Wake Up The HERO!燃え上がれ!

「だっ、ダイ様っ! 頑張ってっ!!」


「そんな奴に負けないでください、ダイ様っ!」


「ぐっ、ぐぅぅ……っ!」


 予想外の事態に遭遇したダイは、数名の女子たちの応援を受けながらゲイザーの魔鎧獣との戦いに臨んでいる。

 優れたステータスと現時点で用意できる最上級の武器を使い、果敢に挑みかかった彼だが……ゲイザーを前に、一方的な戦いを繰り広げられていた。


「その程度、ですか……ふふふっ! 随分と女子たちから持ち上げられていたようですが、大したことありませんね」


「なっ、なにぃ……っ!」


 巨大な目を歪めて自分を嘲笑うゲイザーの言葉に、怒りを募らせるダイ。

 武器であるナイフを握り締めた彼は、魔力で身体能力を強化した状態で何度もそれを振るったのだが……魔鎧獣には一発も攻撃が当たらないでいる。


「あっはっはっはっは! 無駄無駄! 無駄ですよっ!!」


「くそっ! どうしてだ!? なんで俺の攻撃が当たらない!?」


 全く未知の敵であるゲイザーの魔鎧獣との戦いでは、折角のゲーム知識を活かすことができない。

 ならばと転生ボーナスで与えられた高いステータスでのごり押しを試みるダイであったが、ゲイザーはそんな彼の攻撃をひらりひらりと回避し続けている。


 どんなに鋭く踏み込んでも、フェイントを仕掛けても、攻撃がかすりもしない。

 猛然と攻めるダイがどれだけ必死になっても攻撃を当てられない様を見ている女子生徒たちは、不安と恐怖を募らせているようだ。


 あのダイが、英雄候補であり、自分たちよりも数段上の実力を誇る彼が……完全に翻弄されている。

 それほどまでにあの魔鎧獣は強いのかと、ダイを子ども扱いするゲイザーの脅威に怯える女子の前で、魔鎧獣はニタリと笑みを浮かべながら呟いた。


「遊ぶのも飽きましたし、そろそろ終わりにしましょう。さあ、おやすみの時間ですよ!」


「あっっ!?」


 キュイン、とゲイザーの瞳に光が集まり、それが太い光線となって照射される。

 至近距離から放たれたビームを目の当たりにしたダイは、ただ小さな叫びを上げることしかできずに光線の直撃を受け、吹き飛ばされてしまった。


「あっ、ぐっ……がはっ……!」


「だ、ダイ様……!? そんな……!?」


「さて、これで邪魔者は消えました。さっさと逃げるのもいいですが……一人くらい、戦利品として持ち帰ってもいいですよね」


「いっ、いやっ! いやあっ!!」


 ダイが敗北する様を目の当たりにした女子たちは、続くゲイザーの言葉に完全にパニックに陥っていた。

 教室からその様子を目の当たりにしていたメルトは、拳を握り締めると共に彼女たちの下に駆け付けようとしたのだが……その肩を、ユーゴが掴んで止める。


「ここは俺に任せてくれ。メルトは、ミーナや倒れているみんなを頼む」


「どうして!? 私も戦えるよ! あいつだけは、一発殴ってやらないと気が済まないもん!」


「ダメだ。あいつは不利だと判断したらすぐに逃げるだろう。二対一でも、遠距離攻撃が主体なメルトが戦っても、きっとあいつは逃げちまう。あのゲス野郎を捕まえるには、俺が一人で戦うしかねえんだ」


「っっ……!!」


 ゲイザーにとっての勝利は、この場から逃げおおせること。少しでも不利を悟れば、即座に撤退してしまうだろう。

 敵を逃がさないためには、相手を調子付かせた状態で逃亡の隙を与えずに倒すしかない。

 そのためには自分が一人で戦うしかないというユーゴの意見に、メルトは悔しそうにしながらも納得したようだ。


「……わかった。あいつの相手はユーゴに任せるよ。私やミーナ、被害に遭った女の子たちの悔しさと怒り……全部、預けるから!」


「……ああ、任せろ」


 静かにそう答えつつ、窓から飛び降りるユーゴ。

 女子たちに迫るゲイザーの正面に着地した彼は、醜い魔鎧獣を睨みながら背後の生徒たちに言う。


「早く逃げろ! ここは危ねえぞ!」


 魔鎧獣から自分たちを庇うように立つユーゴのお陰で、女子たちも少しは冷静さを取り戻せたようだ。

 大慌てでその場から逃亡し、思い思いの場所に身を潜めていった。


「ふぅん……次はあなたですか。あなたさえいなければ私ももっと楽しめましたし、あのピンク髪の娘の写真だって撮影できた。ちょうどいい機会です。私の邪魔をしてくれたお礼をたっぷりとしてあげましょう」


「何が楽しめた、だ……! 自分の楽しみのためだけに、どれだけの人を傷付けたと思ってやがる……!!」


 最低最悪の男に対し、メルトが怒りを燃え上がらせていたように……ユーゴもまた、激怒の炎を心の中に渦巻かせていた。


 怒りに震える拳を、音が響くくらいに強く握り締める。

 悪を許さないという強い決意を瞳の中に燃え上がらせながら、鋭い眼光でゲイザーを睨んだユーゴは、左腕のブラスタに魔力を注ぎながら、腕を大きく振って叫んだ。


「変っ、身っ!!」


 紅い光が渦を巻く。暗闇の中に、火花のような輝きが弾ける。

 黒く光るボディに真っ赤な血を通わせ……光の中から姿を現したユーゴは、戦いの構えを取ると共にゲイザーへと吼えた。


「覚悟しろ。沢山の人たちの心を傷付け、踏みにじった貴様を……俺は絶対に許さんっ!!」


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