転生者はマジ、超厄カイ!

「兄さん、盗撮事件のことだけどさ……思っていたよりもずっと、大変な事態になりそうだよね……」


「そうだな。まさか、ランク表なんてものまで作られてただなんて……」


 当初は学園内に忍び込む盗撮犯を捕まえようと考えていたユーゴであったが、盗撮写真を買い取る黒幕のような存在がいることやその黒幕に扇動された盗撮犯たちが金儲けや興味本位でこれから学園に入り込んでくるかもしれないという事態に、事件の広がりを感じている。


 このまま盗撮犯が増えれば、大本である真の盗撮犯に辿り着くことが困難になる上に、女子生徒たちの被害が増えてしまう。

 事件を一刻も早く解決しなければ、被害は甚大になり続けると……そう考えたところで、ユーゴはポケットにしまっておいた写真を取り出した。


「兄さん、その写真って……!?」


「さっき捕まえた男から回収した物だ。本当は警備隊に引き渡すべきなんだろうけど、ちょっと気になっちまってさ……」


 申し訳ないと思いつつも、何か引っかかるところがあった一枚の写真をくすねてしまったユーゴがそれを見つめながらフィーへと言う。

 何の変哲もない、とある女子生徒を写しただけの一枚。それのどこが気になっているのかもわからないユーゴが写真を見つめる中、話の一部分だけを耳にしたであろうメルトが叫ぶ。


「なに~っ!? ユーゴが盗撮写真を隠し持ってるだって~っ!? ちょっと! 私というものがありながら、どの女の子が何が気になったの!? 写真、見せなさいっ!!」


「どあああああああああっ!?」


 バーンッ! と勢いよく扉を開けたメルトが全裸のままユーゴへと詰め寄る。

 大事なところだけは綺麗に湯気で隠れているが、あまりにも堂々としているその態度にはユーゴも驚くしかない。


「馬鹿馬鹿馬鹿! そうじゃねえし、色々と勘違いしてるって! っていうか隠せ! 隠してくれ!!」


「ちゅうと半端に隠すからえっちくなるんだって! むしろ堂々としてる方が大丈夫なの! パンツが丸見えになるよりパンチラの方が興奮するでしょ!?」


「ああ、なるほど。確かに……じゃねえ! そういう問題じゃねえから!!」


 全裸のメルトに詰め寄られながら、彼女の謎の理論に一瞬納得しそうになりながら、赤面するユーゴ。

 フィーがあまりの恥ずかしさに目を覆う中、二人はわーぎゃーと言い争いを続けていたのだが……そこに聞き覚えのある声が響いてきた。


「ちょっと! 何の騒ぎ!? そこにいるんでしょ、ユーゴ・クレイ!!」


「わわわっ!? やっばぁ!!」


 女子の声が響いた瞬間、メルトは大慌てでシャワー室の中に引っ込んでいった。

 ガチャリという施錠音が響くのと同時に、数名の女子を引き連れてミーナが姿を現す。


「今の騒ぎは何よ!? メルトの声もしたけど、あの子に変なことしてるんじゃないでしょうね!?」


「違うって! 勘違いさせたのは悪かったけど、誤解だって!!」


「そうそう! 今のはちょっとじゃれついてただけだから、心配いらないよ!」


「本当に? 信じられないわね……ユーゴ、そこを退きなさいよ。メルトの様子を確かめるわ」


「は? いや、なんでそうなるんだよ……?」


 疑いの眼差しをこちらへと向けるミーナが、ユーゴへとそんなことを言う。

 当然ながら反抗の意志を見せる彼に対して、ミーナは表情を険しくしながらこう続けた。


「隠そうとするだなんて怪しいわね! 本当はメルトにひどいことをしてたんじゃないの? 様子を確認させなさいよ!」


「そんなことしてねえよ。メルトは今、シャワーを浴びてるんだ。裸なのに人を通すわけにはいかねえだろ?」


「同じ女の子同士なんだからいいじゃない! ちょっと確認するくらい、問題ないでしょ!?」


「それを決めるのはお前じゃなくてメルトだ。強引に覗きをしていいわけが……あ?」


 そう、ミーナと言い争いを繰り広げていたユーゴの脳裏にひらめきが走る。

 ポケットの中にしまってある写真へと視線を落とした彼は、再び顔を上げると自分が何に引っ掛かっていたのかを理解した。


「やーやーやー! お待たせ、お待たせ!! どう? 変なところなんてないでしょ?」


「むっ……! まあ、そうみたいね……」


 そのタイミングで服を着て慌ててシャワー室から飛び出してきたメルトの姿を見て、ミーナも渋々納得したようだ。

 メルトを見て、じろりとユーゴを睨んだ後、再びメルトへと視線を戻したミーナは、彼女へと言う。


「じゃあ、行きましょうか。ちょうどいいタイミングみたいだしね」


「えっ? 行くって、どこに?」


「ダイ様のところよ。犯人を見つけ出して、問い詰めてる最中だから、被害者のみんなを集めてくれって言われてるの」


「犯人を見つけた!? 本当なのか!?」


「ええ! 流石はダイ様よ! まあ、あんたも来たければ来てもいいわ。ダイ様のご活躍をその目に焼き付けなさい!」


 ドヤ顔でそう言い放つミーナの前で、ユーゴたちが顔を見合わせる。

 自分たちを先導する彼女の背を追いながら、ダイが見つけ出した犯人とは誰なのかということを、三人は考え続けるのであった。

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