これにて一件コンプリート!

 ……その後、男は警備隊に逮捕され、翌日には隠してあった女子たちの盗撮写真も全て押収された。

 写真たちは取り調べと見分の後で全て処理されたため、女子たちの恥ずべき姿が拡散されることはどうにか水際で阻止することができたようだ。


 ラッシュに続いて発見された人が変身して誕生した魔鎧獣に関しては、先の事件同様にまたしても口外が禁止されることになった。

 幸か不幸か、目撃者である女子たちの大半はゲイザーの催眠光線によって眠っており、あの怪物に関しても悪夢を見たという形で納得させることができた。


 それ以外の生徒たちにも協力を要請し、どうにかこの事件を学園に侵入した不審者が起こした事件という形で処理した結果、ルミナス学園には昨日の騒動が嘘であるかのように平穏が戻っている。


 事件解決と犯人逮捕に尽力したユーゴは、周囲の生徒たちからさぞや褒めちぎられていることだろう……と思ったが、話はそうなっていないようで……?


「ねえ! これ、どうなってるの!? 完全にデマニュースじゃん!!」


 いつもの中庭、ユーゴの住処にて、メルトが学校新聞を指差しながらとある男子に叫んでいた。

 相手はダイに犯人として疑われた新聞部員、ヴェル……メルトの剣幕に圧されながらも、彼は申し訳なさそうに答える。


「悪いとは思うけど、俺に言われても困るよ。この新聞の発行に、俺は一切関わってないんだからさ」


「まあ、そうだよな。体の方は大丈夫なのか?」


「おかげさまで何ともないよ。ご覧の通り、元気そのものさ」


 ゲイザーの催眠光線を浴びて気絶していたヴェルであったが、後遺症などもなく無事に回復したようだ。

 自分を心配してくれたユーゴに感謝した後、彼は自分がいない間に発行された号外の学園新聞を見ながら呟く。


「『変態盗撮魔、撃退される! 捕まえたのは高等部一年のダイ・カーン』か……」


「違うって! あいつは魔鎧獣に負けて、伸びてただけじゃん!」


「犯人を倒したのも、逮捕したのも、どっちも兄さんなのに……」


「……ごめん。先輩たちがダイに抱き込まれて、こんな記事を書いたんだと思う。多分、お金や素材をわいろとして渡されたんだよ」


 盗撮犯逮捕を伝える記事には本来の立役者であるユーゴの名前は欠片もなく、犯人を確保したのはダイということになっている。

 下着泥棒の件も盗撮犯に罪を擦り付けたようで、新聞にはダイを賛美する文章がこれでもかと言わんばかりに書き連ねられていた。


「本当にごめん。俺も抗議したんだけど、誰も聞く耳を持ってくれなくって……」


「いいさ。下着泥棒の容疑が晴れただけで十分だよ。フィーとメルトには悪いけどな」


 本来の手柄をダイに奪われた形になったユーゴであったが、そのことを気にしてはいないようだ。

 ヒーローは自分の功績をひけらかさない……ただ学園の平穏と女子たちの尊厳を守れたならそれでいいと語る彼に対して、ヴェルが質問を投げかける。


「なあ、どうして俺がダイに疑われた時、庇ってくれたんだ? 俺は君を下着泥棒として報道しようとしていたし、恨んでただろう?」


「別に、お前が犯人じゃないってわかってたから、それを指摘しただけだよ。それに――」


「それに?」


「――しんどいよな。何も悪いことなんてしてねえのに、あんなふうに囲まれて犯人扱いされるとさ。ああいう時、俺には信じて、支えになってくれるメルトやフィーがいた。だから今度は、疑われる苦しさを知ってる俺が誰かの支えになってやるべきだって、そう考えただけさ」


 謂れのない罪を疑われるつらさも、クズ扱いされて大勢の人たちから罵倒される苦しみも、ユーゴは知っている。

 そんな時に自分を信じてくれる誰かがいることが、大きな心の支えになることも知っているからこそ、ユーゴはあの場面でヴェルに味方した。


 あのまま一人詰られ続けていたら、やっていない罪を認めていたかもしれない。

 あそこでユーゴが味方になってくれたからこそ、自分は助かったのだと……改めて思ったヴェルは、頭を下げて彼に感謝の気持ちを伝えた。


「……ありがとう。本当に助かったよ」


「いいってことよ。その代わり、次から新聞に俺を記事を載せる時は、ちゃんと取材をしてからにしてくれ」


「あ~……それは無理かな。俺、新聞部辞めたんだ。今回の件で報道が持つ力の強さとか責任とか、冤罪の怖さも知ったし……簡単に真実を捻じ曲げるあそこに居続けられる自信がなくなっちゃったからさ。でも、俺はここで終わらないよ。次からはうわさや風説に左右されず、自分の目で見たものを信じて、報道していこうと思う。君やメルトみたいにね」


