燃える怒りを拳に込めて!

 抜かせ! と吼えたゲイザーが再びレーザーでの攻撃を開始する。

 相手を仕留めることよりも牽制としてばら撒き、接近を許さないとばかりに連射して光線を放つゲイザーは、自身の優位を信じて疑っていなかった。


「はははははっ! やはり何もできないじゃありませんか! 魔導騎士見習いなんて所詮はその程度! 私の方が、断然上だっ!!」


 何かのコンプレックスを滲ませる叫びを上げながら、レーザーを放ち続けるゲイザー。

 時に飛び退き、時に地面を転がって、その攻撃を回避し続けるユーゴは、その間に位置を調節しながらタイミングを計っていた。


 しかし、ゲイザーも彼が何かを企んでいることは察している。

 攻撃を繰り出し続けながらも、優れた動体視力を活かしてユーゴの挙動を見逃さずにいるゲイザーは、巨大な目を歪めて楽し気な嘲笑を浮かべた。


「そろそろトドメを刺してあげましょう! これで終わりです!!」


 キュインッ、とこれまでより多くの魔力を集めたゲイザーの目に強い光が溜まる。

 この一撃でユーゴを仕留められなくても、爆発に乗じて撤退してやろうと考えた彼がレーザーを放つために動きを止めたその瞬間、ユーゴが動いた。


「今だっ!!」


 回避運動のために地面を転がったユーゴが、そう叫びながら立ち上がる。

 ゲイザーは、彼がそのまま自分に向けて飛び掛かってきたところをレーザーで迎撃してやろうと考えていたのだが……なんとユーゴはその場で立ち止まり、ゲイザーの真正面に立ってみせたではないか。

 遂に自棄になったのかと、ユーゴを嘲笑いながらチャージを終えたレーザーを放とうとしたゲイザーであったが、その目に紅の光が映る。


「なっ、なんだっ!?」


 不意に生じたその光の出所は、ユーゴの両手だ。

 ブラスタに埋め込まれた二つの魔法結晶が注ぎ込まれる魔力に反応して輝きを放っているのだと、そう理解したゲイザーの目の前で握り締めた両拳をユーゴが打ち合わせた瞬間、二つの光が巨大な閃光となって弾けた。


「クリムゾンストーン・フラッシュ!!」


「ぎっ!? ぎゃあああああああああああああああああっ!? 目がっ! 目があああああああっ!!」


 それは、ただの強烈な発光であった。

 魔力を最大限に込め、それを爆発させただけのただの強い光。ゲイザーが放つレーザーや黒い飛蝗の戦士が使う攻撃のようには使えない、そんな技でしかなった。


 しかし……そのただの強烈な光は、ゲイザーにとって最大の効果を発揮している。

 攻撃を放とうと見開かれていたその瞳に紅の閃光をもろに浴びてしまった彼は、文字通り目を焼かれんばかりの痛みと衝撃に完全にパニック状態になっていた。


「そうか! ゲイザーは確かに色んなものが見えるけど、のが弱点なんだ!!」


 兄の攻撃によって身動きができなくなるほどのダメージを受けたゲイザーの姿を目にしたフィーが叫ぶ。

 先のメルトの不意打ちを回避した際、ゲイザーは得意気に自分の視界の広さと目の良さを自慢していたが……あれは逆にいえば、見たくないものも見てしまうという弱点を露呈していたのだ。


 同時に、その優れた目の能力に頼り切りになっている彼は、視力を奪われると途端に戦意を喪失してしまう。

 シャコなどの動物がそうであるように、最大の武器が持つ弱点を突かれてそれを無効化されたゲイザーがバタバタともがく中、再び手と脚に魔力を充填したユーゴが拳を握り締めながら叫ぶ。


「これで終わりだ! お前が嘲笑ってきた人たちの怒り、思い知れ!!」


「あああっ!? うっ、あああああっ!?」


 拳が鳴る音と叫び声にどうにか顔を上げたゲイザーは、白く明滅する視界の中で黒い戦士がこちらへと飛び掛かってくる姿を目にした。

 拳に紅の魔力を込め、跳躍の勢いを乗せた一発を繰り出すユーゴの姿を見つめることしかできなかったゲイザーの巨大な瞳に、強烈な一撃が叩き込まれる。


「ブラスター・パンチッ!!」


「ぐぎゃああああああああっ!?」


 視界を焼かれただけでなく、パンチによって目に物理的なダメージを受けたゲイザーが悲鳴を上げながら吹っ飛ぶ。

 そこから、どうにかして逃げ出そうとよろめきながら立ち上がった彼であったが、その時にはもう既にユーゴのトドメの一撃が繰り出されていた。


「ブラスター・キィィィィクッッ!!」


「うっぎゃあああああああああああっ!!」


 跳躍を加えてのパンチから流れるように繰り出される、必殺の飛び蹴り。

 魔力を受けて真っ赤な光を放つユーゴの足が、今度はゲイザーの胸に叩き込まれる。


 ユーゴの、メルトの、ゲイザーによって苦しめられた多くの人々の怒りの炎を纏ったかのようなキックは、これ以上ない形で魔鎧獣に炸裂した。

 魔力を込めた二連続攻撃を受けたゲイザーはその破壊力と体内に叩き込まれた魔力が膨れ上がる苦しみに悲鳴を上げ、よろよろとよろめいた後、大爆発を起こす。


「こ、この私が、こんな……ぐああああああああああああっ!!」


 夜の学園に悲鳴と爆発音が響く。

 自分の近くへと飛んできた目の形をした宝石を掴んだユーゴは、人の姿に戻ったゲイザーの前でそれを握り潰すと共に彼へと言う。


「お前のくだらないゲームもこれで終わりだ。観念して、自分のしてきたことに向き合え」


「くっ、くくっ……! これで終わったと思うな! お前たちルミナス学園の生徒たちを憎む者はまだまだいる! そいつらは、私と同じようなゲームを仕掛けてくるだろう! 次はこうはいかない! 次のフィアー・ザ・ゲームの始まりが楽しみだ! あ~っはっはっはっは!!」


「……上等だ。お前みたいなふざけた野郎が何人いようと、全員纏めてぶっ潰してやるよ。俺がみんなを守る……ヒーローとしてな」


 負け惜しみか、あるいは次なる同志が仇を討ってくれることを信じての言葉か、ゲイザーだった男はユーゴへと狂ったように笑いながらそう叫んだ。

 その言葉に対して、淡々と守る者としての覚悟を語りながら……ユーゴは、静かに戦いへの決意を固めていくのであった。

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