役得なのか、損なのか


 時間は夜9時過ぎ。

 急遽、ガイトが手配したコテージのリビング。

 三人掛けのソファの前。脱脂綿の詰まった、丸く平たいガラスのケースを各々、目の前に置いて正座する少女が三人。




「一応、ガイトさんから聞いてる概略はこんなとこ。……でね? 前提条件として。問答無用でガイトさんに切りかかるとか、私たちは明らかにおかしかった。っていうのは、そこは認めてくれる。……よね?」


「あの、色々と。申し訳ないというか……」

「うぅ、勘違いしてた、んですよね……?」

「エリーだけ、普通。だったんです……?」


「も、もちろん、私もおかしかったよ?」



 三人の向かいには、ソファに疲れた顔で沈むガイトと、その横でやはり正座するエリーナ。ちなみに彼女のシャーレは、スカートで隠してあって見えない。

 壁際にはエリーナのものも含め、四振りの得物が置いてある。


「ガイトさんに戻してもらったんだ」

「戻してもらった?」

「つまりは、“取って貰った”。と言うことですか?」


 全員の顔が真っ赤になり、ガイトは顔に出ないまでも背中に汗が伝う。


「コイツは、お前らよりは多少だがまともな部分が残ってたからな、一発、喝を入れて素に戻ったタイミングで、その、自分で、なんだ。……ほじくりだした?」

「ガイトさん、だから言い方!」

「うるっせぇ、だまってろ。――だからお前らの分についても、身体にも何ら傷をつけることもなく、あっさりと簡単に、上手く取り出せた。なにしろ、自分で一度やってるからな」


「ガイトさん、私……」

「自分で言ったんだろ? 彼女らの解呪の儀式については一生誰にも、何も言わない約束だ」

「ううぅ……!」


 話は約2時間ほど遡る。




 倉庫入り口付近。

「このコードを差し込むと、曲げるときにパワーアシストがかかってライトも点く。さっきも言ったが薬が弱い。早くしろよ?」

「ガイトさん、やっぱり私じゃ無理っ!」


 一応、友人達のスカートの中から下着を剥ぎ取るところまでは何とかしたのだが、エリーナの心はそこでくじけてしまった様だった。


「そう言わずに頼む。俺じゃ何かとだな……」

「私じゃ無理です! 終わるまで横向いてます。動画も写真も取りません、一生黙ってます。ガイトさんからみて興味の対象になるなら、私で良いなら、そしたら、その……。エッチなことでも何でもします! だから、みんなを助けてあげて……!」


「もう降参だ、……逆なんだよ逆!」

「逆って、なんですか……?」

「お前一人だって、色々抑えるの、大変だったんだよ! たった一日で女子高生四人分だぞ!? なんなんだ、って話だよ!」


 何故か、ここまで飄々ひょうひょうとしていたガイトがキレる。


「あの、ガイトさん……?」

「そうそういつまでも、硬派のフリなんかできるか! じっくり見なくちゃいけないし、指先で色々触んなくちゃいけないし、気にしなくてもニオイだってする!」


「さすがにニオイって、私……」

「別にニオイフェチってわけじゃない。仕事柄、人より鼻が利くんだ。そこは勘弁しろ。……決してイヤなニオイじゃ無かった、とあえて言っておく」


「それはそれでちょっと……。でも全部、必要だから。でしょ?」

「俺だって聖人じゃないんだ、健康な男なんだよ! 相手は女子高生だぞ!? 見たいし触りたいし嗅ぎたい、つってんだっ! 言わせんじゃねぇよ! ……ほんと、マジで勘弁してくれ……!」


「私がこれで取ったことにしますから、だからお願いします」

「いや、あのな……?」

「何なら私が素手で取った、でもいいです! 絶っっっ対、誰にも、本人達にも! 一生言いませんから!」

「それはそれで、ある意味ますますタチが悪くないか?」


「あの部屋で目が覚めた時の頭がスッキリした感じ、忘れません。だからみんなも、助けてあげて下さい。……それに私、実は。うぅ、もの凄く、不器用なんです……!」


 エリーナはそういうと、床にお尻を付けて泣き始める。


「機械とかすごく苦手なんです、スマホだって電話とメッセしか。カメラだって普通の写真しか撮れない、絶対無理です! ケガさせちゃう! それも、その、みんなのあそこ……。あの、大事なところを。もしも。何かあったりしたら。ホントに責任取れない!」


「……それはマジで言ってんのか」

「この状況下で嘘なんかつかない。こんな複雑な機械、動かせないよ、絶対に……」



「だったら、直接指を入れればかえって簡単だ。お前のときには俺もそうしたんだけどさ。触ればすぐわかる。体育会系だから爪、切ってるだろ?」

「もっとムリ、です……」

「難しいことは何も無くてだな……」

「……せめてそこは、友達で無ければ、なんとかできたかもだけど。さすがにそれは」



「俺がやると、……多分興奮するし、じっくり見るし、必要以上に触るかもだぞ」

「さっきガイトさんに言った通りです。私、横向いてるし、写真も動画も音声も残さない。私はなにひとつ目撃できないし、音を聞き直すこともできないので、何があったかなんて、知るわけありません! それに……!」


 エリーナは、泣きながら大真面目な顔でガイトに向き直る。


「私のときも、必要以上のことは何もしなかった。眠ってたけど、意識は無かったけど、何も覚えてないけど。でもそれは私、よくわかってますからっ! ホントに、わかってますからっ……!」


「もう良い、俺の負けだ。時間をかけずに間違いなく取り出すために素手でやる。それは了承してくれ、それと、タオルケットも持ってきてる、広げたら全員上半身も裸にヒン剥いて、脇と首筋におかしなものがないか調べろ。具体的には、手触りに違和感が無かったらそれで良い」

「……はい」


「もう一つ。お前ら四人だけで完結してるんだろうが、全員ブラとパンティに例の発振機が仕込んであるな? カッターはそこにある、お前はそれを外せ。それと、護身術の彼女は。なんだ、胸がデカいからな。直接見えない以上、ブラを外したときに下乳の裏も探れ」

「えっと。えー、……あ、はい」


「必要なんだ、っつってるだろ。時間がない、納得してくれ。 ……カバンの中に蒸留水と洗浄液、消毒薬とあとローション、――あぁ、そうか知るわけないな。皮膚同士の摩擦を減らす潤滑剤のボトルが入ってる。準備しろ。五分で三人終わらせたら、すぐに服を着せて車に乗せるとこまで。二〇分でやる」

「……はい!」





 そして再びコテージのリビング。


「あー。その辺は今は良い。いずれ女子高生相手に手荒なことをしたのは、それはこっちも悪かった。――そして全員、まずはその正座を今すぐやめろ、マジで。……座れるだけのソファがあるんだから、そっちに座れ」


 全員、おずおずと立ち上がると各々シャーレをもってソファに移動し、ローテーブルにそれを置く。

 エリーナもガイトの隣に収まるがシャーレはスカートのポケットにしまった。

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