出張鑑定屋

「ところで。まもなくここに客が来る。ここに居て良いが、ヤツが帰るまでお前らは口を開くな、良いな?」

「……はい」


「特にエリーナ、頼むぞ?」

「なんで私が名指し!?」

「俺が言ってんのはそういうトコだよ。こういう場面では素直に、はい。って言っとけ、つってんだ。わかったな?」

「うぅ、……はい」


 

 ガイトの言葉が終わるとほぼ同時、インターホンが音楽を流す。

「どちらさん?」

『まいど〜。骨董品の出張査定に参りました~』

「早かったな、鍵は今開ける。玄関入ってすぐ右のリビングだ。そのまま入ってくれ」



 入ってくるのは作業服の上着にスラックス、背中にカバンを背負った、これと言って特徴がない男だった。

「認識障害のアイテム、気に入ってるのか? こないだから」

「旦那あたりには丸わかりなんでしょうが、そうは言っても。これのおかげで先月も、九死に一生を得ましたんで」


「イメージより数段ハードだよな、アンタの仕事も。――それはそうと、急に呼び出して悪かったな」

「両方、そういう仕事ですのでおきがねなく。……おや? ガイトさんの現場にしては、何だか華やかですなぁ」

「あぁ、どうしてもアシスタントが必要でな。ガラじゃねぇのはわかってるんだが、今回ばかりはしょうがねぇ」


「旦那が、セーラー服のコスプレに囲まれてるとか珍しいなぁ、なんて」

 ――ピク。

 エレーナが『コスプレ』に反応して片繭を上げるが、ガイトは一睨みしてそれ以上の動きを抑える。


「……女の子に囲まれてんのも、これはこれで悪かぁねぇやな」

「若ぇんだから、いつもこんくらいの方が良いスよ、真面目に」

「まぁ俺の話は良い。夜も遅いし、仕事の話、すましちまおう」 



「ではでは。……電話では大太刀と、薙刀、って話でしたが?」

「そこのヤツだが、ぱっと見どうだ?」


「平安? いや鎌倉時代中期のレプリカ、ってとこでしょうが。こしらえはそこそこ……。いや、かなりいいっすね。刃紋もいかにもですな。刀匠の銘があったら薙刀でも、表の市場にだしてもそこそこ、太刀の方は七桁乗るかもです。さやも結構手間ぁかかって……。ん~。でもまだ気配がうっすら。旦那。これ。まだなんか、こもってます?」


「大丈夫だ。危険がない程度には散らしてある、あとは状態維持ができないから勝手に無くなる。大聖堂カセドラルのトンチキどもと一緒にするな。未処理で無関係の人間に触らせるもんかよ。一応、専門家だぜ?」


「ま、カセドラルあのひとたちに関して言えば、悪魔が絡んだら、解呪も含めて、エクソシスト以外は、自分達では絶対触んないですもんね」

「それでも協会ソサエティの連中みたいに、中身を知りもしないで、雑に扱って爆発するよりまだまし。なのかもな」


「こないだの汐留の話、知ってましたか。……とりあえず分解して原理を知りたがるんですよ。悪いことじゃないんですが、理解できない術式まで。強引に解体して分解しようとするもんだから」

「一般人から消防に通報されるようじゃ、お互い商売あがったりだろうよ」

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