大道寺 和沙
コングレスの工作員であれば、最新の技術だけでなく、オカルト技術もふんだんに活用する。
単なる尾行、しかも対象が一般人ならほぼ気が付かれる道理が無い。
何故だかオオヌサは、自身が所属する組織の実行部隊については毎度辛辣であるが。
異能力者集団としてだけでなく、諜報機関としても世界レベルで最高峰の一角。
それが
「内緒の行動が、できない……?」
「後ろめたい行動が何かあると?」
「もちろん、秘密にするような行動は何もないですっ!」
「あぁ、秘密で思い出した。……お前の親父さんなんだが」
少々引っ込み思案で会話に乗ってこないか、とも思った和沙なのであるが。
話の流れから、この際なので直接聞いてみることにしたガイトである。
「はい? 父が何か、……関わってるんですか」
「そこまでの話じゃねぇから構えんなよ。……なんか趣味用に借りてる倉庫とか、一人で仕事する用のマンションとか、そういうの持ってるって話を聞いたことないか?」
一番ありがちなのは愛人用のマンションだったりするのだろうが、それはあってもさすがに娘に話したりはしない。
と考えたので、彼はそれは言わない。
そもそも。いくら調べても今のところ、家族思いで子煩悩。
それ以外の情報が、一切出てこない彼女の父親である。
「ガイトさん、一体なにを……」
「だから構えなくて良いって。同様に、今。ウキシマ系列のエライさん達も調べてるんだが、薙刀だ観音さまだと、倉庫にする場所は必要になるだろ? 俺の担当じゃ無いんだが、会社同士は仲が良いって話も聞いたからさ。お前がそういう場所を知らないかなって」
ガイトは、テーブルに放ってあったスマホを胸のポケットに入れると立ち上がる。
「モノがあれなら、骨董趣味のエライ人が倉庫を確保するまで、仮に置く場所を借りたい。なんていうのもアリ、だとおもわねぇか? 薙刀や太刀の他、錫杖やら作務衣だってあるだろ? それをどこの誰が言うんだか。今んとこ、それすらわかんねぇんだが」
「お父さんの趣味の部屋? ……うーん。意外と無趣味な人なんですよ、お父さん」
ガイトが調べた限りでも、ロジカルシンクの代表はなんでも興味を持つ人だけれど、趣味と呼べるようなモノは無い。あえて言うなら仕事が趣味みたいな人。
確かにそういう話しかない。
「まぁ一人で会社デカくしたんだから、趣味なんて言ってる暇はないか」
「あ、……一か所だけ、それっぽい場所あります」
「趣味の部屋的な?」
「会社にする前、友達とプログラム組んでたガレージ。そこはもう使わないんだけど、記念の場所だから、って言って買い上げちゃったんです」
「ガレージか。……IT屋ってのはみんなガレージが好きなのかね」
「大手ITはみんなガレージから始まったから。だからあえて、事務所とか倉庫じゃ無くてガレージを探して借りた、って言ってました。……イメージと違って、カタチから入る人なんで」
真面目で堅物、物腰柔らかで人当たりもよく、怒ることもほぼないが。
それ故に機嫌を損ねるとものすごく怖い。
ネットで見た限り、大道寺氏はそういう人物であるようだが。
そのノリは、ガイトで無くてもちょっと意外な感じではあるだろう。
「意外な……。で、そのガレージ、場所はわかるか?」
「……使わないと痛むし、もったいないからお前も倉庫に使え。と言われて、実はあたしも鍵、持ってます。ただ、都内ですけど、23区ではないですよ?」
ガイトは、胸ポケットから少し慌てながらスマホを引っ張り出すが。
「う。午後五時三十二分……。間に合わなかったか」
五時半を三秒でも過ぎたら、オオヌサはもう電話には出ないし、代わりの人間もいない。
「ガイトさんの仕事でも、なんか時間とか、あるんですか?」
「あの人は特別。コールセンターとかATMみたいなもんだからさ、時間厳守なんだよ」
もっとも、オオヌサに関して言えば。
事務所の外で何をしているかなど、ガイトは恐ろしくて知りたくもない。
絶対に電車で家に帰って家族サービスにまい進する、などと言うことはあり得ない。
和沙の父親とは、ベクトルが真逆であろうことは明白。
なにしろ、名刺の肩書は係長などとなってはいるが。
コングレスでも幹部クラス、実質、実行部隊のトップ。
国内外のオカルト組織や宗教団体はもちろん、半グレ集団やヤクザは言うに及ばず、欧米系や大陸系のマフィア、反政府系組織や国際的ハッカー集団でさえ。
彼と正面からぶつかるのはあからさまに避けるのである。
――時間外の顔なんか知らない方が良い。
私生活などガイトの知る由もないが、そこは間違いなく言い切れるのだった。
「なにしろ、そういうことなら行ってみるほうが早いか……」
コングレスに丸投げしてもいいのだが、自分の目で確認しておきたかった。
神様の名前の一部だけでもわかれば、何らかの対処ができる可能性があるからだ。
直接影響を受けそうな少女四人は、全員ガイトの保護下にある以上、自分でできることはやっておきたいと考える彼である。
「私も連れて行ってもらって良いですか?」
「さっきも言ったが、エリーナが殺されかけた。命がけだぞ?」
「死にたいわけじゃないですが、あたしでも何かの役に立つならぜひ」
「カギを開ける人間を、オカルト的に選別してる可能性もあるしな。……しゃあねぇか」
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