動く事態

「で、なにか出たか?」


 エリーナ達は鍵をかけたはずのドアを、何気なく開けてガイトが入って来たとき。

 さすがに肝を潰したが、それ以上に安堵した。

 彼女たちにも銃声と、複数のパトカーのサイレンが聞こえたからである


「米粒像が二体、そこに置いてあるケースの中。確認だけしてフタ閉めて、後はケースも触ってない」

「いい判断だ。お前らが直接触れると活性化する可能性がある。理由は……知ってたな?」


「別に知りたくなかったんだけどね」

 とは言え、活性化の“具体的条件”を知っているのは、四人の中ではエリーナだけ。

「女の子が直接さわっちゃいけない、みたいなことなんだよね?」

「あー。ちょっとだけ違うかも。基本はそうみたいだけど」


 二人が話している間にも、ガイトが珍しく慌てた様子でスマホを手に取る。

 ガイトは一度手をあげたあと、人差し指を唇に当てた。いつも通りスピーカーホンにしてあるらしい。



「外局の下請けでガイトと言います、オオヌサさんを」


『はい変わりましたぁ、オオヌサです』

「場所は掴んでると思うが、和沙……、大道寺の所有するガレージで米粒像を見つけた。大至急、回収のためにエージェントをよこしてくれ。俺はずらかる」


『ところで、そこの近所でなんか騒ぎ起こした? 警察の捜してる重要参考人の概要がガイトにそっくりなんだけど。ついでに複数人のガイジンが、所轄の捜査を妨害してるって情報が上がってるが、これって協会ソサエティ実行部隊エージェントだよね?』


「しょうがないだろ。たまたまソサエティの追ってた超能力者の国際犯罪組織と出喰わしちまった。俺もちょっと関わりがあってさ』

『ガイトに関係があって、ソサエティがこだわるオカルト的犯罪組織、……伯爵かな? まだ捕まってなかった。というよりか、まだ日本に居たんだね』


「あぁ、オオヌサさんも知ってたのか。……伯爵は逃がしちまった。あの爺さんが出歩いてるとそれだけで治安が悪くなる。捕まえてソサエティの教授プロフェッサーに渡したかったんだが』


『一応評議会うちでも、危険組織として情報提供を求めてるんだけどなぁ』

「オオヌサさんに渡しても、そもそも金にならんでしょ。さっきも死にかけたしさ、ただじゃリスクが高すぎる」

『もちろん、身柄を提供してくれるならただ、とは言わんのだけど』



「まぁ、逃げられた以上、伯爵の話は今はどうでも良い。時間がないから米粒像の話にもどすが……』

『その件なんだけどさ、現地では何体見つけた?』

「ん? 見つけたのは二体だが、それが何か?」


『そこだよ。先程作った職人と接触できた。依頼主はまだ割れてないが、全部で八体作ったと証言が取れた』

「マジかよ、二体足りねぇじゃねぇか!」


『その上、別の職人だが同じデザインで全高三寸 (※約9センチ)の木彫りと、中空で2尺 (※約60センチ)前後の木像が発注され、既に納品されたことがさっきわかった。但し具体的な納品先は不明なままだ』

「なら尚のこと、ここはすぐ出る。状況によっては応援を頼むことに……」


『ところが、昨日も言った通り。現在監査部総掛かりでやってる案件が二件あってね。二件とも先ほど状況を開始してしまった、送れるエージェントがいない』

「はぁ? エボシもタスキも両方居ねぇなんてことが……」

「その二人はさらに別件で明後日の夜まで帰らないな」


「天下の評議会コングレスが誰もいねぇ、たぁどういうこったよ! とにかく俺はすぐ移動する。荒事はともかく、現場検証やら保存が出来るようなヤツは居るんだろ?」


『そのくらいなら三〇分もあれば送れるが』

「ならそれは頼んだ。あとこっちのトレースを頼む。多分ヤバいことになる」

『わかった、今話してるスマホでいいんだね? 位置はいまからリアルタイムで追跡を始める。……良し、掴んだ。――あ、悪いね、ガイト。別口の連絡が入ったので僕はいったんこれで。なんかあったらまた連絡をくれ、んじゃ』



 切れた電話をジャケットに仕舞うガイトにエリーナが声をかける。

「さっき死にかけた。って言ってたけど、なにかあったの?」


「言葉通りだが現状、生きて居るのでそれは問題が無い」

「そんな無茶な話が……」


「そんなことより行くぞ? 和沙、エリーナも。……この場の滞在はかなりヤバい可能性がある」


「ガイトさん。なんか外が大騒ぎみたいですが。自動車って、大丈夫なんですか?」

「そこまで考えてあそこに止めた。問題無く出せるさ、プロだぜ?」






「ねぇ、ガイトさん。またしても山道に入る、と言うことは」


 白いステーションワゴンは、街中をでると田舎道をたどり、場所は違えど、昨日と同じく山道へと入っていく。


「あぁ。つけられてる。土曜日だから車が多くて振り切れなかった上、どんどん人の居ない方向に追いやられてる」


「あまり良くない、と言うことなんですか?」

「多分待ち伏せてるんだろうな。一応、問題無く焼いたつもりだったが、検知結界をバラしたのがバレたってとこだろ」


「あ、……あの燃えたお札、ですか?」

「そういうこと。警報装置を潰されたのを感知したので警備が駆けつけた。って感じだ」


「また昨日みたいなカーチェイスとか……」

「多分、このまま行くと。今日はやらせてもらえないな、……もしも車が止まってもお前らは車からでるなよ?」


「でもツキタマ様のニオイがどんどん強くなって来てるよ!?」

「一応結界は貼る。ガラスを叩き割ろうが、ツキタマ様の影響下にあるヤツは車内に侵入できない」


「錫杖とかも?」

「結界さ、人間以外はスルーするから。ガラス割られたら、上手く避けろよ?」

「マジで!? なんで今日に限ってミニバンでもキャデラックでも無いのよ!?」




 走る道路は二車線から車一台分になり、舗装路から砂利道、山道に変わり、山の中腹。

 開けた駐車場のようなところで道自体も無くなった。


 ガイトたちのクルマが止まったのを見て、隅に停まっていた、軽ワゴンのスライドドアが開き始め、後ろからつけてきた小型自動車も追いついてきた。


 それを見てガイトが和紙に梵字の書かれたものを取り出し、九字を切る。

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前っ! ……と。まぁこんなモンか」


「強くなってたニオイが、……消えた?」

「それで結界は張れちゃった感じ、なんですか?」 

「まだだ、もう一工程。――あ、エリーナ。そこの肘掛けんとこにセロテープあるから取って」


 ガイトは渡されたセロテープで、フロントガラスに和紙を貼り付ける。


「初めてそれっぽいことしてる! って思ったのに、……何してんの? それ」

「見りゃわかんだろ、ここに貼らなきゃいけないんだ。呪文唱えただけで、なぞの力で張り付くなんて、そんなのはアニメやらマンガの見過ぎだ。ただの和紙だぞ」


「あの、さっきのお札は? アレは燃えましたよね?」

「アレはベースがマジック用の紙だからな、派手に燃えるが熱くはなかったろ?」


「ガイトさんの場合、何処までインチキでどこからホントなのよっ!?」

「人によりけりだが。俺の場合は、ほぼほぼイカサマだ。見てりゃわかんだろうよ……。ま、俺のことはどうでもいい。二人共、良いって言うまで、絶対車から降りるなよ?」


 そう言ってガイトは運転席から降りると、――ピピっ、シャコン。ドアにカギをかけた。

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