神様の名前
国道沿い、道の駅の駐車場。
ガイトとエリーナがクルマの中、並んでアイスクリームをなめている。
「結構な遠回りになったね」
「思った以上に派手になったからな。公道でアレはすぐ通報される、さすがに警察はまずい」
「警察以外もいろいろヤバそうだけど」
「まぁな。追手がかかるなら全部まかなきゃいけねぇ、というのも事実だが」
「山の方は?」
「普通に考えれば午後イチには“掃除”が終わってる。警察は気が付かないさ」
「で、この車はなんなの?」
ついさっきエリーナは、途中でガイトが何処かに電話を入れ、あえて予定の車種を変更したのを聞いている。
「ちょっと古いが広くて良いだろ? キャデラック、っつってアメリカの……」
「キャデラックの名前は知ってる。聞きたいのはそういうことではなくて!」
左ハンドルの、黒い大きなセダン。
二人は先ほどコテージとは逆方向の隣町で、駐車場を二つはしごする形でクルマを乗り換え、山の方に戻ろうとしていた。
「んー、なんだ。……目立つ方がいいってこともある」
「ガイトさんに限っては、それはないんじゃない?」
「その辺は場合による、ってやつさ」
道の駅を出てすぐ、国道は渋滞していた。
「ん? 検問、か」
「大丈夫、なんだよね? 警察」
「何か悪いことしたのか? お前」
数分車列に並んだあと。赤い誘導棒を持った警察官が、運転席のウインドゥを軽くノックし、窓を開けてくれ。というジェスチャーをする。
「運転手さーん、あ、どうも。警察です。お急ぎのところちょっとすいません。検問にご協力いただいてます。あのまずは、免許証。見せていただいてもよろしいですかねぇ?」
「はい、どうぞ。……このあたりで検問なんて、初めてだな。なんかあったの?」
「拝見いたします。スズキ、ハジメさん、ですね。ありがとうございます」
エリーナは、――誰なのよ、スズキさん。と思ったがさすがに声には出さない。
「はい、免許はお返しいたします。どうぞ。……この先の山越えの旧道で、ちょっと事故がありましてね、そこで暴走した白いミニバンを探してるんですけど」
「お巡りさんも大変だね。白のミニバンなんてそこら中に居るでしょ。こないだ首都高で暴走したマセラティってのはあったけど、ミニバンで暴走? わかんない世の中だな」
「ちなみに旧道の方。行かれてましたら、ドラレコをちょっと。見せていただきたいんですが、いかがですか?」
「協力はやぶさかで無いけど、さっき高速からおりて、そこの道の駅で飯食ったばっかりだよ。それに、そもそもあまり狭い道はいかないんだ、ちょっと調子悪くてスピードも出ないし、こんな車だからあおられたら怖いしさ」
「そうですか。ご協力ありがとうございました、この先も安全運転でお願いしますね」
「はいよ、ごくろうさま。お巡りさんも気を付けてね」
「ありがとうございます。――この車でるよ、誘導よろしく」
警察官に誘導されながら、黒のキャデラックは国道へと車体を進める。
「とまぁ、こんなもんだ。……な? 状況によっては目立つことで隠れることもできる」
警察が探しているのは白のミニバン。
黒のバカでかい、古い外車のセダンなどお呼びでないのである。
逆にここまで目立つ車なら、目撃者の見間違いもあり得ない。
「でもさ、車の名前もわかんない感じなのにどうやって探す気なんだろう」
「車種はわかんないフリしてるだけ、だいたい絞れてるはずだ。あとは派手にタイヤ溶かしたからな。こっちは車種を問わず、タイヤの状態を確認してたろ?」
「してた? そんなこと」
エリーナが検問所をふり返ると、運転手に話しかける警官の他にもう一人。
運転手からは直接見えない位置でしゃがみ込んで、タイヤの様子を確認している警察官が見えた。
「とことん、関わっちゃいけない人の典型だよね。ガイトさんって……」
「……女子高生に真顔で言われると、さすがにクルものがあるな」
夕方。
コテージに戻り服を着替えて、庭のテーブルで今朝と同じ体制でスマホと話すガイト。
『うーん、ツキタマサマ。ねぇ』
――
「近所に良い感じの沢があったんだよ。処女のいけにえを求める、ってこともあるし。だったら龍とか神格化された大蛇かもな」
『いずれ属性が広すぎだな。……これ。特定にはちょっと、時間かかるかもだよ?』
「良いんじゃねぇの? かかっても。俺、日曜まででしょ?」
ガイトが結構広い庭の奥の方に目をやると。
腰を落とした、いかにもな姿勢で武道の型の練習をしている。とみえる少女の姿があった。
『追加の分は月曜の朝までだってば。あと本筋の件は、こっちから延長依頼できるようになってるでしょ? 投げないで欲しいなぁ、今回はわりとマジで』
「組織的な集団、
『ガイトには悪いけど全然良くない、僕がすごく困る。あと放棄することができる、だからね? 放棄をすること、じゃないからね? ……なんとか頼むよ、この通り』
「音声通話でこの通りって言われても……」
電話の向こうでは頭下げてるだろうな、とガイトは思う。
電話の相手はわりとそういう部分は実直なのである。
「まぁ良いか、この件はいったん保留にしようぜ。……で、お
『東京圏でウキシマHD系列か、ロジカルシンクの持ってる土地、もしくは建物なんじゃないかと思うんだが。特にウキシマの候補があり過ぎて、まだ二割も調べ切れてない。というのが実情だ』
「一坪もありゃ十分だし。神気を追うったって、雑居ビルの事務所に
『上層部どうしでつながりがあるんだとさ。浮島運輸倉庫から、ウキシマロジスティクスになるときに新規で作った送り状と連動する、集荷・配送・追跡システムを組んだのがロジカルシンクの社長自身で、それがIT業界で有名になるきっかけだったらしい」
「そのロジカルシンクの創業者で元CEO。現シニアアドバイザー、大道寺の娘もここにいるんだが?」
『知ってるよ。だから、よろしく。って話じゃないか』
「何をよろしくしろと……!」
『法の範囲内でよろしくしてくれたらいい。但し相手は女子高生だからさ、法の範疇を外れてよろしくした場合、さすがに僕も助けられないからね? ――仲良くなってもらったうえで、会社上層部と”お話“をするきっかけを作ってもらいたい』
ガイトと大道寺の娘、
彼女たちは事実上の軟禁状態でもあり、ぜひ仲良くやってほしい、せめて悪印象は持たれないでほしい。というところだろう。
印象が悪くてもカードであることに変わりはないのだが。
「俺はただの拝み屋で、スパイとかジゴロじゃねぇんだぞ?」
『見た目は良い男なんだから、そう言いなさんなって。――もちろん、今回は荒事になるならさ。その場合は全部こっちにふってくれたら良いから。ガイトは段取り踏んで、その後連絡をくれればそれでいい』
「……で。土日の連絡は? オオヌサさん、休みだろ?」
『別件も二件ほど動いててね。現場指揮者がいないのはマズイから、今週は両方、定時の間は事務所にいる』
「了解。この件については、ほかならぬオオヌサさんの頼みだしな、何か考えてみる」
『ぜひ頼むよ。……明日は8:30からオフィスにでてる。なんかあったら連絡、よろしく」
「今日はもう帰るんだな?」
『もう5時、過ぎちゃったしね、連絡があればあと15分以内でね。……そんじゃ」
「なーんか、あの人と話していると、自分の立ち位置とか、少し考えちゃうぜ」
自営業者よりよほど自由に見えるよな、あの人。ガイトはそう思うとため息。
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