盗撮事件を追え!
「げっ、ユーゴ!? どうしてあんたがここにいるのよ!?」
「街でばら撒かれた盗撮写真について、話を聞きに来たんだよ」
それから暫くして、学園を騒がす下着盗難事件や女子たちが感じた不審な気配や視線についての情報を集めたユーゴは、最後に新聞部を訪れていた。
今朝に起きた写真ばら撒き事件に関する情報がそろそろ集め終わっているだろうという彼の考えは正しかったようで、そこにはヴェルから話を聞くべく女子生徒たちが集まっている。
その代表のような立場にいるであろう泣きぼくろの女子に噛みつかれたユーゴは、端的に自分の目的を説明してからヴェルに話を聞こうと思ったのだが、その女子生徒はなおも彼に食ってかかってきた。
「とかなんとかいって、盗撮された私たちのあられもない姿を見に来たんでしょ!? 最低ね!」
「写真を見るつもりはねえよ。本当に話を聞きに来ただけだ」
「信じられるわけないでしょ! 下着泥棒のことだって、私は納得してないからね! 本当はあんたがやったんでしょ!?」
「どっからどう考えてもダイって奴が仕組んだ茶番だっただろうがよ……あれか? 俺が忘れてるだけで、お前になんかひどいことして、相当恨まれてるパターンか?」
「昔からあんたを知ってる人間で、あんたのことが好きな奴なんて一人もいないわよ!」
フィーがいる、と言おうとしたところで口を閉ざしたユーゴが、代わりに盛大なため息を吐く。
ただ、周りの女子たちが相当ショックを受けていたり、中には泣いている者もいることから、彼女たちも普通の精神状態ではないのだなとユーゴがヒステリックなその態度に理解を示す中、ヴェルが二人へと声をかけてきた。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。ユーゴさんは俺に話を聞きに来たんでしょう? 朝、犯人扱いしてしまったお詫びとして、いくらでも話してあげますよ」
「ちょっと、ヴェル! あんた――!!」
「ミーナ、気持ちはわかるけど、どうせすぐに記事になるんだ。危ない写真は見せないから、それでいいだろう?」
「っ……!」
どうやらこの泣きぼくろの女子はミーナというらしい。
情報を握っているヴェルは止められないし、彼の言う通りだと思ったのか、彼女は憮然としながらも口を閉ざし、二人から離れていった。
「それで、何を聞きたいんだい?」
「盗撮写真の中身と、それがばら撒かれてた状況だ。詳しく聞かせてもらえると助かる」
いいでしょう、と気取った雰囲気で頷いたヴェルがユーゴを自分のデスクへと案内する。
あまり彼の背丈とは合っていないように見えるデスクの上から数枚の写真を手にしたヴェルは、それをユーゴへと差し出しながら話を始めた。
「我々新聞部が入手した情報によれば、盗撮写真はこの学園の高等部の女子生徒たちをターゲットにしたものという部分が共通している。特定の誰か一人を狙ったのではなく、本当に数多くの女子たちを盗撮している感じだ」
「そんな大勢の被害者がいるのか? 犯人は、写真をどうやって撮影したんだ?」
「そこはわからないけど……信じられないことに、盗撮写真の中には入浴中だったり着替えている最中の女子を撮ったものまであった。女子たちが感じていた気配や視線の正体は、盗撮犯だったってわけだ
「犯人は女子寮の中に侵入し、バレずに撮影までできるってのか……!?」
大量の盗撮写真がばら撒かれたこともそうだが、その中身を聞いたユーゴが想像以上の脅威に顔を青くする。
入浴中の無防備な女子たちの姿まで盗撮されていただなんて……と愕然とする彼に向け、ヴェルもまた渋い表情を浮かべながらこう続けた。
「幸か不幸か、ばら撒かれた写真には、はっきりと女子たちの裸や下着姿が写ったものはなかったらしい。ピンボケしたり、中途半端に見切れてるものばかりだったみたいだが……俺は、犯人が敢えてそうしたんじゃないかって考えてる」
「はっきりと写ってる物は犯人の手元にある。今回のばら撒きは、ルミナス学園の女子たちの盗撮写真を持ってる何者かがいるっていうアピールが目的、か……」
「そうやって顧客を集めて、盗撮写真を売り捌くつもりなんだろうさ」
写真をばら撒いたのは、買い手を集めるためだと推理するヴェル。
敢えて焦らすような写真をばら撒くことで購買意欲を刺激したのだろうと、そう語る彼の意見にある程度同意するユーゴであったが、完全には納得していないようだ。
「……それだけじゃない気がする。買い手を見つけるだけなら、そういうコミュニティを調べればいいだけの話だ。こんな大袈裟な真似をする必要なんてない」
「確かに……ここまで大々的なことをしたら、学園側も女子たちも警戒する。盗撮の難易度も上がるだろうし、アピールの方向性がおかしい気がしなくもないな……」
盗撮写真を所持していることをアピールし、買い手を見つけようとしているという部分まではいい。
だが、こんなに派手なことをしては、これからの盗撮の難易度が跳ね上がってしまう。そうなれば、撮影も難しくなるだろう。
噛み合っているようで微妙にちぐはぐな犯人の行動の目的がいまいちわからないでいるユーゴであったが、そこで視線を写真から女子たちへと向けた。
自分たちのあられもない姿が勝手に撮影され、商品として売り捌かれているという事実にショックを受けている彼女たちの様子を見たユーゴは、その痛ましさに険しい表情を浮かべながら、口を開く。
「……このままになんかしておけねえよな。絶対に犯人を見つけて、写真を処分しなくちゃダメだ」
女子たちを守るためにも、卑劣な盗撮犯を野放しになどできない。
学園も動いてくれてはいるだろうが、学校の復旧にも手を回さなければならない今の状況では、犯人確保まで辿り着くには難しいだろう。
これ以上、犯行がエスカレートする前に犯人を捕まえる。そして、所持している写真たちを処分する。
予想外の巻き込まれ方ではあったが、だとしても自分がすべきことはそれだと頷いたユーゴであったが、問題はその犯人をどう見つけ出すかだ。
今現在、犯人につながる有力な情報はない。まだまだ事件の全容が見えているとは言い難いし、やはり情報収集は必須だ。
とりあえずはメルトとフィーに話をすべきだろうと考えたユーゴは、ヴェルに礼を言った後で住処である中庭の一角に帰還し、そこで待っていた二人と合流してから、ここまで集めた情報を共有すべく、話をしていった。
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