蒼い月の下で
ガイトの声を聞いて
「いささか買い被りがすぎるのでは? とは言え。ふむ、次に来るもの、ですか。……。先ずはここまであったことをまとめましょうか。――失われた古の神様であるセイゲツタマヒメ様が、現実に干渉できるほどに力をつけた」
二千花の台詞を受けて、伸びをしていたエリーナが続ける。
「さらに現実世界に直接介入するため肉体を必要とし、まゆちゃんに憑依した……」
お宮の壁にもたれた
「だが、完全に力が定着する前にガイトさんの柵にハマり、そのまま万弓からは抜け。……こいつの身体にはツキタマ御前が入れ替わった……」
矛鈴をそっと通路の脇に置いた
「そしてその御前もたった今、万弓ちゃんの身体からは退去した」
「その全ては、“ツキタマサマ” を呼び出したものの意思が介在しているわけだ。……そして今、まさにツキタマサマが完全に顕現するはずだった時間を迎える」
いつのまにか辺りは自動でスイッチの入った通路以外は闇の帳が静かに降り。
水を張った田んぼのなか、満月が映り込んでいた。
「エリーナ、タマヒメ様の結界はどうだ」
「たぶんもう一時間も持たないと思う。もの凄くニオイが薄まってる」
「結界が残っている間にカタがつけば良いんだが。……神様をお待たせするなんて不敬も良いところじゃないか。そう言うヤツが、名前も知らない神なんて呼んじゃいかん」
「神様をぞんざいに扱っている、と言うことなのか?」
「そう言うことだ。多生の例外も無いでは無いが、基本的に神様は敬い奉るのが基本になる。……無理やり呼び出したんだ、相手が人間だって待ってるのがスジだろう」
「そう言われればそうなのかも知れないけれど、でも……」
ガイトは和沙には答えずに、自分達が入って来た入り口とは真逆、万弓の寄りかかる小さなお宮の先を目を細めて睨み付ける。
「月の出の時間がわかれば、田んぼに映り込む時間だって知れる。現に俺達は完全に時間を割り出して動いた。――呼び出したヤツは神に仕える資格は無いし、使役なんかできるはずも無い。俺がなにもしなくても失敗したのは間違い無い。ここまで見てみてお前らもわかったろ? 人間の都合で迂闊に扱って良いものじゃないんだ、神も、鬼も」
「神様を、使役するの?」
「利用する、の方が言葉が近いかね。恐らくはそのつもりだったはずだ。――怪しい新興宗教なんかだと、教祖の周辺だけやたらに儲かるだろ? あれはもちろん、そう言う仕組みを作るからそうなるんだが。教祖さえ信じてない神様が介在してるときも多い」
「その場合ってどうなるんですか? 教祖がそもそも信じてないわけですよね?」
「ある日、神様が見放すのか、それとも天罰か。ごく簡単に運命が逆転する。突然教祖が殺されたり、教団ごと訴追されたりな。だいたいその手の教祖や幹部は、死に方一つ取ってもロクなもんじゃない時が多い。その辺は調べれば普通にでてくる、わかりやすいだろ?」
農機具を置いておくロッカーの方から音が響き。
ガイトが音の方に目をやり、立ち方を変える。
「秘密の出入り口があると思ってたぜ。……神主だか教祖だかがやっとご到着だ」
月は既に結構な高さに昇り、田んぼには綺麗に蒼い月が映り込んでいた。
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