『なぜ』、盗撮犯は見えなかったのか?

 その言葉を待っていたかのように……ユーゴが、小さな声で答えた。

 ダイだけでなく、この場にいる全員が驚きに息を飲む中、ポケットから写真を取り出したユーゴがそれを見せつけながら口を開く。


「みんな、これを見てくれ」


「これって……!?」


 ユーゴが取り出した写真には、一人の少女が写っていた。

 それを目にした生徒たちが揃って彼女の方を向く中、写真の中の少女ことミーナは怯えた表情でユーゴを見つめている。


「な、なによ、それ? 私の写真? それが、何だっていうの……?」


「みんなも見比べてみてくれ。今、目の前にいるこいつと、写真の中のこいつを……そうすれば、違和感に気付くはずだ」


 言われた通り、二人のミーナを見比べる生徒たち。

 ほんの数秒も経たずして、彼らはユーゴが言わんとしていることに気付き、声を上げる。


「目の下のほくろの位置が……逆になってる!?」


「そうだ。右目にあるはずの泣きぼくろが、写真の中だと左の方にある。つまりこれは、鏡に映った自分自身を撮ったものなんだよ」


 ユーゴが感じていた違和感の正体。それは、ミーナの特徴的な泣きぼくろが写真の中では逆になっていることだった。

 そのことに気付いた時、彼はこの事件の犯人と盗撮の手段に辿り着くことができたのである。


「詳しい方法はわからねえ。だが、ミーナ……お前は、自分が目にしたものをそのまま写真みたいに撮影できるんじゃないか? つまり、その目自体がカメラみたいな能力を持ってる……違うか?」


「そ、それは……」


「そう考えれば全ての辻褄が合う。盗撮犯は見えてなかったんじゃない。その場にいても違和感を持たれなかった人物が盗撮犯だったんだよ」


 とある半熟の探偵が使っていた自立飛行型のカメラを使っても、とある宇宙飛行士のヒーローのようにステルス機能とカメラを合わせて使っても……犯行には無理がある。

 隠れて撮影しようとすれば、手段や制限時間に何らかの弊害が出るという結論を出したユーゴは、発想を逆転させた。


 犯人は隠れず、堂々と撮影していたのではないか……? その仮説を補強する証拠こそが、ほくろの位置が逆になったミーナの写真だった、というわけだ。


「女子同士なら、裸や着替えを見られても問題ない……さっきシャワー室でお前に言われた時、この手口に気付いたんだ。確かに女子なら、女風呂や女子更衣室にいても何も変じゃない。当然のことだからな」


「じゃあ、さっき無理矢理メルトさんの様子を確認しようとしたのも……!!」


「私の裸を見て、撮影するため……?」


 一つ一つ、行動や事実を当てはめていくユーゴたち。

 ミーナは顔を青くして震え続けており、何も反論できないでいる。


「機材も使わないで撮影ができる能力は盗撮にはうってつけだけど……見たものしか撮影できないから、自分の写真だけは作れない。だから、苦肉の策として鏡に映った自分の姿を撮ったってことか……!」


「ま、まさか、本当にお前が……!? こんな、最低のことを……!!」


 鏡写しになった写真ができあがった理由を呟いたヴェルに続き、信じられないといった様子でダイが呻く。

 俯き、何も言えなくなっているミーナを見つめるユーゴは、彼女にあることを聞こうと思ったのだが……それよりも早く、メルトが口を開いた。


「……ねえ、ミーナ。教えてほしいことがあるの。あなたはどうしてこんなことをしたの? なんだかすごく……ちぐはぐだよ」


「ちぐ、はぐ……?」


「うん。写真を売ってお金を稼ぐのが目的なら、街にばら撒く必要なんてない。そんなに大量の写真を撮る理由もないはずだよ」


 メルトの質問は、ユーゴがミーナに聞きたかったことと同じだった。

 手口に関してはある程度の予想は立てられたが、彼女が盗撮をするに至った同期がわからない。

 何故、こんなことをしてしまったのか……という疑問に対して、メルトが自分なりの答えを述べる。


んじゃないの? 誰かに脅されて、仕方なくこんなことをしたんじゃないの? 盗撮のための能力も、その人から与えられたんでしょ?」


「……っ!!」


「そうなんでしょ? あなたはそんなことをするような人じゃない。誰かに無理矢理命令されてるとしか思えないよ」


 同じ女子寮の住む者として、彼女と交流があったであろうメルトがミーナを信じていると告げる。

 誰かに命令され、無理強いされているのだろうと、そう尋ねるメルトに反応して顔を上げたミーナは、泣きそうな表情を浮かべていた。


「全部話して。あなたの力になりたいの。問題を解決できるよう、頑張るから……だから……っ!」


「メルト……私……っ!!」


 わなわなと唇を震わせながら、涙をこぼしながら……メルトへと縋るような視線を向けるミーナ。

 説得に応じ、全てを話そうとする彼女であったが、その瞬間、邪悪な声が部屋に響いた。


「残念、ここまでですか。仕方がありませんね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る