犯人と被害者
と、庭の隅の方から、緩めのカットソーにハーフパンツのショートカットが歩いてくる。
結局エリーナが、帰りに下着も含め、全員分の着替えを買ってきていた。
今のところは誰も制服は着ていないし、ガイトも姿が見えても制服で特定されない分、その方がいいと思った。
ガイトは着替えて、かえって少し幼く見えるようになった
「ん? 和沙か。なんか用事か?」
半分ふざけて言ったのは承知の上で、――扱いがひどくない? 私だけ。と言うエリーナのセリフに、なんとなく引っかかっていたガイトは。考えた末、四人全員を名前で呼ぶことにした。
彼女が、苗字として名乗っているヘングストが発音しにくい。という事情もあるが。
これなら全員。呼称に関していえば、――扱いは同じだぞ? というわけである。
「あ、……あの。庭は出ちゃいけないんでしたっけ?」
「俺がいるときはかまわんよ。ただ俺が居なくなると、いわゆる結界も解けるからな」
「あたしたちの姿が見えるとマズイ、ということなんですか?」
「さっきも言ったが、エリーナを本気で
「ところでガイトさん、さっき父の会社の名前、話してませんでした?」
結構広い庭なのだが、彼がスピーカーで話していることもあって、内容が多少聞こえたらしい。
コテージの中にもトレーニングルームの様なものがあって、ランニングマシンから簡易的なベンチプレスまで一通り揃っているのだが。
彼女は、ガイトたちが返ってくると身体を動かすために外に出た。
彼から言われた、――足裁きからやり直し! のひと言をけっこう重く受け止めた彼女。
動きを確認するためには、部屋の中は狭かった。と言うことらしい。
「まぁ娘さんを拉致監禁してるわけだからな、誤魔化しの種はいくつでも欲しいところだ」
「あたしたち、保護されてるつもりだったんですが」
「俺だってそのつもりだよ。でも、法に照らすと拉致監禁になっちゃうんだな」
物理で殴り飛ばし、薬物で眠らせてここに連れてきたのは事実である。
暴行障害、銃刀法違反、未成年者略取、監禁。罪状はいくらでも積みあがる。
「実は、あたしたちがガイトさんに騙されてる。とか?」
「かもしんねぇぞ? 気を付けたほうがいい。自分の目で見たものだけを信じて、自分の頭で考えろ。……だいたいが、だ。前提として警察に
「さすがに無理っぽい、ですよね……」
しかも証拠の品は両方、既に手元にない。
状況からはガイトが作り話をしているか、証拠隠滅を図ったようにしか見えない。
「だろ? 半端に話しても、俺の罪にわいせつ目的略取や準強制性交が増えるだけだ。……あ、お前と
「お誕生日まで把握されてたんですね。……ストーカー、的な?」
「誤解だ……!」
特別感を与えるための薙刀、そして未成年の少女を裸にするための米粒像。
仮に証拠物件がすべてそろっていても、そうとしか考えられない。
「でも。……ガイトさんは自分ではなにもしてなくて……」
「残念ながら、俺の立場は表の社会じゃ怪しいヤツなんだよ、俺がそれを言って、警察や社会が納得すると思うか?」
――うーん。和沙がガイトを値踏みするように見つめ、上から下まで何回か往復する。
「……えーと、うん。ダメ、……かしら?」
「畜生! 見た目って意外と大事だなっ!」
「あははは……。ウソウソ、ウソです。ガイトさんは良い人だし、見た目も好青年ですよ? これは真面目に言ってますからね? ――それにもちろん、あたしたちも必要なら何もされてない、って証言します。なんなら身体検査的なモノ。全員、受けてもいいですよ?」
「ありがとよ。ま、警察が踏み込んでこない限り、そんなことはしなくていい。来週の月曜には普通に学校に行けるようにする」
「週末でケリが付く、みたいな感じなんですか?」
「そこまでの短期決着は難しいだろうが、専属でプロの護衛が付く。お前らは気が付かないだろうから、気にしないで生活すればいい」
「そんな話をされるとかえって気になったり……」
「違和感すら感じないよ。プロの諜報屋につけられたら普通は、その事実にすら気が付かないさ」
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