VSサイキッカー

「首の骨をへし折って、この場で火葬にしてくれようからそう思え」

「あ、が……! され、て、たまる、か……!」


 ガイトの右手が虚空をつかんだ次の瞬間。

 くるん、と手首が後ろを向き。

 ――ばぁあんっ!

 結構大きな乾いた銃声が、誰もいない商店街に響き渡ると同時。 

 わずかに浮いていたガイトが、地面に投げ出される。


「いでっ、優しく下ろせよクソが……。さすがに、この距離なら。9㎜でも、げほっげほっ……効くだろ」

「拳銃、だと! ……貴様は銃は使わんと聞いた」


 右手に小さな拳銃を握ったガイトが、片膝をついて立ち上がる。

 その後ろでは太ももから血を吹き出した男性がうずくまっていた。


「はぁ、はぁ。さすがに死ぬかと思った。――好んで、ごほ、使わないだけだ、必要ならミサイルランチャーだって使うさ」


 首筋に手をやりながらガイトが立ち上がる。

 既に右手にあったはずの小さな拳銃、PPSはなくなっている。


「どうして、わかった」

「伯爵のところに、サイコキネシスを使うやつがいる。かもしれない、という情報は入ってた。能力の限界距離が4mだ、ともな。そして俺は前回、そいつとは会ってない」


 ――パンパン。ガイトは多少わざとらしく服を払うと、伯爵と呼ばれた老紳士に姿勢良く向き合う。


「ついでにこないだ、認識コグニッション・障害ディスアビリティを起こす超能力者、これに伯爵と一緒に逃げられた。無駄な時間が嫌いな伯爵が、わざわざ無駄話に乗る。それまで含めて考えれば、サイコキネシストは俺の横か後ろ、すぐそばにいるに決まってる。そう思えば多少の気配は感じるぜ、なにしろ。ほんの数m後ろにいたんだからな」


「なるほど、道理だな」 


「そして超能力サイキックの発動には異常なまでの集中が必要、意識が少しでもそれれば当然、疎外された認識も。――戻るさ!」


 ガイトが無造作に左手を振り上げた直後。

 突然、伯爵と呼ばれた男の隣に、二の腕にスロゥイングナイフが刺さった女性が現れ、膝から崩れる。


「相変わらず勘の良いことだな」

「あとはあんたの発火能力パイロキネシスだが……」


「この場は失礼させていただく、私さえ残れば再起は可能だからな」

「再起とかすんじゃねぇよ! 普通に迷惑だから日本以外でやれ!」


「God Eater、貴様があくまで協会日本支部Society Japanに組する、と言うならいずれまた会うだろう、今日はここまでだ。……good luck」


 いきなり伯爵とガイトの間、何も無い空間に火球が出現し、その色は赤から青、白へと変わる。

「うぉ!? アチっチチチ……!」

 唐突に火球が消えると既に伯爵の姿は無く、外灯につけられた商店街ののぼりがブスブスくすぶり、火球の真下になったアスファルトが丸く泡立ち、湯気を上げていた。




「ピンポイントで目眩ましだけ……? パワーと緻密なコントロールができるからこそ、こんな使い方できるんだよな。……異端はあきらかにあんたのほうだろ!」


 呆然と立ち尽くすガイトの横に、スーツを着た白人が駆け寄る。

「Hey, mister. I'm a society agent.I'm here at the request of the professor」


「言葉ってのは場をひっくり返す力がある、結構大事だ。日本語は大丈夫か?」

「ジョウズデナイデスヨ。キクノハオーケイ」


「それで構わん、この場では極力日本語を使え。あの男がテレキネシス。女の方はコグニッション・アビリティを使う。意識を堕とすか、揺さぶりをかけ続けて集中させるな」

「ワカリマシタ」


「伯爵は逃がしてしまった、プロフェッサーと久留津には謝っておいてくれ」

「ワレワレハオレイダケカンガエル、ミスターガアヤマルハイラナイデス」


 サイレンの音が近づいてくる。


「もうパトカーが来た。銃を使ったのはまずったな。俺は消えるが良いな?」

「アリガトォゴザイマシタ。あー、……We will take care of the rest.」

「ならそのまま任せる。悪ぃな」

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