二人で一人の探偵さ
「……は、ははははは! 何をいうかと思えば……君ね、お兄さんを信じたい気持ちはわかるけど、何の確証もなくそんなことを言うもんじゃないよ」
自分の推理を否定するフィーへと苛立ちを覚えながら、それを感じさせない柔和な笑みを浮かべたダイが彼へと言う。
クズに利用されて死ぬカスのくせに、ゲームシナリオを熟知している主人公の邪魔をするんじゃねえよ……と考えるダイであったが、フィーはそんなダイへと真っ向から反論してきた。
「確証ならあります。僕は研究者だから、魔道具についてある程度は勉強しています。その魔道具を使えば確かに透明になれるけど……効果時間はせいぜい一分程度しかありません。そんな短い時間で、大量の写真を撮影するのは不可能です!」
「はぁ……?」
あまりにも堂々と反論を言い放ったフィーの態度に、違和感を覚えるダイ。
そんな馬鹿なと思う彼であったが、フィーは自分の意見に絶対の自信を持っているようだ。
「そ、そんなの、お前が間違ってるかもしれないじゃないか。この魔道具は、ずっと長い効果時間を持ってるかも……!」
「だったら試してみてください。あなたが望む結果にはならないでしょうから」
フィーの反論に声を詰まらせたダイが、自分が掴んでいる魔道具を見やる。
おかしい。イベントでは確かにこの魔道具を使って、ヴェルが犯行に及んだはずだ。
フィーの言う通り、実験すれば全てがはっきりするのだろうが……もしも自分の意見が間違っていたら、とんだ赤っ恥を掻くことになる。
それを回避するため、ダイは自分の意見をごり押していった。
「こ、効果時間なんてどうだっていい! もしかしたら何か裏技を見つけ出した可能性だってあるじゃないか! それだけじゃ、あいつが犯人じゃないって証拠には――」
「証拠ならまだあるぜ。画角だ」
フィーの意見を何とかして否定しようとしたダイの背後から、ユーゴの声が飛ぶ。
ヴェルの机から数枚の写真を取った彼は、そのままダイの方を向くと共にこう話し始めた。
「見ての通り、あいつの身長は初等部のフィーと同じかそれより低いくらいだ。近距離でカメラを構えた場合、自ずと被写体を見上げる形になる。そうなると、撮影した写真も同じように被写体を下から撮影したものになるはずだが……」
そう言いながら、ユーゴがダイへと街にばら撒かれた盗撮写真を差し出す。
そこに写っている女子たちが、目線とほぼ同じ高さから撮影されている様を目にしたダイは、息を飲むと共に口をぱくぱくと開け閉めし始めた。
「う、う、腕を伸ばして、構図をごまかしたのかも……? 魔法でちょっと宙に浮くとか、あとは……」
「片手にその魔道具を持って透明になりながら、もう片方の手だけを使って、レンズを覗かずに写真を撮ったってことか? しかも、周りにバレないように気を配りつつ、あれだけ大量の写真を?」
「あ、う……」
無理がある話だと、ダイ自身も思った。
魔道具と魔法を使いつつ女子たちに気付かれないように盗撮を行い、制限時間まで気にしなければならないとなれば、街にばら撒けるだけの写真を撮影できるはずがない。
女子たちも話のおかしさに気付き始めたようで、ざわざわと騒ぐと共にお互いに不安気に顔を見合わせていた。
「流石だな、フィー。俺は魔道具のことはさっぱりだから、助かったぜ」
「兄さんの方こそ、あの人が犯人じゃないって気付いてたんだね! やっぱりすごいや!」
頼もしく推理を披露してくれたフィーの頭を撫でながら、弟を賞賛するユーゴ。
メルトと同じく、自分が目にしたものを信じ、そこから導き出した答えを技術的な観点から意見を述べてくれたフィーと共に補強することで、間違った答えを正すことができた。
お互いに足りない部分を補う、二人で一人の探偵としての活躍を見せた兄弟が笑みを浮かべてお互いを讃え合う中、ゲームシナリオを知っている自分が間違えるはずがないという考えを捨てられないでいるダイが叫ぶ。
「なら、誰が犯人だっていうんだ!? 他に盗撮の手段も思い付かなければ、容疑者だっていないだろう!?」
「いや……犯人はわかってる。証拠も、ここにあるぜ」
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