side:ダイ(迷探偵と化した男の話)
「ダイ様! メルト……と、おまけ二人を連れてきました!」
「ああ、ありがとう。これで役者は揃ったね」
ミーナからの報告を受けたダイは、自分の勇姿を見せつけたい相手が来てくれたことに嬉しそうにほくそ笑んだ。
だが、メルトが若干髪を湿らせた上に顔を赤くしている、所謂風呂上がりの状態であることと一緒にやってきたユーゴの姿を見て取った瞬間、怒りの感情が込み上げてくる。
(どうしてクズユーゴが風呂上がりのメルトと一緒にいるんだよ!? まさか、裸を見たりなんてしてないよな!?)
そんなことはありえないと自分自身に言い聞かせるダイであったが、残念ながらユーゴはメルトの裸をバッチリ見ているし、それもこれで二回目である。
まあ、そんな残酷な真実は知らない方が彼も幸せだろう。
思いっきり嫌な気持ちになったダイであったが、どうにか気を取り直すと共に集まった面子を見回した後……怯えている一人の男子生徒へと視線を向ける。
ずいっ! と彼との距離を詰めたダイは、卑劣な悪漢を成敗する正義の勇者のような雰囲気を醸し出しながら、彼を追及していった。
「卑劣な盗撮犯め! お前のやったことは全てわかっているぞ! 素直に罪を認めたらどうだ!?」
「ちっ、違う! 俺は盗撮だなんて、やってない!!」
「……な~んか見覚えあるな、このやり取り。マジで他人事とは思えねえっつーか……」
今朝方、似たような感じでダイに問い詰められたユーゴは、今現在自分の目の前で彼に問い詰められている男子生徒を不憫に思った。
小さな体をぶるぶると震わせながら容疑を否認しているのは、新聞部員のヴェル・グリーザだ。
新聞部の部室に連れて行かれた時点でもしやと思ったが、どうやらダイは彼が犯人だと主張しているらしい。
「しょ、証拠はあるのか? 俺が犯人だっていう証拠は!?」
「ああ、あるとも。事件解決のために必死になって探してね……ようやく見つけたんだ、お前の悪事の証拠をな!」
一応補足ではあるが、ダイは必死に証拠探しなんてしていない。
ゲーム知識を活かし、お目当てのアイテムがある場所をささっと調べただけだ。
そうやって手に入れた細長い箱のような魔道具をヴェルへと突き付ければ、彼はびくっと体を震わせた後で顔を引き攣らせてみせた。
「そ、それは……!」
「新聞部の倉庫の中にあった魔道具だ。お前だって、こいつの存在は知っているだろう? こいつに魔力を注げば……!!」
手にした箱へと魔力を注ぎ、その効果を発動するダイ。
魔力を受けた箱が薄く発光したかと思えば、それを手にしている彼の姿が見えなくなったではないか。
「き、消えた!? こんな魔道具があったなんて……!!」
「そう! これが見えない盗撮犯の正体さ! お前はこの魔道具を使い、女子風呂に忍び込んだ! そうして女子たちの裸を撮影したんだ!」
「違う! 確かにそういう魔道具があることは知ってた! でも、俺たち新聞部は使ったことなんてない!!」
「それを誰が信じる? こうして部の倉庫にあった以上、疑わしいのは間違いないだろう?」
必死にダイの推理を否定するヴェルであったが、場の空気からしても自分の言葉に信ぴょう性がないことは理解できたのだろう。
口を閉ざし、絶望的な表情を浮かべる彼へと、ダイが得意気に推理を語り続ける。
「お前は自分たちが手掛ける新聞の需要が薄まっていることに焦っていた。そこで、派手な事件を起こすことで自分たちの必要性をアピールしようとしたんだ。街に写真をばら撒いたのは、ついでに小遣い稼ぎでもしたくなったからだろうさ」
「違う! お前の推理は全部的外れだ!! 俺は盗撮なんてしてない!」
「いい加減にしろ! 見苦しいぞ! せめて、自分の罪を素直に認めるくらいしたらどうだ!」
「そうよ! この卑劣な盗撮犯!」
「最低ね! 私たちを辱めた罪……しっかり償いなさい!」
「うっ、ううっ……」
ガクリと、ダイから一喝され、女子たちから罵倒されたヴェルがその場に崩れ落ちる。
その姿を見つめながら、ダイは犯人を追い詰めた自分の勇姿を自画自賛していた。
(よし! あとはヤケクソになったこいつを倒せば、イベントはクリアだ! これでメルトも俺を見直すはず……!!)
