伯爵

 エリーナが指さした商店街の奥へ歩を進めるうちに、ガイトもエリーナが何を嗅ぎ取ったのか気が付いた。


「ヘンなニオイ、ね。加齢臭、ってことか……? なるほどな。これがあの距離でわかるってのは。素人にしておくには惜しいくらいだ。……ま、君子危うきに近寄らず。ってのは、淑女もその辺はご同様だろうし、だったら。ニオイから逃げ回ればトラブルからは避けられる、か」



 ガイトはスマホを取り出すと電話をかける。


「ガイトというものだ。教授プロフェッサー久留津クルツは居るか? ……なら伝言だ。この電話の位置情報を吸い上げて、一〇分以内でエージェントだれかをよこせ」


 彼の目の前には、仕立てのいいスーツを着て、前を歩く白人の老紳士。


「先々月の立川の件、おまけを見つけたから追加なしでくれてやる。住宅地で少し派手になるんでな、遅れたら警察に全部持っていかれるとそう言ってくれ。んじゃ」

 

 スマホをジャケットのポケットにしまい、急ぎ足で前を歩く老紳士に追いつく。




「よぉ、伯爵。まだ日本に居たのか」

「立川以来だな、Godガッ Eaterイーター。つけられた、と言う訳でもなさそうだが、何の用だ?」


 意外にも普通の発音の日本語と、変に発音の良い英単語の返事が返ってきた。


「人をおかしな名前で呼ぶんじゃねぇ、ガイトだ。漢字で書ける、って何回言ったらわかんだよ!」

「私は漢字が良くわからなくてな。……そも、異端者かみのてきをそう呼んで何が悪いか」


「あんたらは、ホンモノの悪魔崇拝者サタニストからさえ異端呼ばわりされてるだろ。一緒にされちゃあ、イメージが悪くなって困るんだよ。個人業者だからな」



「貴様は神も悪魔も敵であったな」

「敵も味方もねぇ、ってのは前にも言った。立ち位置はあくまで中立、障害になるならどっちだろうとぶん殴る、それだけだ」


「相変わらずで何よりだ。ただ、さっきの電話はいただけない、こんなところにまでprofessorにこられてはたまらない。協会Societyになにか義理でもあるのか?」

「立川ではひどい目にあったからな。今度こそ人体実験の材料としてプロフェッサーに引き渡してやる」


「Societyなどと。あのような品性を疑う集団とは組むな、と言っている」

「利があるならば組むだろうよ、何回でも言うが個人業者だからな。それに、あんたらみたいな腐れ外道なら儀も立つさ。あんたらと並べたら、ソサエティも変わり者の集団にしか見えん」



「お互い、理解しあえると思うのだがね。残念だIt's a pity

「わかりあ……、ぐ!」


 突然ガイトの首が絞まり、身体が空中へとゆっくり持ち上がる。


「てめ、……言ってることと、やってる、ことが!」

「会話と戦闘は両立できるだろう、さして中身のある話でも無い」

 

 ガイトの首筋になにかに締められているようなへこみが浮かび、脂汗が噴き出す。


「サイコキネシスト、……。まだ、伯爵本人の、ほかにも超能力者が、居やがった、のか!」


 ガイトの顔色がみるみる赤黒くなっていく。

 相当な握力で掴まれているらしい。


「掴んでしまえばどうということはないな。我々の使うこの力は、まさに貴様の言う物理そのもの。……この場で処理してくれる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る