姉……何してんの」
「ん~? ゲームー」
呑気にソファに寝転がりながら、ゲームをしている。
こんな姿を学校の奴らが知ったら、幻滅されるぞ。
「ちょっとだらしなくない?」
「えー? どこらへんがー?」
「制服は着替えたりしなよ」
学校から戻ってきて、一度家に帰ったのなら制服を脱いでから来ればいいものを。
家だって隣同士で近いんだし。
「めんどくさいんだも~ん、それに、ゆうちゃんにすぐ会いたかったんだもん」
「はいはい、そりゃどーも」
「つめたーい」
適当に春姉をあしらい、俺は自分の部屋で着替えをする。
制服を脱ぎ、部屋着に着替えたところで、扉がすこし開いていることに気が付く。
「……気づいてるから」
「あちゃー、ばれちゃったか」
「ばれちゃったかって……で? なんの用?」
「別にこれといって用はないんだけどねー」
「そっか、じゃあ着替えを覗いたただの変態さんなんだね、春姉は」
「え?」
俺は目を細めて、ジトっとした視線を春姉に送る。
もう高校生なんだぞ、という意味も込めて。
「へ、変態だなんて……」
「そういう人、だったんだ春姉って……ショックだな」
「…………ゆ、ゆうちゃんにき、嫌われた」
春姉はそう呟きながら、のそのそと家から出ていった。
「あ、文句言うの忘れてた」
文句はまた今度言えばいいか、今日はなんだか仕返しできた気がするし。
「…………春姉、ブレザー忘れて帰っているし」
今日返した方がいいよなと思い、俺はすぐに春姉の家に行く。
春姉にブレザーを返したのだが、先ほどよりも元気がなくなっていた。
「ちょっと、言い過ぎたかな?」
そう呟きながら、家に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます