ドライブ

私鉄から地下鉄を経由し中央線に乗り込み、駅を出て歩くこと一〇分。

 ガイト、エリーナ、和沙の三人は、コインパーキングに停まっていた国産の白いステーションワゴンに乗り込むところだった。


「で、なんで置いて来ちゃったの? キャデラック」


 後席に和沙と二人で乗り込んだエリーナが運転席のガイトに尋ねる。


「あぁ言う車が好みか。意外というか、見かけ通りというか」

「見かけ通りって何よ!」


 和沙は横を向いて肩を震わす。


「……あれ、見た目はともかく、広いし、乗り心地良かったから」

「あの手の車は運転するときも、わりと楽なんだよ。まわりが勝手に避けてくれるからな、ベンツの高いヤツとかさ」

「あぁ、うん。それはなんとなく」


「だから置いてきた。番犬、だな」

「はい? ……番犬、ですか?」

「どういうこと?」


「あのたぐいの車が停まってる家にイタズラ、しようと思うか?」



 門のわき、余裕で三台は入る大きな駐車場。

 やたらに手入れの行き届いた、黒光りする大型の外車が一台だけ停まっている。

 昨日の夜から、コテージはそういう状況である。



「……あぁ。なるほど、だから番犬、ですか」

「確かにピンポンダッシュとか、したくないね……」


「ついでに状況を知ってるヤツだったら、クルマがあるイコール、それは俺が居る。と言う事になる。歩いて出かけたのをみたとしても、フェイクかもしれないし、誰か仲間が残ってる可能性もある。あそこでかくまってるのは瞿麦なでしこ女子のお嬢様、あんな車を自分で運転するわけが無い」


「色々、考えてるんですね」

「わりと効果的に思えるから、かえって腹立つんだよね」


「全部、誤魔化しの範疇はんちゅうだからな。気が付いたやつがイラっと来るとこまで含めての仕込みだ。バレても正常な判断をいくらかでも疎外できたらいい」



「あの小さい拳銃とか?」

「そんなトコだな。それにデカいのは重いからさ、ハッタリとしても持ち歩きたくない」


 白いステーションワゴンは、ウインカーを上げ歩道を超えて車道へと出ていく。




 あえて【3時間無料!(土日祝は除く)】 と入り口に書かれた商店街の駐車場にクルマを入れ、ガイトたちは歩き始めた。

「ここからだと、五分かかんないです」

「そりゃ結構。……しかしまぁ、見事に人がいないな」


「こんなに大きな街なのにね」

「お父さんが若いときは、けっこう活気があったって聞くんですが」

「結構デカい商店街だな、あいてる店が定食屋くらいしかないが」


「ところでガイトさん……。なんかニオイ、しない?」

「豚肉と、あとはナポリタンだな。これ」

「真面目な話をしてるのよ! 食堂から離れて!」


「ん? なんで怒るんだよ……。あぁニオイ、な。とはいえ、俺にはなにも……。和沙、こっからどのくらい歩く?」

「まぁ、すぐそこではあるんですが。あと二,三分ですよ……?」


「これ、神様のニオイじゃないよ。……なんだろ、すごくヘンなニオイ」

「どっちだ、エリーナ。指させ」

 

 エリーナは目的とは真逆、商店街の奥を指さす。


「和沙、目的地はどっちだ? お前も指させ」


 和沙は、エリーナとはまるで真逆の方向を指さす。

 エリーナが感知できる“ニオイ”の範囲は自分の約四倍、とガイトは見積もっている。

 ならば何かしらの脅威が結構な近所にある可能性があるということだ。

 ガイトは確かめないわけに行かなくなった。


「わかった。ならお前たちはガレージに行って、そのまま中に居ろ。俺が見てくる」

「……ガイトさん」

「段取りはさっき話した通りでいい。クルマの合鍵はさっき渡したろ? ダメだったら全力疾走で戻って、クルマに立てこもれ。良いな?」


 ガイトは、左手に持っていた変わった形のペンダントを和沙に渡す。

 

「スティンガー、知ってるか? 樹脂製だが上手く使えば板だってぶち抜ける」

「……え? どこから。あ、いえ。はい。……ものは、知ってます」


「パンチや掌底と違って手を痛める危険も少ない。お前なら警棒よりもこれのほうがいいだろう。……前も言ったが。逃げも隠れも出来ずこれを使う、となればそれは最後の最後だ。いいな? 使うとなったら躊躇せず、殺す気で使え」

「はい」


「エリーナ、重いだろうが警棒は延ばさなくて良いが握っておけ。但し、お前にもあえて言うが、警棒を延ばしたらそれはおしまい、ってことだからな?」

「……わかった」



「一応種明かしをすると、お前たちの生存が今回の依頼に入ってる。お前たち四人全員、月曜の朝まで生きててもらわないと困る、ってわけだ。俺のために全力で生き残れ」

 

 本来、コングレスからの追加任務は四人中二人の生存。

 この二人に何かあってもあと二人はコテージに残っている。任務としては問題がない。

 ガイトはそんなことはおくびにも出さず、電話番号の書かれた紙をエリーナに渡す。

 

「立て篭もって二時間たっても、俺が迎えに行かなかったら。その番号にかけて【ガイトに言われた、助けて】とだけ言え。その後一五分、何も起こらなかった場合は詰みだ。諦めてくれ」


「……詰み、ですか」 

「でもガイトさんは来る、でしょ?」


「当たり前だ。俺の段取りに間違いはない、そのまま予定通りの行動をとれ。良いな?」

「……はい」

「とりあえず、お前らはガレージにいけ」

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