全員、わりと素直

「だいたい。今時の娘が、なんで長時間普通に平気で正座できてんだよ。凄ぇなお嬢様学校。――で、悪いが四人とも。当面はここに泊まってくれ。……エリーナ、それは大丈夫なんだな?」

「週明けまで私の部屋に泊まる。っていうことで話はついたから大丈夫」


 エリーナが言う、実家と折り合いが悪い、は結構そのままの意味であったようで。

 実家から出て、高校生が一人住まい。と言うには贅沢な3LDKのマンション、その高層階に住んでいた。


「あたしら、明日休みなんですよ」


「……学生なんだから平日は学校に行けよ」


「先月、日曜日に三年は全員、登校日だったのだ」

「明日は振り替えで休み、明日から土日ふくめて三連休なのです」


 そして目の前の三人は、良くそこに泊まったりしているらしく、

 ――エリーナの部屋に泊まる。

 と自宅に連絡を入れたのだが誰一人、家族と揉めるものはなかった。



「ガイトさん、でよろしいですか? ――改めてお詫びをさせて下さい。とは言え。心配して下さる方に喧嘩を売り、あまつさえ刃物を向けるなどと。もはやどうお詫びをして良いものか、わたくしには……」


 四人のリーダー格だという青葉小路あおばこうじ二千花にちかが正面からガイトと目をあわせ、改めて頭を下げる。

 所作の端々に育ちの良さがそこはかとなく見える。


 ツインテールに大きな瞳。幼く見える外見とは裏腹に姉御肌で、さらには旧華族に連なる少女。

 ――わざと幼く見せてるか? おっさんなんかごく簡単に引っ掛かるだろうなぁ。

 普段から戦略家の才能を発揮しているのかも知れないな、底の見えないヤツだ。


 ガイトはそう思って改めて彼女に目をやる。

 彼はついさっき、服の下まで全て見た。身長や体型は、そもそもそこまで幼いわけでは無かったのを思い出す。


「気にしなくて良いだろ。基本洗脳下、本意じゃないわけだし」




「その……、けんみちと書いて剣道。そこに籍を置くものでありながら人に、どころか無手のものにやいばを向ける。私は剣だけでなく、人のみちにもそむいてしまった。……本当に、ごめんなさいっ!」


 ガイトにポニーテールごと、――がばっ! と頭を下げるのは、大太刀を振り回していた村主すぐり千弦ちづる

 170を越える長身。制服越しでもわかる、筋肉質で引き締まった身体。喋り方もまるで女の子らしくない。

 だが、そこにかえって女子を感じさせるという矛盾。


 ガイトが見る限り、剣道の腕は女子高生レベルを超えホンモノと思えた。

 ――そりゃ、気に病むなって方が無理だわ。

 剣道がなくても、真面目なのはガイトから見てもわかった。


「気にすんな。あの状態でも本能レベルで強敵と思ってくれたなら、こっちも感謝しなきゃな。お前は強いぜ、素の状態でやり合うとなったら。こっちも手加減してる余裕は無いからやめてくれよな? マジで」




「あたしも、護身術のつもりが調子に乗って倒そうだなんて。……すいませんでした」


 キレイな黒い髪をショートにまとめた、大道寺だいどうじ和沙かずさうつむきながらガイトに視線を送る。

 ガイトの蹴りをまともに喰らって、それでも意識を落とさずにいた少女。


 その声を聞いてそちらに目をやったガイトは、セーラー服の盛り上がりを見て再度目をそらす。

 ――高校生、なんだよなっ!?

 エリーナに言い放った好みの女性の体型、それは別にウソでは無かったガイトである。

 それでいて四人のうちでは一番背が低い。


「自信はあるんだろうし確かに強ぇが、お前らはそろって美人さんだ。賊と出会ったら、できれば逃げた方が良い。かつてはうまくいったとも聞いたが、正面からあたるのは最後の最後だと心得ろよ?」




 ――それはそれとして。エリーナに合図をすると、彼女は来る途中のコンビニで買ってきたお茶とおにぎり、サンドイッチでテーブルの上に山を作る。


「ま、色々気にすんな。全部、その変な米粒みたいな彫り物のせいだからな」


「エリー、わたくし、どう御礼を言ったものやら……」

「その、色々イヤだったでしょ? ほんとゴメンね?」

「すまない。……身も心も秘する部分はもはや無いな」


「あのね、わたし……」

「エリーナ、約束。覚えてるよな?」

「うぅう……」


「腹が減ってると、どうしたって思考はマイナス側に振れる。それに、買っちまった以上は遠慮されたって困る、まぁ喰え。――話はそれからだ」


 ――いただきます。


 ガイトはそれでも余るだろう、と踏んでいたのだが。

 彼女たちはよほど空腹だったのか、おにぎりとサンドイッチは包み紙を残してすべて姿を消した。


「朝飯も似たようなことになるが勘弁してくれ。……あとで調達してくる」

 余った分を朝に回そう、と考えていたガイトである。


「私たちには否はない。食べさせてもらえるなら御の字、くらいのものだ」

「そうだよね、ご飯を食べられるだけでもありがたい」

「普通に考えれば、拘束の上監禁されても仕方のないところです」


「私は普通に拘束の上、拉致監禁された気が……」

「前後を考えろ。殺されなかったことをありがたがれ」

「扱いがひどくない? 私だけ」


「差別はいけないことだが、必要な区別というのはある。それはそうと。――お前ら、あの薙刀とか大太刀、誰からもらった? エリーナの従兄弟の旦那、ってことで良いのか?」


「あれ? 言われてみると彼ではない気がする」

「エリーからいただいた。わけでは、なかったですよね?」

「あたし、いつから持ってたんだろう、あれ」

「ふむ、私もだ。誰から、いつ渡されたのか、覚えがない」


「やっぱりそうか。……お手軽に黒幕に迫れるかとも思ったが、そう簡単じゃねぇわな」

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