召喚主

「お前達! いったいそこで何をしている!」


 その声を聞いたガイトは、もてあそんでいた尺を持ち直して背筋を伸ばす。


「間もなく顕現せんとなさっておられた古の大神様にあっては、この場にて下名が昇神之儀を執り行い、天空へとお送り申しあげ奉った次第にて。……ってトコ」

「お、お前、何をしたかわかっているのか! ここに来るまでどれだけのリソースを……」

「はっ、なら逆に聞くけどよ。ここまで何人死んだよ? 俺が知ってるだけで一〇人越えてんぞ!」


 ガイトは不機嫌そうに尺を放り投げる。


「ガイトさん、あんまり扱いがぞんざい過ぎじゃないの?」

「こう言うのも場合によって使い捨てでね、その辺は神様もわかってるから、べつに怒ったりはしない。こいつぁもう、ただの木の板だよ。だいたい、もともと神道系の神様じゃないしな」


 エリーナに答えてから、改めて声のした方にふり返る。

 農機具倉庫になっているはずのロッカーから、あきらかにキャパを越えて男が三人でてくる。

 先頭にはスーツの男、その後ろに作務衣を着た二人が薙刀を持って続く。


「……へぇ、“腕の薙刀”か。コングレスも知っていたとは言え、御前の情報まではたどり着いてたんだな。――千弦」

「はい」

「オープン前の施設で好き勝手してる以上、スグリの関係者だと思うんだが。――声に聞き覚えは?」

「うーん。たぶん私は知らない、と思うが……」


 多少戸惑いながら千弦が答えたのを聞いてから、ガイトは再度スーツに向き直る。


「お前、死んだってなんだ! そんなもの、僕は知らんぞ!」

「だから言ってんだ。自分が一体なにをしようとしていたのか、把握できてねーんじゃねぇのかっ!?」


「なんの、話だ?」

「いったい何をどう呼び出したのか、キチンと把握ができているのか、って聞いてる。てめぇ、この国自体を潰す気か!」



 かつて存在自体を無に帰されたセイゲツタマヒメは、この国のあり方自体を恨んでいた。

 そしてツキタマサマとして鬼に墜とされた後には、実際に拝み屋や払い屋の類だけでなく、江戸幕府軍や明治政府軍と直接やり合ってさえ居る。


 どちらからみても、今の日本は“自身の国”ではない。

 全て滅ぼしてしまえ、と言うのは御前が鬼である以上、当然の発想であろうし。

 無に帰したうえで一から作り直す。と言うのも、セイゲツタマヒメが神である以上おかしくは無い。


 そして概念だけではなく、実際に現実界に影響を与える事の出来る力を持って、現実界に現れようとしていた。

 ガイトが手をかけた者達も、彼女の復活がなければ死ぬことはなかった。

 つまり彼女の力の余波がおよんで死んだ、と言える。


 名を無くすことを極端に恐れていたようにも見えたが、逆に。

 神である以上、名前が有るだけで人間社会に影響が及ぶ。

 まして肉体を持ってそこに居るとなったら、影響は想像を超えて広範に及ぶ。

 ガイトが言った国が滅ぶ、と言うのも本人が本気で怒って口が滑ったものだったが。

 それも、あながち嘘ではないのである。



「まぁいい、ここで全員潰しておくか。ヒョロイヤツが一人、あとは女子高生だ。やれ」


 薙刀を持った二人が姿勢を変えるが。


「あら、聞いた事がある声だと思っていましたが。栄信さんでしたか」

「……! お前は総本家のお嬢、二千花にちかか!」


「おじいさまの真之介様は、神頼みどころか占いさえ大嫌い、本家の神棚に手を合わせるのさえ嫌々やっていたと聞いておりましたが。まさかお孫さんが鬼の復活をもくろむなどと、世の中というものは、想像以上に皮肉にできているものですね」


「……く。本家のお嬢様が、なにをエラそうに」

 男は顔色を無くして、その場に立ち尽くす。

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