狙われた学園

 男の答えを聞いたユーゴが大きく目を見開く。

 再び手元の写真へと視線を落とした彼がそこに写るメルトの姿とSの文字を見つめる中、男は更に詳しい情報を話し始めた。


「誰が決めたのかはわかんねえし、どうやって写真と金を取引するのかもわからない。だけど、今朝盗撮写真がばら撒かれた後で回ってきた情報で、信じてる奴は大勢いるんだ」


 そんな男の話を聞きながら、ユーゴはランクが書かれている写真を確認していく。

 あまり知り合いは多くはないため、そこに写っている女子たちの素性はほとんどわからなかったが……今朝、自分に文句を言いにきた女子たちもまた、ランク付けされているようだ。


 BやCが大半で、Aがちょこちょこ。Sランクに属しているのはメルトとクレア、そしてつなぎ服を着たナイスバディな女子くらいのものであることを確認したユーゴは、そこでこのランクについての考察を深めていく。


(シンプルにかわいいからだとか、いい体してるとかで決まってるわけじゃねえ。多分これは、が関係してるんだ)


 ルミナス学園に通っている女子たちは、容姿が整っている者が多い。

 その中でこういったランク付けに影響する部分があるとすれば、写真が撮れる機会の多さというやつなのだろう。


 Sランクの生徒の内、メルトは中庭の片隅にあるユーゴの住処で過ごしていたり、依頼で外に出ることが多いため、写真撮影の機会が少ない。

 クレアは怪我をしたゼノンの看病のためか近頃、姿を見ないし、つなぎ服の女子に関してはこんなに目立つのにユーゴは一度も遭遇したことがなかった。


 つまり、自ずと盗撮できる機会が少なくなるということで……そうなれば、彼女たちの写真は希少性が増していく。

 それが買取ランクに関係しているのだろうなと考えたところで、ユーゴはもう一つの写真の束へと視線を向けた。


「こっちの写真はなんなんだ?」


「そっちはばら撒かれた写真を拾った物さ……そこまでヤバい写真はねえよ」


 その言葉を聞いた後で、もう一つの束を確認していくユーゴ。

 男の言う通り、その写真たちの中には下着姿や裸の女子たちを撮影したものはなく、せいぜいが近距離からのバストアップ写真くらいのものだ。


 その写真の中に自分を責めてきた女子たちの代表とでもいうべき泣きぼくろの女子ことミーナの姿を見つけ出したユーゴが手を止め、その写真を見つめる中、ようやく追いついてきたメルトたちが声をかけてきた。


「ユーゴ! 何があったの……って、その人、何!?」


「ああ、メルト。こいつは――」


 状況がわからないでいるメルトへと、説明を行おうとしたユーゴであったが……そんな彼女の横からダイが飛び出したかと思えば、目にも止まらぬ動きで跪く男の顔をぶん殴ったではないか。


「このっ! こいつめっ!!」


「ぎゃっ!?」


 魔力を込めたダイの一発はかなりの威力で、殴られた男は悲鳴を上げてそのまま伸びてしまった。

 彼の突然の行動に驚くと共に、伸びた男がただ気を失っただけであることを確認して安堵したユーゴは、険しい表情をダイに向け、口を開く。


「何してんだ!? こいつから情報を引き出してる最中だったってのに!」


「あ、ああ……悪い、ついカッとなって……」


 意外にも素直に謝罪したダイであったが、その視線はちらちらとメルトの方に向けられている。

 彼女の前で格好つけたかったか、あるいはやったことを悪いとは思っていないが、これ以上彼女の好感度を下げたくないから謝っているのかのどちらかだろう。


(ラッシュといいこいつといい、メルトも変な男にばっか好かれるな……)


 メルトの男運のなさに同情しつつ、情報源である男が気絶してしまってはどうしようもないと諦めるユーゴ。

 そんな彼の背中を見つめるダイは、心の中で安堵のため息を吐きながらこんなことを思っていた


(危ない……! こいつにこれ以上の情報を掴ませて堪るか!! この事件を解決するのは、俺なんだからな!)


 ダイはこの事件がメルトのキャラストーリーの一部であり、彼女の好感度を上げると発生するイベントであることを知っていた。

 彼女を最推しキャラとしている彼がストーリーの内容を知らないはずがなく、この事件の犯人も当然ながら覚えている。


 ……のだが、今回の事件はダイが知っているのと微妙に内容が違っていた。

 写真が街にばら撒かれるレベルで増えていたり、こんな男の捕り物劇なんか【ルミナス・ヒストリー】ではなかったはずだが……とは思いつつも、盗撮事件が起きてメルトが狙われていることは同じなのだから、まあいいだろうと考えたダイは、同時に余計なことをするユーゴへと恨めし気な視線を向ける。


(お前からメルトを奪い返して、一緒に事件を解決するはずが、こんなことになっちまうだなんて……! こうなったらもう、事件を解決してメルトの好感度を回復させるしかねえ!)


 本来の予定では、ユーゴを見限ったメルトと一緒にこの事件を解決し、彼女といい感じの仲になるはずが……メルトからの評価が地に堕ちるレベルになってしまっている。

 このままでは奪い返すどころか、嫌われっぱなしになってしまうと焦るダイは、どうにかしてこの事件を解決に導くことでメルトからの好感度の回復を図っていた。


 そのためには、これ以上ユーゴに手掛かりを与えるわけにはいかない。

 情報源となる男を殴って気絶させたのは、そのためだった。


(これ以上、クズユーゴとメルトを接近させるか! メルトのラッキースケベイベントを楽しむのは俺だ!!)


 という、実に下心満載な考えを持ちながらユーゴを睨みつけるダイであったが、神様とメルトはそんな彼の身勝手な願望になど一切興味がないようで……?

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