ガレージ

「ガレージってここ?」


 シャッターのわきに設けられた入口。

 その前にエリーナと和沙が立っている。


「うん、そうだけど。……それがガイトさんの言ってたおふだ?」


 エリーナの右手には、和紙に筆ペンで殴り書きをしたような細長い紙。


「カギを開ける前に、ドアノブ付近に押し付ける。無反応、もしくは赤い火が上がったらオーケイ。青い火が上がったら入るのは中止して車に戻る。これは和沙がやらないとダメだって」


 エリーナが”お札“を和沙に手渡す。


「確かにそう聞いたけれど、……持つのも不安だよね」

「私、ジーンズのポッケにずっと入れてたんですけど!?」


「あ! ごめん、そういうつもりはなくって……」

「どういうつもりだったわけ? はぁ……。まぁいいけど。――いずれ、作ったのガイトさんだから、気を付けてね」


 和沙が紙を持った右手ごと、ペタンとドアに押し付ける。


「うーん、……なにも起こらな、きゃっ!」


 紙を抑えつけた和沙の右手ごと、真っ赤な炎に包まれる。


「お札本体が直接燃えるとか、もう! 毎回毎回、先に言いなさいよ! ……大丈夫だった? 火傷とかしてない?」

「別に熱くはなかったけど、お札はなくなっちゃった。……青はアウト、赤ならオーケイ、だったんだよね?」

「中に入ってみよう。……具体的に何がオーケイなんだか、何の説明もないけど」


 一応、二人は周りを見渡したあと。

 人影が無いのを確認してドアを小さく開け、中に滑り込む。


「カギはかけてね。あとはガイトさんが来るまで引きこもりだから」 

「普通のカギなんだけど、大丈夫なんだよね?」

「むしろ、ヤバいのは中かもしれないよ」

「それは、……うーん。そうだよね」


 さっきの炎が何らかの霊的なカギを無効化した。

 と言うのは、二人とも理解ができていた。

 ガイトは二色の炎の他、何も起きない。という可能性も示した。


 真っ赤な炎がおこってしまった以上。カギをかけたくなるなにか。それが仕舞ってある可能性は高いことになる。



「ねぇ、エリーナ。なにか、感じる?」

「うっすら神様のニオイがする。絶対、何かおいてある」


「もしかして、米粒像……?」

「うーん。ニオイがちょっと、違う?」

「……そ、そんな具体的なニオイ、するの? あれ!」


「そういう意味のニオイだったら一番恥ずいの私じゃん。ヤメてよ! ……んー。これ、やっぱ米粒像っぽいけど。”未使用“。かな?」

「……えぇえ! わかるのっ!? もう、ヤダ!!」

「そうじゃないんだってば! ホントにやめて! マジで恥ずかしいから!!」


 作業机の上にたくさん、無造作に置かれた小さなパーツケース。

 エリーナは鼻をスンスンさせながらその中からひとつつまみあげ、蓋を開ける。


「これ、……かな? ……あった、このケースだ」

 ふたを開けると、ウレタンの緩衝材に埋もれて2体の小さな像。

「二個、あるね」

「誰か二人、犠牲にしようとしてる。ウチの親父か、和沙のお父さんが」


 特に疑問を感じず、ガイトに薙刀を振り上げた自分を思い出してエリーナの膝が震える。


「ダメだよそんなの! エリーナ、絶対阻止しようよ!」

「そうなると、ガイトさん頼みになるんだけど……」


 彼女たちは、ガイトがいなければ米粒像の存在さえ、知ることはできなかった。


「依頼を出す? ……でもあたしたちが依頼を出しても、受けてくれるかな?」

「ガイトさんなら金額次第じゃない? とは言え。米粒像の発見、除去、解呪でホントなら一件三〇〇万以上、って言ってた」


「四人分で一、二〇〇万? でもエリーナがやったんでしょ?」


 ――それは……。つい余計な事を口走りそうになり、エリーナはいったん深呼吸。


「ふぅ。……取り出すだけではダメみたい。結構な処理が必要だって言ってたし、実際。取り出してから一〇分前後。ガイトさん、何かしてたし」


「……さすがに現実的な金額では無い、とあたしは思うんだけれど。エリーナに恩を着せるためのブラフだったりしない?」


 一蹴、ガイトならやりそうだ。と思ったエリーナだったが。


「でも、あの人のまわりのお金は、桁がみんなおかしいし。一昨日だって、米粒像を預けるだけで一体二十五万、しかも現金だったじゃない? わりと現実に即した数字なのかも。って、今は思ってる」


「じゃあ、事前にどうこうしてくれ、なんて依頼を出したら……」

「解呪だけで三〇〇万だもの。何らかの処理だけでなく交渉が、しかも二人分なんて。軽く一,〇〇〇万は越えてくるのかも……」

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