「そっか……頑張れよ、ヴェル。応援してるぜ」


 彼の小さな背を叩き、激励するユーゴ。

 その力が強過ぎたせいかヴェルはごほごほと咳き込んでしまったが、気持ちは伝わったようだ。


 改めて感謝を告げて話を終えた彼に代わって、もう一人の人物が口を開く。


「本当にごめんなさい。私のせいで、とんでもない迷惑を……」


「気にすんなって。ミーナだって脅されてたわけだし、被害者に違いはないだろ?」


「でも、私のせいで被害が拡大したのは事実だし……あんたにも強く当たっちゃった。本当にごめんなさい……」


 あのゲイザーに取りつかれ、盗撮に利用されていたミーナからの謝罪を受けつつ、彼女を励ますユーゴ。

 彼女だって被害者だし、自分につらく当たってきた時の精神状態も理解できるから、責めたりなんかしないというユーゴに同調するようにメルトが言う。


「ユーゴがこう言ってる時は、本当に気にしてない時だよ。私だって、もしかしたら同じ立場になってたかもしれないし……自分をそんなに責めないでね、ミーナ」


「……ありがとう。二人とも、優しいね」


 自分を励ましてくれる二人に感謝しつつ、頭を下げるミーナ。

 顔を上げた彼女は、暗さが残りつつも前を向こうとしている雰囲気になりながら、二人へと言う。


「……私、少しの間、学園を離れることになったんだ。やっぱり取り調べとか受けなきゃいけないみたいでさ……」


「そうか……でも、退学するわけじゃないんだろ?」


「うん。先生たちも、元はと言えば自分たちの対処が間に合ってないのが原因だから、って私に罰を与えたりするつもりはないって言ってた」


「じゃあ、待ってるよ。色々と落ち着いたら、また話をしよう。その頃にはきっと、こっちの友達も戻ってきてるはずだからさ!」


 療養中の蟹貴族を思い浮かべながら、メルトがミーナへとそう言う。

 少し泣きそうになりながら頷いた彼女は、何度もお礼を言いつつヴェルと共に手を振って帰っていった。


 いつも通りのメンバーが揃う住処にて、今回の事件を振り返ったメルトが伸びをしながら言う。


「あ~あ! 結局、今回もユーゴに頼りっぱなしになっちゃったな~! 推理は仕方ないにせよ、魔鎧獣との戦いは役に立ちたかったな~!」


「あいつの弱点に気付けたのはメルトのお陰だよ。あいつが光る剣に必要以上に注目してたから、あの戦法を思い付いたんだ」


「それはそうかもしれないけど……やっぱり一緒に戦いたいって思うよ。今回は仕方なかったかもしれないけど、友達なんだから助け合っていきたいじゃん!」


「……助けられてるよ、いつも。俺にとってメルトは、本当に大きな存在だから」


「えっ……!?」


 感慨深そうに語るユーゴの声に、一瞬心臓を跳ね上げるメルト。

 それが友達として、相棒としての意味であることを即座に理解した彼女は、顔を赤くしながらもこう応える。


「私も、ユーゴをおっきな存在だと思ってるよ。だからこそ、置いてきぼりなんか食らいたくない。私も、もっともっと強くなる! それで、頼りになる相棒になってみせるから!」


「今でも十分頼りにしてるよ。……またいつあの盗撮犯みたいな野郎が出てくるかわからねえ。これからも一緒に戦ってくれよな、メルト」


「まっかせなさい! よ~し! そうと決まれば特訓だ~っ! 近距離戦の訓練もした方がいいだろうし、ユーゴが使った目くらましみたいな小技も習得しときたいな~! う~! どれから手を付けようか迷う!!」


 意気揚々と叫びながら、これからの訓練について真剣に悩み始めるメルト。

 そんな彼女の背中を頼もし気に見つめた後、ユーゴはいつも通りの言葉でこの事件を締めるのであった。


「これにて一件コンプリート! ルミナス学園は、今日も晴れ!」



――――――――――――――――――

ここまで読んでくださってありがとうございます。

コミックスを買ってくださった皆さん&いつも応援してくださっている皆さんへの感謝という形で、考えてはいたけど出せなかった短編を出させていただきました。


キャラストーリー、という形なので時系列がぐちゃぐちゃになる可能性はありますが、次のお話では誰をメインにするかは皆さんの声を聞いて決めようかなと思っております。

単行本買ってくれた人はXで教えてくださいね!そちらの方を優先しますんで!


この短編の投稿が終わるまでには本編の更新が復活できてたらいいな……。

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