ユーゴVS盗撮犯!
「格好付けても無駄ですよ。あなたもそこに転がっている友達と同じ目に遭わせてあげましょう!」
余裕たっぷりにそう答えるゲイザーと向かい合いながら、仕掛けるタイミングを計るユーゴ。
ユーゴが右に動けば、同じように右に縁を描くように動き、一定の距離を保ち続けるゲイザーは、完全に待ちの戦術を取るつもりのようだ。
時間をかければ援軍が駆け付けてくれる可能性もあるが、不利を悟ったら相手は逃げの一手に打って出るだろう。
多少の危険は承知でも、こちらから動くしかないと判断したユーゴは、拳を握り締めると共に一直線にゲイザーへと躍りかかっていった。
「はあっ! てやあっ!!」
脚に魔力を込め、瞬発力を高めての接近。相手との間にあった距離を一瞬で消滅させたユーゴがゲイザーへと拳を向ける。
しかし、ゲイザーはその攻撃をひらりと躱すと、そこから繰り出されるユーゴの攻撃を回避し続けた。
(ダイの時と同じだ! こいつ、攻撃を避けるのが異様に上手い!)
ナイフを使ってのダイの素早い攻撃を全て回避し続けたゲイザーは、ユーゴの攻撃もまた同じように避け続けている。
だが、相手の動きにそこまでの速さを感じないユーゴは、ゲイザーが攻撃を避け続けるからくりを解き明かすために、攻めのパターンを変えてみせた。
「しっっ! はっっ!!」
更に距離を詰め、時に相手を掴むことも厭わないムエタイをベースにした俺流拳法での攻撃を仕掛けるユーゴ。
肘や膝といった当たれば大ダメージになる攻撃を素早く繰り出す彼であったが、ゲイザーはその攻撃すらも全て回避し切ってみせた。
「無駄だと言ったでしょう? あなたの攻撃は私には通じない!」
「……さあ、それはどうかな?」
「ふふふ……! 強がりは得意のようですね。その兜の下のあなたの顔が、焦りで歪んでいる様が目に浮かびますよ」
そう、挑発するゲイザーであったが……実際のところ、ユーゴはそこまで焦ってなどいなかった。
少なくとも今の攻防で相手に攻撃が当たらないからくりの正体に気付けたからだ。
(こいつが攻撃を回避し続けられる理由は至ってシンプル、俺の動きが見えているからだ)
いきなりの戦い方の変更、それもこの世界の人々には馴染みがないであろう武術を使っての半ば不意打ちのような攻撃にもゲイザーは対応してみせた。
それはつまり、反射神経で攻撃を回避しているのではなく、ユーゴの動きを見切った上で回避行動を取っているということだ。
ゲイザーは目に関する能力を数多く持っている……そう、フィーは言っていた。
愛するニチアサ作品にも同じようなモチーフかつ、似た能力を持つ怪人がいることを知っていたユーゴは、ゲイザーが優れた動体視力を用いて相手の攻撃を見切っているという確信を得ると共に、その対抗策を考え始める。
(動きの速さから察するに、あいつは身体能力自体は高くねえ。だったら、体力を消耗させれば可能性はある。だが――)
真っ向から普通に戦う状況なら、いくらでも勝ちようはある。
細みかつ嫌味なゲイザーは特殊能力こそバリエーション豊かなものが揃っているようだが、素の身体能力は低そうだ。
ならば、その弱点を突くためにも攻撃を仕掛け続け、相手を消耗させれば……と考えるユーゴであったが、相手には逃走という選択肢があることがネックになっている。
ゲイザーが少しでもマズいと思えば即撤退しかねないこの状況では、相手が疲れるまで戦いを続けること自体が難しい。
その証拠に、ユーゴの攻めに辟易し始めた相手は、逃走の隙を作るべく反撃に打って出ることにしたようだ。
「なかなかやりますね。では、これならどうです?」
「ちっ……!!」
キュオン、という音と共にゲイザーの巨大な一つ目に光が集まる。
先の攻撃を見ていたユーゴが慌てて横に飛び退けば、今の今まで彼がいた地点に細いレーザーが着弾し、小さな爆発を起こした。
「はははははっ! いつまでそうやって逃げられますかね? 足を止めた瞬間、いたぶってあげましょう!」
嫌味なゲイザーの嘲笑が暗闇に響く。
素早くレーザーを連射する攻勢のせいで、ユーゴは回避で手一杯で接近する隙を見出せなくなっていた。
紫の鎧での強引な接近も考えたが、そうなったら相手は逃亡を選択するだろう。
鈍重な紫の鎧では咄嗟の追跡ができなくなってしまうと、フォームチェンジの選択肢を消したユーゴが、ゲイザーの猛攻を回避し続けていると……?
「さあ! さあ! そろそろ足が止まる頃……ん?」
「んっ……?」
レーザーを連射していたゲイザーの動きが、不意に止まった。
そこからバックステップを踏んだ瞬間、彼の立っていた地面に紫色に光る剣が突き刺さる。
「くっ……! 当てられると思ったのに……!!」
「残念でしたね、お嬢さん。単眼だからと侮っていたようですが、私の視界は三百六十度全域に渡る。そんなに眩しく光る剣を見落とすわけがありませんよ」
どうやらメルトが不意打ちとして魔力剣を放ったようだが、目に関する能力を持つゲイザーは視界もかなり広いようだ。
あっさりとその攻撃を回避したゲイザーは、そろそろ騒ぎを聞いて援軍が駆け付けるかもしれないと考え、撤退しようとしたのだが……その瞬間、不敵なユーゴの声が響いた。
「はっ、なるほどな……! 今のでお前の弱点がわかった。同時に、倒し方も見えたぜ!」
「はぁ? 何を言うかと思えば……私の強さがわかった、の勘違いでしょう?」
「勘違いしてるのはお前の方だ。終わりにしてやるよ、変態目玉野郎!」
自分の弱点がわかったというユーゴの言葉を、鼻で笑うゲイザー。
遠距離からの不意打ちにも対応できる視界の広さを披露した今の攻防で、自分が弱点を露呈するはずがない。
大方、自分を逃がさないためのハッタリをかましたのだろうと考えた彼は、敢えてそれに乗ってユーゴを完膚なきまで叩きのめすことにしたようだ。
「いいでしょう。あなたのハッタリに乗ってあげます。せいぜい無駄な足掻きを見せて、私の前にひれ伏しなさいっ!」
「俺の言葉がハッタリかどうか……すぐにわからせてやるよ!」
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