GAZER:嘲笑う瞳
「!?!?!?」
「あっ……!? だっ、だめっ!!」
聞き慣れない中年の男性の声を聞いた瞬間、ミーナは自身の左目を手で押さえた。
しかし、その隙間からぬるりと何かの液体のようなものがあふれ出すと共に、彼女の前で人の形を作り上げていく。
真っ赤なタイツを着ているような人型が構成されたかと思えば、胸部分に黄金の鎧が作り上げられる。
最後に出来上がった顔は巨大な一つ目のみで構成されており、それを邪悪に歪めて笑う謎の怪物に対して、ユーゴが叫ぶ。
「お前がこの事件の真犯人か!! どこから出てきやがった!?」
「最初からず~っと、この子の目に潜んでいましてね……まさか、こんなに早く犯行方法に気付かれるとは。力を手に入れて調子に乗り過ぎましたかね」
口もないのに流暢に話す目の前の魔鎧獣は、間違いなく人間が変貌したものだ。
ラッシュと同じような力を手にした人間がここにもいただなんて……と驚くユーゴへと、敵を観察したフィーが言う。
「兄さん、こいつは人間とゲイザーが融合した魔鎧獣だよ! 目に関する能力をいっぱい持ってるんだ!」
「ん~、賢い子だ。君がそこの間抜けを論破した場面は実に面白かったよ」
「おっ、お前、何者なんだ……!? 人間、なのか……?」
ユーゴたちと違い、人間が変異した魔鎧獣と遭遇したことのないダイたちは、恐怖で怯えきっているようだ。
その中でもなんとか声を発したダイへと、ゲイザーの魔鎧獣が答える。
「素晴らしい力を手に入れた人間、ですかね。実験がてら色々と試させてもらってるところですよ」
「盗撮をした理由は、自分の能力を確かめるためのお遊びだったってことか?」
「少し違いますかねぇ……私は、あなたたちを恐怖させたかったんですよ。ちょっと家柄が良くって、いい魔道具を持っているだけでエリート扱いされるボンボンのあなたたちが怯え、泣き叫ぶ様を楽しむ……そういうゲームをプレイしてたんです」
「何っ……!?」
ニタァ……と、巨大な目を歪めて邪悪に笑うゲイザー。
その瞳に何かの光が灯る様を目にしたユーゴは、咄嗟にフィーとメルトを庇いながら床へと倒れ込む。
「フィー! メルト! 危ないっ!!」
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
ユーゴが二人を抱えながらゲイザーに背を向けて床に倒れたのと、魔鎧獣の巨大な目から怪しい光が放たれたのはほぼ同時だった。
咄嗟に顔を背けたダイや位置的にその光を浴びずに済んだ女子たちは無事だったが、ヴェルや大半の女子生徒たちはその光を浴びてそのまま床に崩れ落ちてしまう。
「今のはっ!?」
「ゲイザーの催眠光線だ! 直視したら気を失って、暫く目を覚まさない!」
「ふぅん、まあまあ避けられてしまいましたね。まあ、いいか。では、おさらばさせていただきますよ。私はこれからもあなたたちのことを監視していますからね……! せいぜい、怯え続けるといい。あははははははははっ!!」
「ま、待てっ! 逃がすかっ!!」
「だ、ダイ様っ!」
生徒たちの大半を行動不能にしたゲイザーが、窓ガラスを突き破って外へと逃げていく。
その後を追って窓から飛び出したダイと、その彼を追って部屋を出ていった女子生徒たちを追って、ユーゴも駆け出そうとしたのだが……そこでメルトが泣きじゃくっているミーナに寄り添っていることに気付いた。
「ミーナ、大丈夫!? しっかりして!」
「め、メルト……! ごめん、本当にごめんなさい……!!」
倒れている女子生徒たちもそうだが、彼女を放っておくわけにもいかない。
一旦、ゲイザーをダイに任せることにしたユーゴは、メルトと同じようにミーナの下に歩み寄ると、彼女へと質問を投げかけた。
「あいつに脅されてたんだな? それで、協力を……」
「ごめんなさい……! ある日いきなりあの怪物が現われて、目に取りつかせろって……! 断ったら、盗撮した女の子たちの写真をばら撒くって脅されて、それで……っ!!」
「ミーナは、みんなを守ろうとしたんだね。そのためにあいつの言いなりになって……!」
「でも、結局何もできなかった。それどころか、被害を拡大させて、みんなを傷付けて……! ごめんなさい。本当にごめんなさい……!!」
涙ながらに語るミーナに責任を問うというのは酷な話だろう。
ある日突然に見たこともない魔鎧獣が出現し、友人たちを人質に取って脅迫されたら……成す術なく従ってしまうのも仕方がない話だ。
目に取りつかれている以上、このことを誰かに話すわけにもいかない。
離れているタイミングがあったのかもしれないが、それでも監視されている可能性が高かったはずだ。
誰にも助けを求められず、犯罪者に手を貸し続けるしかないという状況は、ミーナの心を深く傷つけていたに違いない。
ユーゴに強く当たったのも、自分の罪悪感をごまかすために無意識のうちにそうなってしまっていたのだろう。
「……許せないよ。友達を想う気持ちを利用して、共犯者に仕立て上げるだなんて……!」
泣きじゃくるミーナの姿を見つめるメルトが、握り締めた拳を怒りで震わせながら呟く。
ミーナを、彼女の友達を守りたいという気持ちを利用し、悪辣な犯罪の手助けをさせていたゲイザーへの怒りが燃え上がる中、外から女子生徒たちの悲鳴が響いた。
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