第2話 回覧板と芦屋さん

「ちょっと、回覧板かかってたよ」

帰って来るなり匠は小言をいう。


「ごめん。気づかなかった」

日中テレビをつけていたからか夕飯の調理中に換気扇を回しているからか誰が部屋の前に来たのかは気づかなかった。


「げ」


パラパラ回覧板をチェックしていた匠が真剣にそれを見ていたので

「どしたの」

と一緒に回覧板を見ようとすると匠は一枚の用紙を指差し

「空き巣。この辺に出るんだって」

と告げる。


「また?」

佳奈子は恐怖と呆れが半分といった感じだ。


実はこのアパートには数年前に空き巣に入られている。


佳奈子と匠の隣402号室には4人家族が住んでいた。


家族が旅行中での犯行だった。


4階は最上階でその頃はまだ屋上に続く階段は誰でも登れていた。


しかし事件後、402の住人は引っ越し屋上に続く階段はフェンスとロープで立ち入り禁止になってしまった。


当たり前だ。


「でも前の犯人って捕まったんでしょ?」

犯行当時、佳奈子はまだこの部屋に移り住んでなかった。

不安を拭いたいため匠に問いかける。


「うん」

という返事に落ち着きと疑問が残る。

「どんな人だった?」


「分かんないよ」と匠は頼りなさそうに言う。


全くうちの旦那は役に立たない。


「今日さ、ゴミ捨て場で変な人に会ったんだ。

中年の男の人でさ、匠なんか知らない?」


「そんだけじゃ分からんし」

と言われ彼に聞くのはやめにした。


「もう、早く引っ越したい!」


結婚式まだ挙げてない。

なんでこんなタイミングで怖い目にあわなくちゃならないのだ!


回覧板は匠がサインをし次の住人の部屋のドアにかけて来るようお願いした。



翌日スーパーで買い出し中、思いがけない人に会った。


芦屋さんだ。


正面から買い物カートを押した芦屋さんに「かなちゃん、今買い物?」と声をかけられて気がついた。


「こんにちは」と返すと芦屋さんは

「今日はちょっと寒いよねー」と会話を広げてくれる。


芦屋さんと知り合ったのはスーパーの前の公園で知り合った。ちょっとした買い物の後、公園の自販機でホットコーヒーを買ってベンチでくつろいでいると横からヌッと大きな犬が高い声で

「ワウ!」っと尻尾を振って寄ってきた。


驚いてると

「コラ!すみません」とワンコを叱り謝ってくれたのが彼女だ。


犬は好きだったので

「かわいいですね」

と言うと大型犬が得意な人が周りにいなかったのか

触ってもいいかと聞くと芦屋さんは快くワンコを触らせてくれた。


デュークという茶色の犬は雄で怪我をしていたその子を芦屋さんが引き取って飼い犬にしたらしい。


佳奈子は暇さえあればそういった動物に関する動画を見ていた為、犬に献身的な彼女を尊敬しているのだ。


一緒に会計を済ませたのち彼女は

「かなちゃんにちょっと相談があって」

と言って来たので側のフードコートコーナーに移る事にした。


「デュークがいなくなった!?」

「・・・うん。 今朝からいなくなったから探して警察にも相談したの。で、自分でも探したいけど私もネットに詳しくなくて。ほら、みんなこういう時SNSで呼びかけとかするんでしょ?

かなちゃんやり方とか知ってたらと思って」


芦屋さんは必死だ。

かなちゃんと自分を呼んでくれるひとは私より10以上は年上に見える。


歳を聞いたことはないが近所にデュークと一緒に住んでいる。


てっきり結婚してるかと思いましたとうっかり聞いてしまった時はガサツに笑われて

「いや、自分にそういうの向かないかな〜って」

とデュークとじゃれながら話していた。


彼女にとってデュークは家族だ。


私にとって匠みたいな大事な存在。


なんとしてでも彼女を助けたい。


「芦屋さん、デュークの写真ありますか?」

すると彼女はスマホのアルバムからいくつかの写真を見せてくれた。


数十分後、デュークの写真を入れた捜索願いの呟きを投稿できた。


芦屋さんからは「ありがとう」と何度もお礼を言われ買い出しの際買っていたらしいお菓子を貰った。


「いや、でもデューク絶対見つかりますよ」

念を込め芦屋さんを見送った。

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