ゲームをやりこんだ自分にとって、このイベントは何度も経験した内容だ。
手口と犯人がわかっているのだから、あとはどこにあるかわかっている証拠を見つけ出して突き付けてやれば簡単にクリアできる。
あとは雑魚であるヤケクソになったヴェルを倒せば、イベントはクリア。
メルトの好感度だけでなく、女子たちからも感謝されてウハウハ……というわけだ。
だから、ダイとしてはさっさとヴェルに暴れてもらいたかったのだが……どういうわけだか彼は女子たちの罵倒に打ち震え続けているだけだ。
面倒くさいと思いながら、一発くらい殴って強引に暴走を引き起こそうかとダイが思った瞬間、ユーゴが口を開いた。
「おい、そこまでにしておけよ。いくら何でもやり過ぎだろ」
「ゆ、ユーゴくん……!」
そう、ヴェルを庇う発言をしたユーゴに対して、女子たちが険しい視線を向ける。
そんな彼女たちを無視してヴェルの傍に歩み寄ったユーゴは、自分を見つめる彼の傍に膝をつくと肩を叩き、声をかけた。
「お前、本当にやってないんだな? 絶対に自分は悪いことをしてないって……そう、胸を張って言えるか?」
「あ、ああ……! 俺はやってない! やってないんだ……!」
「……なら、信じるよ。お前の言葉を、俺は信じる」
自分に縋りつき、無実を訴えるヴェルの言葉に頷くユーゴ。
ダイはそんな二人のやり取りを聞くと、これ幸いとばかりに罵倒の言葉を投げかける。
「なんて奴だ! そんな盗撮犯を庇うだなんて、やはりお前はクズだな!」
(ラッキー! クズがクズを庇って、自滅してくれた~! これでメルトは俺のものだぜ!!)
険しい表情を浮かべてユーゴを罵倒しながら、心の中でウキウキの笑みを浮かべるダイ。
こんな盗撮犯を庇うクズの姿を見たら、さぞやメルトも幻滅するだろう。これを説得材料にすれば、彼女をユーゴから引き剥がすことだってできるはずだ。
やはり最後は主人公である自分が全てを手にするのだと……そう考えた彼は、メルトへと向き直ると彼女に訴えかける。
「メルト! やはり君のような女の子は、あんなクズと一緒にいちゃダメだ! すぐに奴から離れて――!!」
女子たちを怯えさせ、学園を騒がせる盗撮犯を追い詰めた英雄。その犯人を庇うクズを糾弾し、そんな男の傍にいてはいけないと忠告する優しい男。
それが今の自分、主人公にして英雄候補のダイ・カーン。今の自分になら、メルトだって惚れるはず……と考えていたダイであったが、そんな彼の妄想を砕くかのようにして小さな手が上へと延びる。
「……兄さんは、間違ってない! クズなんかじゃない!!」
「は……?」
メルトに向かおうとしていた自分から、この部屋にいる人々の視線を奪った少年の一言に間抜けな声を漏らすダイ。
一度ならず二度までも兄をクズ呼ばわりするこの男への怒りと確かな理由を抱きながら、フィーは顔を真っ赤にしつつ、大声で言った。
「その人は犯人じゃありません! 全部、冤罪だ!」
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