シャワータイム・メルト
「なあ、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だって! 一緒に中に変な物がないことは確認したでしょ?」
「そうだけどさ……」
盗撮犯を教師たちに引き渡し、諸々の事情も説明して……それが終わった頃には、完全に日が暮れてしまっていた。
今度こそメルトとフィーを寮に送るつもりだったユーゴだが、そのメルトからある提案をされて修練場近くのシャワー設備までやってきている。
薄い扉一枚を隔てた状態でメルトと会話するユーゴは、何とも言えない気まずさを感じていた。
それはフィーも同じのようで、指をもじもじと動かしたり、視線を泳がせたりしている。
「やっぱ止めた方がいいんじゃねえか? いくら女子寮の風呂が怖いからって、こんなところのシャワー室を使うことねえだろ?」
「もう遅いって。全部服脱いで、すっぽんぽんになっちゃってるもん」
うぐぅ、と声にならない声を漏らすユーゴ。
そんな彼の反応を扉越しに感じ取ったメルトが、楽しそうに笑いながら言う。
「大丈夫! 【スワード・リング】は装備しておくし、ユーゴたちが傍で見張っててくれるんでしょ? 心配なんていらないよ!」
「そうだけどさぁ……なんか、落ち着かねえじゃん」
「あははっ! そう思うのなら、いっそフィーくんも含めて三人で入っちゃう? 逆に落ち着くかもしれないよ!」
「馬鹿っ! 冗談でもそういうのは止せって!!」
メルトのからかいにユーゴが顔を赤くする中、彼女はシャワーを浴び始めたようだ。
中から聞こえるお湯の跳ねる音にドギマギしながら、頭の中に浮かべそうになる不埒な妄想を追い出すべく、ユーゴは話題を変えていく。
「……そういえば、まだちゃんとお礼を言ってなかったな。朝、庇ってくれてありがとう。お陰で助かったよ」
「気にしないでいいって! ユーゴが犯人じゃないなんてこと、すぐにわかったしさ!」
「まあ、あのダイって奴の作戦がお粗末だったお陰でもあるけど、俺はテンパってそのことに全然気付けなかったし……」
「そうじゃないよ。仮に何の証拠がなかったとしても、私はユーゴを信じてたって!」
そんなメルトの返事に、僅かに驚きを見せるユーゴ。
シャワーを止め、扉の方を向いたメルトは、そんな彼に向けてこう語っていく。
「ユーゴとはまだ出会って間もないけどさ……一緒に魔鎧獣と戦ったり、事件を解決したりしていく中で、色んな顔を見てきた。私が知ってるユーゴは、誰かのために全力で頑張って、守ることに一生懸命になる、時々ちょっと変なことを言う男の子。みんながクズだとか最低な奴だとか言ったとしても、私は私が見てきたユーゴを信じるよ。ユーゴは下着泥棒なんてするような人じゃないって、すぐにそう思った」
「メルト……」
「そもそもこんな状況で覗いたり、乱入しようとしないんだから、それが証拠でしょ! 女の子として見られてないのかって凹む半分、そういう部分が好きだからいいかなって思ってる気持ちもあるんだけどさ」
ユーゴの悪評を知らない状態で知り合ったというのもあるのだろうが、メルトは他の生徒たちと違って、うわさではなく自分が目にしたユーゴの姿を信じている。
初めての依頼でミナを怯えさせるマルコスを叱責したり、養護施設の子供たちに優しく接する姿だったり、彼らを守るために傷だらけになりながらも魔鎧獣と化したラッシュに立ち向かったり……そんな彼のヒーローとしての姿を見ているからこそ、メルトはユーゴのことを心の底から信じ、好意を寄せていた。
ただまあ、奥手過ぎるところは考え物だとは思いつつも、そういう部分もかわいくて好きだと言いながら、再びシャワーを浴び始めるメルト。
そんな彼女からの信頼を感じさせる言葉に対して、ユーゴもまた自分の気持ちを伝えていく。
「……ありがとな。そういうふうに言ってくれるメルトがいてくれるからこそ、俺も頑張れてるんだと思う。フィーの存在もデカいけど……メルトも、同じくらい大切な存在だよ」
この世界に転生して、最低最悪のクズとして毎日のように罵られて……その中で味方であり続けてくれたフィーは、ユーゴにとってこの上なく大きな存在だ。
そして、彼に続いて自分を信じる友達になってくれたメルトは、ユーゴだけでなく雄悟にとってとても大きな存在でもある。
転生してからできた初めての友達……自分を兄として慕ってくれるフィーとはまた違う、されど彼に負けず劣らずの信頼を寄せてくれるメルトには、ユーゴ自身も気付かない内に何度も支えられてきた。
今も決していい状況とはいえないが、それでもメルトからはパワーを貰っている。
彼女の明るさに勇気付けられ、共に戦う彼女に何度も助けられ、そうやって今日までやってきた。
今朝のこともそうだが、フィーとはまた違った形で自分を支えてくれるメルトへの感謝を呟いたユーゴへと、照れくさそうに彼女が応える。
「えへへ……! 助け合って、感謝し合う。いい関係だね、私たち!」
「ああ、そうだな。俺もそう思うぜ」
「へっへ~っ! それにしても、ユーゴってば大胆! 私をフィーくんと同じくらい大切だ、なんて……これはつまり、私は家族だって言ってるようなもの! 事実上のプロポーズだよね!」
「うえっ!? ち、違うって! そういう意味じゃねえっつーの! プロポーズだなんて、そんな――!!」
「あははははっ! わかってる、わかってる! まったく、本当にいいリアクションしてくれちゃって~!」
またからかいか、と思いつつも、ここで全力否定するのはそれはそれで失礼なのではと考えてしまうユーゴ。
こういう時にどう反応するのが正解なのかと考えるも、脳内がヒーロー成分で満たされている彼にとっては、恋愛テクニックなど無縁の代物だ。
ラブ! ラブ! ラブ! の恋愛コンボは劇中同様に役に立たないし、プリティでキュアッキュアな彼女たちの話も男性の自分では上手く活用できない。
せめて、戦うトレンディドラマをもう少しじっくり見ておけば良かった……最終回ばかりが話題になるが、普通に熱くて格好いいヒーローものでもあるし……。
いやでも、あれって結構内情がドロドロしているというか、主人公の元恋人が悪の組織の幹部っていう昼ドラ展開を当時の子供たちはどう受け止めていたんだろうか……? と、当初の苦悩とは全く別の悩みを抱えるようになったユーゴへと、黙って話を聞いていたフィーが声をかけてきた。
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