第2話 春姉の態度は俺と他人で全く違う
入学式初日から、一番早く登校してしまった。
これも春姉がふざけているせいだ……。
まったく、なにかと俺に悪戯とかからかってくるのは好きだったが、ここ一年くらいは本当に絡むことがなかったからなー。
絡んだとしても正月……いや、それも春姉は高校の友達と初詣とかなにかと充実してそうだったからな。
今日の朝の登校を見る限り春姉は人気者だ。
学校生活も充実していた方に決まっている。
「あれっ? まだ一人しかいねーの?」
はぁっーと深くため息を吐くと、教室の扉から一人の男子生徒が入ってくる。
見た目は少しツリ目で髪の毛はツンツンしている。
ちょっと怖そう……。
「今日はあと……一時間後に登校だぞ」
「ゲッ……まじかよ」
「お前も時間、間違ったのか?」
「そういうお前もだろ?」
「ま、そうだな。俺は鷹村優弥」
自己紹介も混ぜながら、俺の目の前にいる男に話しかける。
俺の名前を聞いて、男は俺の目の前に座ってくる。
「俺は
よろしくと二人でぎこちない笑みを交わす。
男子高校生同士でこんなことをしているのは、多少気持ち悪いと感じてしまうのが思春期なのか。
時間になるまで、与一との雑談を楽しんだ。
中学はお互いどこだったのか、部活には入るのかという話をしていた。
「お、ちょくちょく人が入ってきたな」
「この時間に登校すればよかった」
「そうだなー、どうせだったら女の子と話がしたかった……」
「悪かったな、パッとしない男子で」
俺がそっぽ向きながらそう言うと、与一は笑って俺のことを見ていた。
「なぁ、優弥? お前中学の時彼女いたことあるか?」
「いーや、そんな経験はないね」
「じゃあ、高校ではチャンスだな」
「なにがだよ」
「そりゃお前高校なんて青春することのできる最適な場所だろうが」
「まー、そうかもな」
与一は鼻息を荒くしながら、話している。
俺は驚いて身体を少し後ろへ引く。
「俺は高校生に憧れを持って生きてきた!!!」
「お、おう……」
「絶対、可愛い彼女を作るんだっ」
「わ、わかったよ、応援する……」
「まぁ、お前も頑張れという事だ」
「わかったよ」
「その方が、フラれた時とかに慰めてもらいやすい」
一人よりも二人という事だ。
そっちの方が自分の痛みが少ないという事だろう。
今から自分がフラれることを考えている時点で腰が引けている気がするが……そのことは与一には黙っておこう。
「それじゃあ、廊下に整列してー」
先生の一言で廊下に整列する。
みんなぎこちない。あまり話し声も聞こえないし、これぞ入学といった様子だ。
入学式の妙に長い行事が終わり、俺は正式に高校生になった。
明日からはこの時間に間に合うように登校しなければ。
「ゆうちゃ~んっ!」
「何しに来たんだよ、春姉……」
「遊びに来ちゃった、可愛い後輩のクラスにね」
「あのさぁ……今、友達と喋ってたんだけど」
「ハッ! も、もう友達が……」
「なんでショック受けてんのさ」
春姉はよろよろとうしろにへたり込む。
廊下だから邪魔になっているし、他の生徒に見られている。
まぁ、へたり込んでいるからではなく、春姉の見た目が関係しているだろう。
「ゆ、ゆ、優弥っ! ちょっと来いっ!」
「あ~それでさっきの続きは……」
「そんなのどうでもいいんだよっ!」
そんなのどうでもよくはないだろ、さっきまで話していたんだから。
「あ、あの美人で可愛くて巨乳のねーちゃんは誰だ!」
「え? あー春姉のこと?」
「春姉……? ま、まさか」
「うん、幼馴染」
「あ~、幼馴染ね……っざけんな! お前は敵だったんだな」
なぜ、春姉と幼馴染だからって敵になるんだろうか……。
意味が分からない。
「ゆうちゃん? この子が新しいお友達?」
「よ、与一と申しますっ!」
「は~い、2年の小春って言いまーす、ゆうちゃんと仲良くしてあげてね?」
「それはもちろんなのですが! お、俺は……あなたとも……」
「ん~? 私と、なにかな?」
「あ、いえ……なんでもないです」
「ありゃ? そう?」
春姉……笑顔ではあったけど、なんていうんだろ。
めちゃくちゃ嫌そうな雰囲気を出してる笑顔だったな。
「お前と絡んでるときは女神みたいな人なのに……怖い」
「あはは……弟と思われてるだけだよ」
苦笑いすることしかできない。
「こら、小春」
「あ、
窓から顔を出して話をする春姉のうしろから、さっきのボーイッシュの生徒が来た。名前を朱羽と言うらしい。
「そんな呑気な返事してる場合じゃない、1年生怖がってるから」
「え~だってーゆ~ちゃんに会いたかったんだもん」
「春姉、誤解が生まれそうだから黙っててくれ」
「先輩に向かってその言葉遣いはダメだなぁ~?」
ニヤり……と意味ありげな笑みを浮かべてくる。
怖っ!! と思わず叫んでしまいそうだった。
「じゃあ、私が言う、行くぞこら」
「あーん、ゆーちゃーん」
駄々をこねながら。引っ張られる春姉のその姿はとても先輩とは思えなかったし、思いたくなかった。
「でもいいなー、あんな可愛い先輩が幼馴染だなんて」
「しつこいぞー」
与一の羨ましがる話を適当に返す。
他の男子どもからの「あの女性は誰だっ!」と言う話が絶えなかったのはまた別のお話。
入学初日でなぜか、変に目立ってしまった感が強い。
帰宅の用意をして、教室から出ると、階段を掃除している春姉が俺のことを見つけてぱぁっと顔が明るくなる。
「なんだよ……」
「ゆうちゃん? ここでは私は先輩なんだけどな?」
「小春先輩、なんですか」
「ゆうちゃん、今日一緒に帰ろ?」
「はははー、残念でした1年生はもう帰宅でーす」
「そ、そんなぁ~」
最大限に春姉に煽りをかまして、俺は階段を降りていく。
今日の朝の仕返しだ。これくらい可愛いもんだ。
「小春さん、じ、じゃあ俺と一緒に帰りましょう!」
「えーと……ごめんねー、帰りたくないかなー」
春姉は、男子生徒の誘いを一瞬にして断っていた。
モテるというのも、結構大変なのかもしれない。
しかし、春姉は好き嫌いがしっかりとしているタイプだ。
俺と彼らへの態度が違いすぎる。こんなに可愛くて優しい女の子に、内心では冷たい目を向けられていると思うと、怖くなる。
もし、俺があんな視線を向けられていたら、悲しすぎて夜、枕を濡らしている。
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