インチキ神様論

 立ち上がろうとして、膝から、――かくん。と落ちるガイトをエリーナが受け止める。

「おっと! ……あぶないからホントに。――で、ガイトさん。これから、どうするつもり?」


「やりようはあるさ。……くそ、完全に腹から力が抜けた。天罰の類のなにかなのかよ、アレ。――これだから、神様系の仕事はイヤだとあれ程……」


「大丈夫なの? ホントに」

「打ち身と擦り傷は大したことはねぇが、キンタマの中身を全部引きずり出された気分だ」

「私には状況がちょっと、わかんない。かなぁ。……まゆちゃんに生気を吸われちゃった感じ?」


「女子中学生に”せいき・・・を吸われる“。言葉だけ聞くと完全に事案だな」

「ホントにやめて! そういうのをセクハラっていうのよ! だからおっさんだって言われんでしょっ!!」


「俺をおっさん呼ばわりすんのはお前だけだろ。――まぁ、精力は性欲にも大なり小なり依存する。くだんねぇ話をしてるうちにもいくらか回復できたわ。おっさんトークだって無駄じゃねぇんだよ。……お、今度は大丈夫そうだ」


 言葉よりは弱々しく、エリーナの肩を借りながらガイトが立ち上がる。


「いずれ。……いきなり問答無用で人間に危害を加える様な疫病神には、とっととこの世界から消えてもらう」

「ちょっと、ガイトさん! その。結界の中だし、……聞こえるんじゃないの?」


「憑依したばかりだとは自分でも言ってたし。ならば結局、見通しの範囲しか見えねぇし、聞こえねぇ。そこまでビビる必要はねぇさ。身体はただの女子中学生だ。それに今んとこ、だが。聞こえたって、服の重さもある。出来ればあの場所から動きたくねぇだろうしな」


「本式の一二単衣なら、最低でも一〇キロ前後あるはずです。慣れない中学生には、そのままの意味で重荷だ。ということなのですね?」

「でも神様だったら……」


「神として完全に顕現がなったなら、この世のすべてはあっちのもんだ。人間自体を作っていないと屁理屈をこねようが、この世のすべて。月の満ち欠けからニュートン力学まで、全ては神の作った理(ことわり)だぜ? 人間も、これに乗っかって生きてるに過ぎないことになる。古今東西、学者だろうがオカルティストだろうが、この理屈をひっくり返せたヤツはさすがに居ない」


「どの神様が作ったとか関係ないの?」


「まぁ、そう言う意味で神様同士の条理の衝突リーズン・コリジョン、なんてことも事例的に無くはない。でも、そのための結界でもある。少なくても今、この建物の四階と屋上は完全に清月田万比売命(せいげつたまひめ)の聖域、彼女の法則に従って動いてる、ってことになる」


「それじゃ……」


「結界に取り込まれた以上、電話も通じないから応援も呼べねぇ。チャンスはそう多くはねぇぞ。……そのうえ、時間も限られてる。今は良いが、今日中にカタを付けねぇと、神を降ろした依り代の身も危うくなっちまう」


「依り代……。ガイトさん、その。万弓、が……!?」


「悪いがそういうことだ。自分で言ってた以上、清月田万比売命(せいげつたまひめ)は月を象徴する神でもあることは確定。恐らく狙ってやってるんだろうが、今日は満月、天気もいい。月が上がって調整池の水に写ったら。そこで完全に精神が定着するだろうし、そうなっちゃおしまいだ。……とは言え。まだ午前十一時、時間は十分ある。――二千花、今日の“月の出”の時間って、知ってるか?」


「細かい時間は忘れましたが。本日。東京近郊の月の出は、一七時三十分前後だったと記憶しています」


「知ってると思ったぜ、助かる。時間的には十分以上だ。なんかあってもビルの上だから、田んぼに月が映るまで、さらに一〇分ちょっと稼げる。……よし、集まれ。たった今でっち上げた作戦を説明する」

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