おやまの宮へ

状況報告

 朝、既に会社員や学生は仕事や勉強を始めた時間。

 結局前夜、エリーナ達が寝たのは夜中二時過ぎ。まだ誰も起きてきていない。


 コテージの庭のパラソルの下、樹脂のテーブルの上にスマートホンを置いて、椅子を逆向きにして背もたれに寄りかかり、スマホと話すガイトの姿があった。



『しかし、時間ぴったりとはねぇ。朝礼で部長の話があと二分長引いていたら、お互い困るじゃ無いか。……業界でもガイトほど早起きの奴は少ないと思うぞ』

「オオヌサさんみたいに、時間外には絶対仕事しない諜報員の方が数倍珍しい、っての」


『仕事はなんでも。組織に属してるのに残業するなら、それは無能の証明だろ? メールは一応目を通した。米粒像に関してはこっちで当たろう、情報はありがたくいただくし、費用もこっちで面倒みよう。以降、情報だけで無く費用も。追加があったらそれもこっちに回してくれ。……実は半分、用意はできているんで、ガイトが動くよりその方が早いだろう』


「ハナっから揉める、って踏んだうえで俺に仕事ふったろ!?」


『課長が狐憑きの簡単な案件だし、内部に回せる人手もないから、今回はガイトに回して楽させてやれ。っていうからね。かえって気になってさ、一応急ぎだって言うから僕が下調べしてた、ってわけ。準備も何もなしで揉めたら、大変だったろ?』


「へぇ、……話の入口だけは額面通りだったわけだな」

『むしろ気が付いた僕に感謝してくれ、と言う結論にしかならないんだけどね、この話』

「事前に教えてくれよ!」



 電話越し、顔が見えないのではあるが。

 ガイトには電話の相手が如何(いか)にも『やれやれ』といった表情をしているのが、見えた気がした



『で、追加の案件が二つ。これは否応なしで受けてもらう。僕にできるのは報酬額をあげるくらいだが、権限の最大限で乗せるからそこは期待しててくれ』

「勝手に仕事増やされたんだから当然でしょ!?」


『まぁ、そう言うな。一つ目はたぶん、頼まなくてもガイトなら勝手にやる。無料の仕事に報酬が乗るんだからおいしいだろ?』

「俺は金の絡まん仕事はしないぞ」


『いいや、これは僕が言わなくてもガイトはやるね。……保護した少女たちの護衛。昨日の夜から、月曜日の午前八時三〇分まで約四日。二人以上の生存で成功とする』

「ちょっと待った。……全員じゃ、ないのか?」


『ウキシマのご令嬢以外は、将来会社を背負って立つ存在になる。と期待される逸材ではあるんだが。まぁ、ガイトと一緒に居ながらこの程度で死ぬようなら、それは運がそこまでだった。つまり大企業の上に立つような器(うつわ)ではない。と言うことに他ならない」


 運命は決まっているわけでは無い。但し、大人物となるならば。個人の意思はもちろん、確率や必然性さえも無視するほどの運の強さが必要。

 ガイトは電話の相手が、そういう持論の持ち主だったのを思い出す。


「ちなみに。エリーナもそこそこ優秀だと思うが、なんで将来の逸材から外した?」

『決定的に父親と仲が良くないからねぇ。将来的に関連企業への就職だって絶対しないのは、これはもう確定だろうし。自分で事業を起こすなら、未知数だしね』


「なるほど、よく調べてあるわ。……でも、四人とも、実家が納得するのか? その条件」

『納得するしかないのさ。四人とも、ウチのエージェントに襲い掛かったうえで保護され、解呪された。オカルトがらみの大スキャンダルだ。その事実だけで”色々“十分だとは思わない? オカルト部分を横においても、凶器準備集合は確定。単純に殺人未遂なんだしね」


 納得がいかないならばその場合。

 オカルト儀式に傾倒し、実際に人を襲った娘の醜聞が。

 『週刊誌やネットでバラまかれる。……かも、しれませんよ?』

 暗にそうして脅しをかける、ということだ。


 コングレスが自分で情報を流しつつ、警察に被害届を出すだけで良い。

 殺された上で闇に葬られた、なんて尾ひれをつけて報道機関へバラまくのも自由。


 政府系の裏組織。しかも情報も被害者も加害者も全ては現状、自分達が押さえて居る。

 手段としてこれ以上簡単なことも無い。


 各企業、一億や二億の金などにはびくともしないだろうが一方。

 年頃の娘の、よくない情報が世の中に出るのは困るだろう。

 娘たちは良くも悪くも、一般にも知られている。企業のイメージも一気に悪くなる。



 ついでに言えば、娘たちは全員。

 ――エリーナの部屋に泊まる。

 という電話をして以降、連絡は取れなくなっている。エリーナの部屋にも誰も居ない。


 親たちから見れば、アングラ組織に拉致されているに等しいのだった。



「話は表には染み出してこない、と?」

『もしそう言う動きがあれば、現行の役員には表裏両方から手を回す。関係ない人も含め、表舞台からは全員、降りてもらうさ。空気の読めない無能とその取り巻きに、日本の経済を任せることはできない』


 アンダーグラウンドの人脈やオカルトだけでなく、実際の経済や政治まで。

 手を入れようと思えば。圧力だろうが暴力だろうが、いくらでもできてしまうのが評議会(コングレス)。という組織の本当の恐ろしさ、である。


「おぅ、恐(こえ)ぇ恐(こえ)ぇ。……で? 期限の根拠は?」

『彼女達が連休を終えて学校に登校するまでだ。それまでにはガイトが事態を完全収束させてるだろうし』


「まだ何もしてねぇよ!」

『はっはっは、そう言うと思ったよ。月曜早朝からはウチのエージェントも回せるって話さ。さすがに女子高生の護衛くらいはできるだろう』

「相変わらず身内の評価が低いな」

「外注が補ってくれて助かっているよ」

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